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愛と平和の無法者

プリンと林檎の待望の1作品目です!



episode1

水の都アクアマリン。

いつの間にかそう呼ばれていた街があった。

その街外れに一軒の…家とは言いがたい。

アジトのような、とでも言い回すべき店があった。

店といってもなんでも屋。

俗にいうよろず屋である。

それを営む『管理人』と呼ばれる二人組みの女。

この物語はそんな彼女達の物語である。



カチャカチャと止むことのないゲーム音。

起床してきた赤メガネの女がリビングへ入ると散らかった机が目に入った。

「おはよー…。」

彼女は欠伸をしながら呟いた。

「おはよう。」

それにソファに寝そべって携帯ゲームをしているもう一人の女が答えた。

「あかり…またゲーム?」

この有様からまたゲームで一夜漬けだったのだろうとメガネの女は察した。

あかりと呼ばれた女は器用にゲームを続ける。

言われたことが気に入らないからなのか彼女は話題を変えた。

「…プリンセス、そういや電話が二件来てた。」

「順番に。」

赤メガネの女、プリンセスは気にすることもなく近くにあった自分の椅子に座った。

「1件目、クマが飼ってた犬が逃げ出したってさ。」

「…またかよ。全く、これで何回目だと思ってるの。いつも餌がシャケだから嫌になっちゃったんじゃない?次の要件もペット探しじゃないでしょうね。」

プリンセスは少し不機嫌そうだ。

連日、2日起きくらいにこうして犬が逃げ出しただのとちょっとしたペット騒動があったからである。

「いいや、違うよ。いっちゃんから銃2丁の捜索依頼。…危険物だから早めにお願い、だって。」

「…そうね。リミッター無しの銃ですもの。」

やらかした、とでも言いたげに自分の机の上にあったハンドガンをおもむろに手に取るプリンセス。

「まぁ 普通に考えてペット探しとじゃ重大差が違うね。…で、どうする。」

軽口を叩くゲーム中の女、あかり。

「責任を持ってお預かりすると伝えて。」

「あたしが?………りょうかい。」

あかりは少し不満の表示を浮かべたがすこしして、不本意ながらも同意してゲームに集中するのだった。



「さて…何か飲む?」

眠気覚ましにとプリンセスは立ち上がり、冷蔵庫を漁る。

「あたし”は”要らない。」

あかりは起き上がるとソファに座りなおした。

その言葉は”意味深”としても取れる。

「あぁ、そう。」

プリンセスは平然とティーカップを二つ程取り出して並べた。

そこへタイミングを見計らった様にショートヘアの女が一人部屋に入って来る。

「おー、我がアクアマリンのリーダーもえみ様のお出ましだぁ〜。」

「だからその呼び方はやめろ…って寒い〜。」

その格好は今の季節の割に合わない薄着である。

外から逃げ帰るように部屋に入ると女はプリンセスの椅子の向かいに座った。

「何がいい?」

プリンセスは突然の訪問に動じることもなく対応すると

「コーヒー。」

即答でそう返ってきた。

「冬の潮風は寒くて参るわ〜。」

と、しみじみと語る女をよそにプリンセスはコーヒーを淹れる支度をしている。

そして部屋に響く金属を金槌で叩いたような音。

擬音にしたら カンッ カンッという音だ。

「えっ…ちょっと⁉︎」

コーヒーを淹れるのにこんな音がするのか、と驚いた表情で女はプリンセスの後ろ姿を見ている。

それが数回続くと今度はコーヒーカップを電子レンジの様な家電の中へ放り込んだ。

「あの〜…プリンさーん?」

流石に女も心配になってきたようで立ち上がる。

しかし時は既に遅し。

チンッと無駄に軽快な音がしたと思ったらプリンセスはその中からコーヒーカップを取り出した。

「はい、コーヒー。」

そして女の前に差し出す。

女は如何にも(いかにも)不安そうにコーヒーカップを凝視した。

数秒して、意を決したようにグイッと中身を飲み干す女。

