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Life5 世界を救う天使

 現在、世の中で一番の大問題であろうこのテレパシー事件。国も総力を挙げてテレパシー問題を解決しようとしているが解決策はでない。

 まず、何がどうしてこんなことになっているのかすらわからないのだ。手の打ちようがない。


 しかし、そんな難解な事件を解決しようとしている一人の男がいた。


 その男は人気のない町外れにひっそりと建っている民家に住む。

 男の日課は、資金調達のために町から離れたところでバイトをし、バイトが終わると自分の家で何かを製作する。バイトがない日は人の多い町の中心部で何かを呼びかけている。ずっとこれの繰り返し。


 呼びかけも評判は悪く、町の市民が、呼びかけに来る男に罵声を浴びせるなんて珍しいことではない。

 時々、うるさいという理由で殴られることだってある。町から離れたところでバイトをしているのもこれが原因だ。この町での男の評判は最悪と言える。


 しかし男は呼びかけを辞めなかった。そのおかげなのかは分からないが、男の呼びかけに興味を示す人物が現れた。


 その人物は一人の若い女性で、その女性が男に声をかけた。


「すいません。あなたが呼びかけている内容に興味があるんですが、詳しく教えていただけませんか?」


 女性の問いかけに呼びかけの声をとめた男は、少しの沈黙の後、大声で「本当ですか!?」と叫んだ。この声にもうるさいと感じた町の人々からの罵声がとんだ。


「ここじゃちょっとまずいんで僕の家で話しますよ!」


 男は、ウキウキ気分で自分の家の方向へ歩き出した。しかし、女性は男についていこうとする気配がない。どうやら家という単語がひっかかっているようだ。

 それに気づいた男は慌てて誤解を解こうとする。


「そんな心配しなくても大丈夫です。そういう気はまったくないんで。それに、そういう事が目的で呼びかけやってたら、罵声に耐えてなんていけるはずないじゃないですかぁ」


 男は、アタフタしながら女性の誤解を解こうとした。これには女性も、プッと吹き出し、「あはは。わかった。信じる」と言って男についていった。


 家へ向かう途中、男は女性に対し、気になったことを質問した。


「どうして僕の呼びかけに答えてくれたんですか?」


 ストレートな男の質問に対し、女性はさも当たり前かのようにニッコリとした笑顔で答える。


「だって、凄く一生懸命なのが伝わってきたんだもん。本気で何かしようと思ってないとあそこまで一生懸命にはなれないよ。だから声をかけたの」


「そうですか。野暮な質問失礼しました!」


 女性の返答に対し、男はとても嬉しそうな声色でそう答えた。

 こんないい人と巡り合えた。男はこの偶然に感謝した。


 男は、女性を家の中に入れると、まずはいつも製作している何かの設計図を見せた。


 その設計図を見てみると何かの機械のようで、複雑な構図が書かれている。

 その機械の設計図を見て、思わず女性は「これは何の機械なの?」と聞いた。


「これは、ひねもすで苦しむ人達を救うための機械なんです。機械の中から現れる天使が救ってくれるんだ」


 ひねもすとはテレパシーのことで、ひねもすの元々の意味は終日と読み、一日中という意味。言い換えると朝から晩まで。つまり一日の命ということで、男はテレパシーの事をひねもすと呼んでいる。


 女性が「天使が現れるってどういうこと?」と質問したのに対し、男は楽しそうに話を始めた。

 正直、男の話す話は奇妙で理解に苦しむ話だった。


 機械の中から天使が現れる……普通では考えられない話だ。しかし男は大真面目。話を聞くと、その機械にたくさんの人が「ひねもすから救われたい」と思いを念じると、機械から天使が現れ、ひねもすから人々を救ってくれるというのだ。


 男は、こんな奇妙な話を熱心に語った。女性も嫌がる様子も無く熱心に男の話を聞いた。そして、女性は一つの疑問を男にぶつけた。


「なんで人を救おうとするの? あんなに罵声を浴びせられてるのに……」


「確かに今は罵声を浴びせられています。でも、人々がひねもすで苦しんでいるのは確か。今はなんと言われようと、僕が作った機械でひねもすを消すことが出来ればきっと罵声はやみます。そして、人々の苦しみを消すことが出来ます。僕はただ苦しんでいる人々を救いたいだけ。ただそれだけです」


 男は当然と言った顔でそう言った。それを聞いた女性は、スッと男に対して手を伸ばした。


「うん。あなたはいい人だ。私の名前はのぞみ。私が機械に思いを念じる第一号になる。あなたの名前は?」


 男は、目をウルウルさせながら望の手を握り、「僕の名前は堅二けんじ! ありがとう。生きててよかったぁ!」と言った。


 それからしばらく二人は一緒に行動を共にした。堅二が望に機械の製作のノウハウを教え、望も段々と機械を製作できるようになっていった。


 二人で一緒に思いを念じてくれる人を探すための呼びかけもおこなったりもした。当然、罵声を浴びせられまくりなわけだが……


 堅二は、自分と一緒に罵声を浴びせられている望を気づかい小声で語りかけた。


「ごめんね。こんな罵声浴びせられることになっちゃって……嫌ならいつでもやめていいからね?」


 堅二が望に、神妙にそう語りかけると、望が堅二をキッと睨んだ。


「何言ってんの! 人を救えば罵声はやむんでしょ! こんな罵声へっちゃらよ。私だってこんなビクビクする日常嫌だもん。人々を救いたいもん!」


 その言葉を聞いて、堅二は、「ごめん。僕が悪かった」と謝りながらも少し笑顔で謝った。


 だが、こんなことをずっと続けていられるほど世界は甘くなかった。ひねもすが無常にも堅二の名前を伝えたのだ。


 ひねもすが頭の中で流れている間、望は泣き続けた。わんわん泣いた。そして、堅二はというと……


「泣くな!」


 堅二が叫んだ。望はビクッとなり、わんわん泣いていた声が止まった。


「君は泣いちゃ駄目だ。君はまだ人々を救える。僕には出来なかったけど君には出来るんだ。そして何より、僕は君の涙を見たくない。さぁ、今日も呼びかけに行こう」


 望は静かに頷いた。そして堅二は同じように呼びかけた。望は悲しみからか、あまり声が出なかった。

 二人で行う最後の呼びかけ。賢二の名前をひねもすが伝えたとしても、人々は罵声がやめなかった。むしろ、「この期に及んでまだ続けるのか!」と、罵声のネタが増えただけであった。

 望は流石に反論しようとしたが、それを賢二が制止する。ここで反論してはもう希望はない。それが賢二には分かっているから。そして、それが望に伝わったから、二人はいつものように呼びかけを続けた。


 そして一日が過ぎ、堅二が消えた。賢二が消える時も望は泣かなかった。グッとこらえた。そして消えた後も、望みはまだ涙があふれるくらいに泣きたかったが、泣くのをグッとこらえた。人々を救おうとしてる人間が泣いている場合ではないのだから……


 望は一人になっても呼びかけをやめなかった。『ひねもすを阻止するためにご協力ください!』という看板を持ってずっと呼びかけていた。資金を稼ぐためにバイトも始めた。


 人々の罵声はやむことはない。しかし、たまにいい人だっている。


 望もビックリするほどの大金を寄付してくれた人がいたのだ。


 これでバイトを辞め、製作に専念することができる。望は喜んだ。


 望は今も製作を続けている。堅二が設計したこの機械から現れる天使がひねもすを阻止してくれることを信じて。いや、阻止してくれるだろう。あれだけ人々を救うことに熱心だった堅二が設計した機械なのだから……

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