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Life6 ロイヤル・ストレート・フラッシュ

 今回、ひねもすの被害にあったのは年もまだ20歳くらいの若い男。


 彼は大富豪の家の次男。仕事はおろかバイトもしたことがない。というかする必要が無いのだ。親馬鹿の父が毎月お金をたくさん次男の家の金庫に入れてくれるのだから。


 だが彼は金庫の中にあるお金を使おうとはしない。彼は生まれてこのかた何かに熱中したことが無い。しいて言えば、新聞を読むことと、毎日行っているポーカー占いくらいだ。


 昔から親は彼に色々な物を与えていた。子どもの頃は、ゲーム。漫画。レゴブロック。人形……etc。大人になっても、車やバイクを買ってもらっていた。

 しかし彼は興味を示さない。


 人と関わることも嫌い、学校では一人も友達が出来なかった。

 かといって苛められていたわけでもなく、学校では空気のような存在だったのだ。


 そんな彼なのだから、ひねもすの被害にあったからといって動じることは無かった。


 彼は、人なんていくら長生きしても100数年しか生きられない生物だと割り切っており、それが少し早いだけという考えしかないのだから動じることが無いのは当たり前とも言えるが……


 彼はいつもしていることと同じく、朝刊を手に取り新聞を読み始めた。


 これも事件が気になるから新聞を読むのではなく、少し目を使おうとしているだけである。しかし今日はいつもと違い、気になる記事を見つけた。


『一人の女性が謎のテレパシー(ひねもす)を止めるため町で呼びかけ』


「機械から現れる天使がテレパシーから人々を救う……馬鹿げた話だが面白い話だな」


 彼は、その記事の内容に生まれて初めて興味というものを示した。小さな記事であったが、彼には一面記事の数倍も大きな話だと思えた。


 彼は死ぬ前に、その女性に自分の金庫にあるお金を全て寄付しようと考えた。


 彼は早速お金を詰めたトランクを持って、女性が呼びかけをおこなっている町へ向かった。


 彼は女性を見つけたが、それよりも女性の周りで罵声を浴びせている人間達が目に入った。


「こんなんだから人間は嫌いだ。どんな馬鹿げた話でも少しでも救われる可能性がある。そんないい話を自ら断ち切ろうと考える。馬鹿な生物め。ある意味このテレパシーは消えないほうがいいかもしれないな。馬鹿は消えたほうがいい」


 彼は、そう呟くと、呼びかけをおこなっている女性に近づきトランクに詰めた大量の金を女性に渡した。


「寄付しに来た。役立ててくれ」


 トランクを開けると大量の金が詰まっている。女性も、そんな大量の金を簡単にもらえるわけがない。


「駄目です。私は寄付とかそういう目的で呼びかけをおこなっているわけじゃないんです」


 女性は受け取りを拒否した。


「いいじゃないか。別に損するものでもないんだ。役立つのは確かだろ?」


 女性は返す言葉が見つからず、小さな声で「そうですけど……」と言った。


「だろ。だから快く受け取っときな。応援してっからさ」


 彼は、そう言うとその場を立ち去ろうとした。しかし、女性が立ち去ろうとする彼を止めた。


「ちょっと待ってください! 応援してくれるなら一緒に呼びかけやりませんか? 人がたくさん必要なんです!」


 女性が必死で彼を呼びかける。彼は後ろを振り向き、少し笑いながら言葉を返す。


「それが出来ればいいんだが、残念ながら俺は死ぬんだ。あんたが止めようとしてるテレパシー……いや、ひねもすによってな」


 女性はそれを聞き「あっ……ごめんなさい……」と言うと、なんだか悪い事を聞いてしまったという表情になり、それ以上、彼に語りかけることは無かった。


 彼は、フッと笑い、その場を立ち去った。


「さっきは馬鹿なんて消えたほうがいいと思ったが、馬鹿にも美しい馬鹿はいるものだな。そいつらは生き残るべきだ。そいつらに賭けてみるのも悪くは無い……か」


 彼は、そう呟くと、ポケットからトランプを取り出しシャッフルを始めた。これは、いつものポーカー占いをするつもりである。


 ポーカー占いとは単純なもので、シャッフルしたカードを上から5枚引き、出る役の強さによって運勢を決めるというものである。


 彼はシャッフルしたカードの上からカードを5枚引いた。

 引いたカードを見た途端に彼は爆笑した。恐らく人生で初めての爆笑であろう。町を歩く人も彼を見た。


 そう。彼はあの役を引き当ててしまったのだ。


『10』『J』『Q』『K』『A』『ALL』『BLACK』『SPADE』


 ロイヤル・ストレート・フラッシュを……一度も札を変えずにロイヤル・ストレート・フラッシュになる確率は1/649740。これはもう笑うしかない。


「あっはっは。なんだこれは!? おい神よ。俺が生まれて初めていい事をしたからこうなったのか? それともあの世で俺に幸運がおとずれるのか!? あっはっは。最後に笑って死ねるんだ。満足して死ねるってのはこの事を言うのかもな!」


 彼は大声でそう言うと、笑いながらどこかへ歩いていった。そして笑いながら消えた。


 あまり感情を表にださなかった彼が、最後の最後に笑うという感情を表にだした。

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