「…! 美味しい…。」

不安の色が段々と変わり彼女の目は自然とパチパチと動いている。

「ねぇ、何処の豆なの?」

女がプリンセスにそう問いかけると一本の金の延べ棒が飛んできた。

「何…これ。延べ棒?」

渡されたのは、なんの変哲もないただの金の延べ棒である。

「そう、それを”変換”して作った。一杯5000円よ、ありがたく飲みなさい。」

プリンセスも女の向かいに座るとコーヒーを口にした。

「なんでわざわざ…?」

恐る恐る聞く女にプリンセスは溜め息をつく。

「…もえみちゃん。私はコーヒーは嫌いだって前に言ったよね?」

「ご、ごめんなさい…。」

ショートヘアの女、もえみは少し沈んだ。



「それにしても…”科学”ってなんでも作れるんだよね。」

銃が散乱する机や棚を一望するともえみは呟いた。

「”可学よ”。ありとあらゆる事を可能にするから可学。例え”魔法”であってもね…。」

得意げに語るプリンセス。

呆れながらも納得したようでもえみはうなづく。

「それで。何か面白いお話かしら?」

プリンセスはもえみがここに来た理由を期待の眼差しで一瞥する。

「プリンにとってはつまらない話かな。」

ポケットをゴソゴソと漁り、もえみは机の上に一丁の拳銃を出した。

「街のチンピラが持ってた。」

「そりゃあどうも。…ってそれだけじゃないんでしょ。」

プリンセスはその拳銃を手に取るともえみににこにこと意地悪く笑ってみせた。

「…私に向けて撃ってきた。」

渋々もえみは答える。

彼女にとってはあまり言いたくない事だったのかもしれない。

「それは災難ね。それで?」

「中見てみ?」

もえみに言われた通りに銃の中、つまりは弾を仕込む場所である弾装を引いて見ると、ボロボロと中に入っていた弾が溢れ落ちてきた。

「汚い銃…。」

うわぁ…と感嘆しながら中を覗くプリンセス。

銃口から少しオイルが漏れてきている。

まるで素人が作った作りの甘い欠陥品と言えるような銃だった。

「だけどそれは実弾。一応聞くけど…。」

「私がチンピラに許可を与えると思う?」

「だよね…密造か。」

プリンセスがこぼれ落ちた分の実弾を拾い集めているとともえみは唸り声を上げる。

「撃ってみてよ。」

いつの間にか銃に弾を込め直していたプリンセスはもえみにそれを差し出した。

「え…私が?」

銃とプリンセスを見比べて驚くもえみ。

「私が撃っても意味ないでしょ。」

「…あぁ〜。」

プリンセスに説得されもえみは銃を手に取った。

「物が壊れないような所にしてよね。」

「へーい。」

何処に撃とうかと銃を構えるもえみ。

「ふん…雑魚が飛び回りやがって。」

とあかりがゲームを片手にドヤ顔を決める。

ステージクリアしたのか明るい音楽が流れていた。

バーンッ

その音楽をかき消すように一筋の銃声が響いた。

銃口はドヤ顔していたあかりに向けられている。



しかし、あかりはスッと身を引いて間一髪 避けていた。

「いたた…。」

銃を撃った反動で痛む手を、もえみはおさえる。

「片手で撃つからよ。」

プリンセスはそう続けた。

しかしいきなり撃たれそうになったあかりは黙っていない。

机の上に置いてあった銃を手に取るともえみに近づく。

「水の都の”リーダー”もそろそろ潮時じゃないのかな?」

あかり意味深な笑みを浮かべて、もえみの額に銃を突き付ける。

「でもちゃんと避けれたじゃない?リーダーは譲れないな。それに、私以外にまだ候補者いないでしょ。」

と もえみは余裕かまして言うも手を上げて許しを請う。

「はいはい。それよりあかり、出所は観える?」

「……町外れの廃倉庫。」

プリンセスに諭されて、もえみから銃を降ろすとあかりはそう呟いた。

「OK。私達が行くわ。」

プリンセスはコーヒーカップを片付け、あかりは其処へ向かう支度を始める。

「わざわざ?別に私が行ってもいいのに。」

「こんなゴミを作った奴の顔を見たいだけよ。…それに。」

