Life2 家出少女
4年前。ある少女が家出して行方不明になった事件があった。その少女はまだ発見されておらず、ちまたの噂ではもう死んでいるんじゃないかと言われていた。だが、その少女は生きていたのだ。それは、思わぬところから流れてきた確信的な情報。
そう。あのテレパシーである。あのテレパシーから少女の情報が流れたのだ。住所もしっかりと実家のものであったから間違いない。
この生存情報には流石に喜ぶ人はおらず、家族もみな嘆いた。
情報が流れたその時、少女は自分がどこにいるのかばれないように、実家から遠く離れた森の中にいた。
少女は太陽の光が嫌いだった。だから光を見ないようにずっと森の中にいた。実はこれが森の中で暮らしている一番の理由だったりする。
しかし、少女だって心がある。少女は死ぬ前に一度、外の光景を見たいと思ったのだ。
少女は、約4年ぶりに森から外に出た。当然。太陽の光がない夜にであるが……
星が輝く夜空の中を少女は歩く。
少女は、4年間も森の中で生活していた。なので、体中泥だらけで衣服もボロボロ。更に臭いもきつい。例えるならば本格的な獣の匂いである。
だが、「森の中に居たのにどうして?」と驚くくらい、少女が被る帽子は綺麗だった。少女は帽子がお気に入りなのだ。別に誰かに貰ったからとかいう理由ではなく、嫌いな光を遮ってくれるから。ただこれだけの理由なのであるが。
そんな異様な人物を見たら、誰だって不気味に思うであろう。街歩く人は、みんな少女を避けて歩く。
そんな人からの視線や行動に、全く動じることなく歩いていた少女。
しかし、少女はある光景が目に入ると、歩いていた足を止め、その場所へと駆け寄った。
少女が目に入った光景は、一つ街灯が灯されただけの暗い公園で、ブランコに座っている少年。少女は、その少年が凄く気になったのだ。なんだか自分と同じ匂いがして……
「そこで何してるの?」
少年に駆け寄った少女は、真っ先にそう尋ねた。
少年は、突然声をかけられたので、ビクッとすると、座っていたブランコから立ち上がり、少女をジッと睨みつけた。
「姉ちゃん何者? もしかして僕を連れ帰りに来た人? そうなら僕帰らないよ。絶対に帰ってやるもんか!」
少年は、そう少女に吐き捨てるように言った。
「違うわ。私はただ君がなんでここにいるのか聞きたいだけなの」
少年は疑うような表情で、そう言った少女を見た。
「そう言う姉ちゃんはなんでこんなとこにいるのさ。顔も泥だらけだし、服もボロボロ。怪しすぎるよ」
「私? なんて言ったらいいんだろう……あまりうまくは言えないけど、家出した人の成れの果てってところかな。恐らくだけど、君も家出してきたんでしょ?」
少女は、悩みながらもそう答えた。
「えっ!? なんでわかったの?」
少年は驚きながら、そう言葉を返した。少女は、そんな少年を見てフフッと笑った。
「やっぱりそうなんだ。なんだかそんな気がしたんだ。でも、早くお家に帰ったほうがいいよ。君もまだ小さいんだから、親も心配してると思うし。探し回ってるかもよ?」
少女の言うとおり、少年はまだ幼かった。見た目的にも小学生高学年といった感じで、声もまだ高い。変声期もきていないのだろう。
「嫌だ! 帰りたくないよ……家へ帰ってもうるさい親がいるだけだし、学校へ行っても嫌な奴ばっかりで、楽しいことなんか一つもないもん!」
暗く静かな公園に、少年の思いが鳴り響いた。それを聞いた少女は、なんだか悲しそうな表情をしながら空を見上げた。
「同じね。私もそんなこと思ってたわ。もう何年前になるかわからないけど、12歳の時に君と同じような感情になって家を飛び出したの。初めは楽しかったわ。親の財布からお金を盗んで、見たこともない遠い場所へ行ってね。でもね、それは初めだけだったの。時が流れるにつれ不安になってきた。だから、私は森に隠れて必死で生き延びてきたわ。そこで私は生きた動物も食べてきた。たまに、どうやって言葉を発するか忘れたりもしたわ。それくらい森にはなじんでいたの。でもね、私が森で一時も忘れず思ってたことってなんだか分かる?」
少女は空を見上げながら、悲しそうな口調で少年に問いかけた。
「寂しかったの? 姉ちゃんは、家に帰りたいと思ったの?」
少年も少女の問いかけに答えようと、自分が思ったことを思ったように話した。
少女は静かに首を縦に振った。
「でもね、もう帰れなくなるの。自分の心に整理がつかなくなるのよ。帰っても親は私のことを覚えてないんじゃないかってね。今じゃ、うるさかった親はもちろん、私を苛めていた学校の同級生だって恋しく思える。私は家出して楽になりたかったのに、今は苦しんでる。君も覚えておきなさい。本当に家出するっていうのは楽になれるんじゃなくて孤独になるだけ。だから家に帰りなさい。家に帰れば君を心配してくれている人がいるんだから」
少女は、少年の肩に手を乗せてそう言った。
そう言われた少年は、力強く「うん!」と言って答えを返した。
「ありがとう姉ちゃん。僕、家へ帰ります。姉ちゃんも、家へ帰ってあげなよ。家に帰れば姉ちゃんを心配してくれている人がいるんだからさ」
少年は、少女に一つお辞儀をすると、家へ向けて走っていった。
公園に一人になった少女は、「家かぁ……もう遅いよねえ……今日だって最後に一目親の顔を見ようと外へ出たけどやっぱり駄目だった」と呟いた後、夜空を見上げて祈るように「あの世で家族と再会できますように」とお願いした。
そして、少女は消えた。
誰もいない街灯が一つ灯されただけの公園に残るものは、少女の切実な願いだけだった。