「それに?」

プリンセスはふつふつと募らせた怒りをこめかみに浮かべた。

「もえみちゃんには壊した”アレ”を自分で買ってきてもらわないと。」

プリンセスが指差したのは黒煙を上げていた機材だった。

先程、あかりに向けて撃った弾が当たった物である。

「は、はい…。」



店を出て街の郊外へ向かう。

水の都 アクアマリン と呼ばれるだけあってこの街は海がよく見える。

きらきら輝く海の上をカモメが飛び交うのがよく見えた。

しばらく歩いていくと二人の姿を見た小さい女の子がプリンセスに飛び込んできた。

女の子と共に付添人であろう男の姿もある。

「わ〜!プリンセスおねーちゃんだ!」

「おー。ミコちゃんじゃないか。」

プリンセスはよしよしと女の子、ミコの頭を撫でた。

「あ、先輩方。この間はペット探しありがとうございました。」

付添人の男はぺこりと礼儀よく頭を下げる。

「おやすい御用よ。」

「あれ、渡辺くんに娘でも出来たの?」

ふぁぁと欠伸をしてミコを指差すあかり。

どうやらこの人は渡辺というらしい。

「え、あぁ違いますよ。知り合いの子を預かってるんです。」

「そっか〜、あかりはミコちゃんにあったことなかったんだっけね。」

プリンセスはくるりとあかりの方へ向く。

ちょうど小学3年生くらいの子がぺこりと頭を下げた。

「ミコっていうの!ゲームのあかりおねーちゃんだよね?」

「あ…うん。よろしくね、ミコちゃん。 って…どうしてあたしの名前を?」

自然とあかりの目はプリンセスに向いている。

「うふふー、ミコちゃん可愛いでしょう〜。…ん?どしたのあかり、私の顔に何かついてる?」

「いや、どうせプリンさんがあたしのことをミコちゃんに吹き込んだんだろうなーって。」

「うん、正解。」

「…即答かいな。」

ミコは何の話かよくわからないようでプリンセスに別の話題を持ち込む。

「ねえねえ〜、渡辺さんばっかりずるい〜!ミコもなんか作って〜」

「んー、そうだなぁ。ミコちゃんにはもう少し大きくなったらね。」

プリンセスはそう答え、二人はその場を後にした。



「あ、あかりさん。この間はありがとうございました。」

また少し歩いた先で二人に話しかけてきた女性がいた。

一応、二人が営むよろず屋は一部の人々からは有名でお得意様が多く顔も広く知れている。

「あ、恵美さん。見つかりました?」

あかりがそう答えると女性は顔を明るくさせた。

「はい!…あの…どちらに?」

二人の格好を見たからだろうか。

プリンセスの背中には非日常的すぎるほどでかいショットガンが、あかりの腰にはおびただしい数のハンドガンが並んでいた。

それを女性は不思議そうに見つめてくる。

「あぁ、ちょっと”話し合い”に。」

あかりは苦笑いを浮かべて心配ないと言う。

「そうですか…お気をつけて。」



「いい天気ね〜。」

ニコニコと背中にとんでもない物を背負うプリンセスが呟く。

「徹夜明けにはきびしー日差しだよ…」

額に手を当て日差しを鬱陶しい目で見るあかり。

「自業自得ね。」

「全く…くだらない連中のせいで…。」

「それには同意。…どうしてなのかな。」

プリンセスの表情は少し寂し気にも見えた。

「そんな奴らにも何かしら理由はあるはずだよ。」

「…行けばわかるわ。」



所変わってアクアマリンの外れにある廃倉庫。

白と黒のフードを被った二人組みの少女が居た。

まだ中学生のような幼い顔立ちのようである。

「どんな感じ?」

「大繁盛。チンピラにはよく売れるよ。」

「ボロい商売だね〜。」

白フードの少女は高笑いする。

「こんにちは〜。」

そこへまたもや二人組みの女が現れた。

1人は背中にショットガンを背負い、もう1人は腰から複数の銃を下げているという如何にも(いかにも)危険な二人であった。

「…誰?」

上機嫌だった白フードは少し怪し気な目でその二人を見る。

「お姉さん達、ここは立ち入り禁止だよ。」

黒フードも警戒しているようで凝視してきていた。

「はぁ…こんなガキがねぇ…。」

あかりはやれやれと呆れ顔を浮かべる。

「これを作ったのはアナタ達ね。」

衣服の内ポケットから一丁の銃を取り出すと放り出すプリンセス。

どうやらこちらのあからさまな格好に警戒心を抱いたのか。

黒フードが指を鳴らして奥から紅く目を光らせた人形のロボットの様な物を呼び出した。

しかし人とは呼べる様な代物ではなく、なんの感情も持たない黒色のロボットであった。

「アンタ等…警察?」

白フードがそう問いを投げかけた。

「ただの”よろず屋”よ。」

プリンセスは平然として答えた。

ロボの大群を出されても動じないのはあかりもだ。

「どっちにしろ帰すわけにはいかない。」

黒フードも前に出る。

「…大型のマシンガン持ちが3体、ライフル5体、奥に援護射撃隊が4体ほど。…あの二人以外は全部 機械みたい。」

あかりの左目がそう”観えた”。

「何のためにソレを作ったのか教えて。」

床に投げ出された銃を指差してプリンセスは聞いた。

「何って……お金に決まってるじゃん。」

白フードは深くまで被ったその顔を見せて言う。

目は悪そのものだった。



「人が傷つくかもしれないのに?」

あかりは少し表情を変えた。

先程までのふざけ半分だった頃とは違う。

悪を嫌う真っ直ぐな正義の目だ。

「それは使う人の問題。私達には関係ない。 ……って、お姉さん達。もしかして”管理人”って奴?」

黒フードが勘付いたように二人を並べて見る。

「何それ?」

白フードは何も知らない、というように黒フードに問う。

「この街には”管理人”っていう奴が居て、銃器の回収をしてるらしいの。販売もしているけど、無稼働銃しか売ってくれないとか。裏では結構知られてるよ。」

黒フードが白フードにそう教えると白フードは笑った。

そして。

「はは…なーんだ。あんた、ガラクタ職人か。」

そう言った。

それが引き金となったのかプリンセスの眉が動く。

「あ〜あ。」

見ていたあかりはプリンセスの何かがはじけた、スイッチが入ったと悟った。



「囮は任せた。」

ポケットから灰色のメモリを取り出すプリンセス。

「OK…。」

プリンセスはスイッチを入れ、腰のベルトに差し込んだ。

『ゾーン』

メモリはそう発するとプリンセスの腰で鈍い鉛色の光を放った。

フードの二人はそれを異物を見る目で見ている。

カチャリ…カチャリとフードの二人の目の前に銃が落ちてきた。

それは次第に数を増やしていった。

プリンセスの使った”ゾーン”というメモリの力である【物体転送能力】が発動したからである。

廃倉庫中に作り置きしてあった密造の銃は全て目の前に放り出された。

「何…これ。」

黒フードは後ずさりする。

「何が起きたの⁉︎」

白フードは懐から急いで銃を取り出す。

「人を選ばすに銃を与えたこと…少し考えれば結果は予想できるはず。 にも関わらずアナタ達は私欲の為にばら撒いてラブandピースを乱した。」

プリンセス、そしてあかりも各々の手にメモリを握り 目の前に出す。

『ルナ』

『トリガー』

先程と同様に二人は腰にそれを差し込む。

すると金色の光と青い光が二人を包んだ。

二人は銃のスライドを引く。

「「さぁ…。」」

そして目線の先に構えた。

「「愛と平和の餌食になる準備はいい?」」

それが合図となった。



「やれ!」

黒フードはロボの大群に命令を下す。

一斉にライフルを構える前衛の5体。

それに加えて白フードの少女も自作の銃を構えた。

それらが発射されると同時にプリンセスは左に走り抜けた。

あかりはまず射撃の舞を披露するように踊り、それら全てを撃ち落とした。

「甘い。」

あかりに圧倒され、彼女らの動きが止まる。

「…!当たるまで打て!」

黒フードの指示でライフル兵は一斉に射撃を再開した。

あかりの中で再生される”未来予知”

『右腕に1弾、左脚に2弾、脳天に2弾…。』

それをあかりは左目だけで避ける。

右腕を曲げ、左脚を少し下げ、額を貫く弾は頭を数センチずらして回避した。

「甘い!…甘いわ‼︎」

今度はあかりの反撃が始まる。

一見デタラメに両手の銃を乱れ撃ちしているように見える。

が、彼女にとっては”しっかり”と観えているのだ。

「撃ち続けろ!」

黒フードがそう叫んだ刹那。

彼女の両隣に立っていたライフル兵が2体倒れた。

紅く光った目は機能を失い完全に停止した模様。

その一瞬に黒フードは動きが止まった。

残りの三体もメモリ、『ルナ』の効果で【軌道】を変えられた躍弾が命中し、直ぐに落とされた。

「躍弾…⁉︎」

それを見ていた白フードが驚く。

それもそうだろう。

弾が壁や障害物を跳ね返り、命中したのだから。



「…‼︎ もう1人は⁉︎」

二人があかりの乱舞に圧倒されている隙にプリンセスは廃倉庫の二階へと上がっていた。

二階には残りのマシンガン兵3体と援護射撃兵が4体いる。

気配に気づいたマシンガン兵3体は一斉にプリンセス目掛けて射撃を始めた。

それをプリンセスは背中のショットガンで対応する。

銃声一つで弾倉全てを撃ち落としたのだ。

これはメモリ、『トリガー』の効果で【狙った目標は逃さない】

マシンガン兵は追撃しようと引き金を引くもプリンセスによって弾かれた自身の弾で弾詰りを起こし上手く弾が出ない。

そこへショットガンを一発かます。

バリンとガラスが割れてマシンガン兵に突き刺さった。

何発かしてマシンガン兵を全て撃ち倒すプリンセス。

そのうちの1体から転がり落ちてきた手榴弾がふとプリンセスの目に入った。

「手榴弾…。」

目線の直ぐ先にはあかりを狙う援護射撃兵4体が見える。

プリンセスは何かを思いついたように手榴弾を蹴り上げ、手に取る。

そして近くにあった壁に当て、衝撃を与える。

手榴弾を爆破させる準備は整った。

プリンセスが投げた手榴弾は綺麗な弧を描き、タイミング良く壮絶な爆発を見せた。

「おー、当たった♡」

プリンセスはその場でガッツポーズを決めるのであった。



「まさかあんな機材一つが23万もするなんて…。」

とぼとぼとダンボールを抱え、港街を歩く1人の女。

それは先程、密造された銃を撃ち よろず屋の機材を壊した張本人。

もえみだった。

プリンセスに威嚇され、渋々買いに出掛けたのだが 予想以上の値段であったためその足取りは重い。

「今月どうし…。」

ふと何かを感じた様に足を止める。

空気の流れが変わったように感じる”何か”。

言葉では表せるような物ではなかった。

「まさか……‼︎ そこの人!」

悪い予感を感じたもえみは近くで談笑していた通行人、二人を呼び止めてそのうちの1人に機材を押し付ける。

「ソレ、街外れのよろず屋の前に置いといて!」

困惑している通行人を無視してそれだけ伝えるともえみは走り去る。

「え、えっ ちょっと…⁉︎」



所変わってあかりサイド。

遂に最後の一体となる機械兵も倒され、残るは白フードと黒フードだけとなった。

黒フードは危険を感じたのか廃倉庫の奥へと白フードを残して去っている。

白フードは…近くの柱に隠れているのが観通せた。

「流石いっちゃんの作った銃だわ。よく曲がる♡」

軽口を叩いてあかりは銃のスライドを引く。

狙うは白フードの額だ。

ダンッ と銃声を響かせればメモリの能力『ルナ』を駆使して弾の軌道を操作する。

「ひぃっ!⁉︎」

ビクッと白フードの少女の体が跳ねて柱から倒れ込む。

少女は額に命中したようで額を抑えていた。

「安心しなよ、全部ゴム弾だから。…まぁ、それでも十分痛いだろうけど。その身に刻んでおきな。」

あかりは白フードの少女の元へ近づく。

「今回は見逃してやるが、次はないぞ。」

白フードの少女はガクガクと身を震わせる。

少女の口は物も言えぬというようにキツく閉じていた。

「一つ覚えておくといい。あたしはお前を”観ている”」

あかりは最後に少し笑っていた。



「ハァ…ハァ」

と乱れだ息を整える黒フードの少女。

白フードを置いて一旦、廃倉庫の奥へと逃げてきたのだ。

「ここまでくれば…⁉︎」

カツカツと聞こえてくる足音。

段々と近づいてくるその音に黒フードの少女は焦りの表情を浮かべた。

「く、くるな!」

動きを止めようと銃を放つ少女だが『トリガー』使いのプリンセスの敵ではない。

何度撃ってもその弾に当てられ、落とされる。

そして–––。

少女の銃が弾詰まりを起こした。

ガチガチと引き金を引くも上手く弾は出ない。

「アナタの銃は作りが甘い。だからジャム…つまり弾詰まりが起きるのよ。」

ダンッとプリンセスの弾は少女の銃に当てられ、銃は地面に落ちた。

少女は今一度その銃を見つめる。

が、懐から新しい銃を手に取るとプリンセスへ向けた。

「それはアナタには撃てないわ。」

カチ…カチと微かに引き金を引く音がしたが弾はやはりピクリとも動かなかった。

プリンセスは少女の手を取るとその銃を手にした。

そして誰もいない方向を見つけると引き金を引いた。

ダダダダッと良い音がして弾は何発も放たれる。

「どうして…。」

少女は只々(ただただ)目を丸くするばかりだ。

「この銃にはね、リミッターが付いているの。この周辺都市の人には予め”銃の熟練度”が設定されていてね。使用する銃と弾がその値と一致しない場合ロックがされる様になっているのよ。…敵性でない者の使用を防ぐ為にね。 そしてその敵性を決めているのが私。それが”管理人”と呼ばれている理由よ。」

「じゃあ…この街の銃は…。」

少女の言葉は泡の様に消え入りそうな声だった。

「この周辺都市で販売されているのは全て私の銃よ。」

「そんな…そんなシステム、いつか破綻するじゃないか‼︎」

「やってみなきゃわからないでしょ?」

それ以上、少女は喋らなかった。

目の前の無茶苦茶な女に圧倒されていたのだ。

相手の戦意が無いことを確認したプリンセスはメモリを外す。

「アナタは絶対良い技師になれるわ。…だから次は人の助けになってあげて。…アスタラヴィスタ。」

そう言い残し、プリンセスはその場から立ち去っていく。



早くあかりと合流しなきゃな、なんて考えていた矢先。

1人の男とすれ違った。

黒いコートを身に纏い、背中に物騒な黒い大鎌を携え待ている。

そして男は先程の黒フードの少女の前に立つ。

少女が顔を上げた瞬間。

「死ね。」

男は背負っていた鎌を振り上げた。

鎌は真っ直ぐに少女に振りかかった。

…いや正しくは”振りかかろうとした”のだ。

そう、間一髪 プリンセスがショットガンで受け止めたからである。

少女はわなわなと全身を震え上がらせた。

そして自分の置かれている状況に焦りを見せる。

「逃げて!早く!」

プリンセスは少女に叫ぶ。

ギリギリと鎌が銃と擦れるのがわかる。

このままでは少女も自分も助からないと思ったからだ。

少女が逃げる。

その一瞬の間に男は鎌を振り、プリンセスを銃ごと吹き飛ばした。

瓦礫の崩れる様な音と共にプリンセスは倉庫の奥から入り口の前まで飛ばされる。

「プリンさん⁉︎」

突如として飛んできたプリンセスに驚くあかり。

「誰⁉︎なんであの子を殺そうとしたの⁉︎」

プリンセスは自分がやられたことよりもこの状況に困惑している様だった。

「アイツ等はまた同じことを繰り返す。」

ジリジリと距離を縮めてくる男。

「そんなことは無い!あの子達はやり直せる‼︎」

プリンセスは立ち上がり、ショットガンを打撃用の武器のように構える。

「お前……鈴木プリンセスか?」



男は思い出したかの様にプリンセスを一瞥した。

「そうよ。」

「街で売ってる銃はお前のだな?」

「…だったら何?」

男が鎌で空を切る。

その鎌の刃には紅く古代文字のような、普通では読め無い記号のような物が映った。

「…あかり…逃げて…。」

紅い記号を見て、恐ろしい何かを思い出したようにハッとするプリンセス。

あかりへの忠告も掠れるような声にしかならない。

「何だ…コイツ…。」

あかりの左目は彼の姿を影の様にしか、朧げにしか捉えなかった。

プリンセスがショットガンを鎌と同様に構える。

彼の先制攻撃をプリンセスが横飛びで回避した。

「プリンさん!後ろ‼︎」

プリンセスが振り返る直前に。

彼の攻撃の準備はもう出来ていた。

鎌を振ろうとした瞬間。

またしても彼に邪魔が入った。

今度は細い針のような物が数針飛んできたのである。

彼の振る鎌はプリンセスではなく針を跳ね返す。

「間に合った…。」

「もえみちゃん…‼︎」

針を投げてきたのはもえみであった。

男は不満気に顔を曇らせる。

「プリンセス…下がってて。」

もえみは段々と男に近づいていく。

「でも…!」

「鎌の刃に見えた”アレ”を見たんでしょ?」

プリンセスの足を止めるには十分過ぎる一言だった。

「頼むから…守らせて。」

プリンセスとあかりは目配せをしてうなづくとその場を去った。



「久しぶりじゃない?…ええっと…幸平…だっけ?」

二人が立ち去ったのを確認するともえみは彼の名前を自信なさそうに呟いた。

彼は溜め息をつくと。

「…和希だ。」

と返ってきた。

「あぁ!そうそう!」

「お前…この街で何をしている?何故アイツはまた銃を作っているんだ?」

沈着冷静そうな男の口からは疑問が二つ出た。

「彼女は…諦めなかった。馬鹿みたいな理想を叶えるために…ね。私もそれを見たくなったんだよ。」

もえみは少し笑う。

まるでこの状況下の中でも楽しそうに。

「そこをどけ。そんな理想、俺が片付けてやる。」

男が再度、鎌を構えた。

「させない。」

もえみも剣を引き抜く。

それは大き過ぎず、小さ過ぎずの刃が黒い細身の剣であった。

「プリンセスは私が守る!」

それが戦いの合図だった。


両者ともぶつかり合い、鎌と剣を振るう。

しかし、カンッカンッと擦れ、火花を散らすだけでお互いの体にダメージはない。

ジリジリと距離を詰め、鎌のリーチの長さを逆に利用したもえみが脚で鎌を抑え、剣で男の体を貫こうとするも 相手は”男”だ。

力の差はどうしても出来てしまう。

抑えられていた鎌をいとも簡単に振り上げるともえみの体制は大きく崩れた。

その隙を彼は逃さない。

もえみの肩に蹴りを一つ浴びせた。

空中で体制を戻しながら、もえみは着地して距離を取る。

瞬時に懐から針を4つほど手を取ると彼に投げた。

それからしばらく針の投げ、受け合いが始まった。

もえみが針を投げれば彼は避けたり、鎌で弾いたりする。

彼が針を鎌で落としたその瞬間。

もえみは右手を鳴らした。

その手には赤色の宝石が埋め込まれた指輪がはめられている。

パチン、音が鳴ったと同時に彼の周りに散らばる針は爆煙を上げた。

「クッ…‼︎」

彼はコートで火を振り払う。

そして黒煙の中から鎌を振り上げ、もえみに飛び込んできた。

「わっ⁉︎」

即座にしゃがみ込んでもえみはそれを避けた。

後ろにあった柱を利用して彼は背後からもえみを打とうとする。

もえみは振り返り、その鎌を剣で受け止めた。

もう一方の手で針を一本だすと彼に投げる。

そしてパチンと指を鳴らせば二人の間には爆煙が降りかかる。

お互いに距離を置く。

「それで終わりか?」

男はもえみを挑発した。


『アクセル』

もえみの手には黄色のメモリが握られていた。

プリンセスやあかりと同様のメモリだった。

それを腰のベルトに差し込むともえみの片目は黄光を帯びる。

「一つギアを上げていくよッ!」

もえみの服の両袖から刃物がチラつく。

仕込み刃だ。

『アクセル』の効果【加速】でもえみスピードは上がる。

もえみは男の顔を刃で斬り裂こうとした。

男はそれをスレスレで避ける。

その隙に目にも留まらぬ速さでもえみは男の背後に周る。

「吹き飛べ…ッ‼︎」

伸ばした手から赤い宝石が光を上げた刹那。

廃倉庫を大爆発させた。

火は直ぐに消えるも、その破壊力は半端ではなかった。

「……全力だったんだけどなぁ…。」

爆煙が晴れてくるともえみは肩を落とした。

すこし離れたところに男は健在していたからである。

「…おい、あの速度 どんなカラクリだ?」

鎌を肩に掛け、男はご立腹のようだ。

すこし考え、もえみは口を開く。

「”可学”の力だよ。…まだやるっていうなら…こっちも使わせてもらう!」

もえみは右手の仕込み刃の表面を男に見せつける。

そこには男の鎌と同様に刻まれた記号があった。



「わかったよ…今日はこの辺で勘弁してやる。」

男は手を左右に振り、鬱陶しそうにもえみの刃を見つめた。

「皮肉なものだな、その刃を向けられるとは…。」

最後にそう言うと彼は鎌を再び背負い、黒いコートのフードを深く被ると来た道を戻るように何処かへと歩いて行った。

もえみはその様子を見届けるとアクセルメモリを外した。

仕込み刃もしまい、黒剣も鞘へ納めて懐にしまった。

「もえみちゃん‼︎」

全速力でプリンセスがもえみの元へ走ってきた。

後ろからあかりも歩いてくる。

「大丈夫⁉︎怪我してない⁉︎」

もえみの肩を揺するプリンセス。

もえみは呆気に取られていた。

「大丈夫だって!」

「よかった〜。」

プリンセスは安心したようでその場にしゃがみこむ。

「何なんだよ、アイツは。」

男が去って行った方を見てあかりは呟く。

「あの人…もしかして…。」

プリンセスは心配そうにもえみを見つめる。

「大丈夫、しばらく出てこないと思うよ。…さぁ、帰ろ!」



「そういえば密造者は?」

プリンセス、あかり、もえみはその後 よろず屋に帰ってきた。

もえみの座る椅子の前にある机の上には通行人に託したダンボール箱が置いてある。

もえみは自分の家の様にくつろいでいた。

「アイツ等なら大丈夫だよ。」

あかりはいつもの定位置であるソファを陣取って大好きなゲームを再開していた。

「そう?なら放っておくかな。」

もえみは軽快に呟く。

一方、プリンセスは自分の机につっ伏せていた。

そして起き上がる。

「ダメね…あの人の事ばかり考えていては…今、自分にできる事をしなくちゃ。」

「頑張れ、”管理人”‼︎」

あかりはプリンセスにピースサインを送る。

「一応アンタもそうだからね!」

プリンセスはそれに対して両手でハートマークを作った。

意味はラブandピース。

愛と平和な世界を求めて、今日も二人は進む。

episode1

––fin.


閲覧ありがとうございます!

次話もよろしくお願いします(^^)

ラブandピース、愛と平和の餌食になる準備はいい?

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