表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

第一部  第二章 大会崩壊と少年 その3

     3


 カオスが武闘大会に参加することにしたのは、単に賞金が目当てだった。

 優勝賞金五万デント。四、五年は裕福に暮らせる額だ。

 二人の復讐への第一歩はシャイアを探すことだった。三叉の矛の規模がどれくらいなのかわからないにしても、こちらも仲間を集うほかになかったからだ。まずは、故郷を奪われ、復讐心に燃えるシャイアを探すことに、カオスとメテアの意見は一致した。

 旅を続けるにはどうしても資金が必要で、そこに飛び込んできたのが武闘大会の情報だった。もちろん、メテアの強制でカオスが参加することになった。

 町の中央広場に大きな噴水があり、その脇に大会に参加するための受付場があった。

 カオスが登録しようとしたとき、彼らは驚く出来事に遭遇する。

 大会の主催者が、なんとシャイアであったのだ。

 彼のほうからカオスたちを発見して声をかけてきた。

「カオス。それにメテアも。君たちは無事だったんだね。よかった」

 両眼が黒いレンズで出来ていて、カオスの顔がゆがんで映っている。しかし、このかわいらしい眼が、シャイアの恐ろしい能力を引き出す。

 彼の能力は強力催眠。仮面を被っているモノ同士では精神支配が出来ないという常識は彼には通用しない。如何(いか)なる相手であろうと、シャイアの前では、無防備な赤子同然なのだ。どんなつわものも、彼の意思どおりに支配されてしまう。

 無敵の能力だと思われるが、ひとつだけ弱点がある。それは、能力発動のための精神集中が、他の人のそれよりも長い、ということだった。

 そのため、彼には仲間たちがどうしても必要だったのだ。

 忌み嫌われる、シャイアの『支配』という能力だが、人のいい性格が、村人の誰からも愛されていた。頼れる兄貴分といった感じだった。

 ここ、スイトの町はミナスという三叉の矛幹部の男が支配していた。

 シャイアは町民の生活士気を上げるという名目で、大会開催を申し出た。

 ミナスは怪訝な顔をしたが、大会での売り上げ七割の献上を条件に、首を縦にふった。

 大会ルール。

 戦闘不能におちいるかギブアップで勝敗は決す。相手を死亡させると反則負けで、さらには禁固刑に処される。能力以外の武器の使用は禁止。時間は無制限。

 シャイアの目的は、この大会で人材をあつめ、反乱(レジスタ)(ンス)をつくることだった。

 くしくもカオスたちとシャイアの思惑は合致していたのだ。

「じゃあ、ボクは大会に参加しなくてもいいんだね」

 シャイアの思想を訊き、カオスはそう云った。

「なにバカなこと云ってんの。優勝賞金をもらって人材をあつめて戦闘の訓練もできる。参加しないでいい理由がどこにあるのよ」

「じゃあ、メテアが参加すればいいじゃないか」

「ワタシはあんたと違って忙しいのよ。つべこべ云ってないであんたがやりなさい!」


     ☆


 雲行きが怪しくなってきた。

 実際の空もそうだが、闘いの行方もだ。

 ナトは正直、闘いのプロだった。

 駆け引き、技術、ともに極められているといっていい。

 本当なら勝負はついているはずだった。しかし、人のいいナトの性格が、いつの間にかレクチャーへと変貌していたのだ。

 だがそれも終わりを告げようとしていた。

「カオスよ、時間はあるか? この試合が終わったら俺が剣術を指南してやる。三ヶ月もあれば、お前はもっともっと伸びる」

「ナトさん、ありがとうございます」

「わかったか。なら、ギブアップしろ」

 ポツッと雨が一粒、カオスの頬に落ちた。

「でも、優勝しないとナトさんより怖い人に怒られるもんですから」

 ナトはムッとした。

「まだヤルというのか。お前のものまねじゃ、俺には勝てんぞ」

 カオスはゆっくりと立ち上がり、ナトではなく観客席のほうへ顔を向けた。

「確かに剣術ではあなたに勝てない。でも……」

 いよいよ雨が本格化してきた。

「借りるよ、メテア」

 カオスの言葉を訊いていたのか、いないのか、そのときメテアは天を仰ぎ、嬉しそうに云った。

「やったわ。これでカオスの勝ちよ」

 カオスは叫んだ。

「命の水よ、誕生の爆発を。ユグドラ!」

 雨が……とまった。やんだのではない。文字通り、動かなくなったのだ。カオスの周りの雨だけが中空でピタリととまった。丸い雨水が、凝固し、氷と化す。

 カオスが手を前にかざすと、それらの氷がいっせいにナトへ向かって飛んでいく。

 まさに氷の弾丸だった。

「誰のコピーだ」

 ナトは飛んでくる氷を次々と切り落としていく。が、しかし、数が多い。無尽蔵に発射される氷の弾丸。雨粒の数だけある鉛のような氷。剣だけではさばききれずにナトは身体を動かそうとした……が、動けない。

「な、何だこれは?」

 ナトの両足が氷で固定されていたのだ。

 氷は膝から腰へとのぼっていく。

「全身が凍りづけになるのは時間の問題です。もしも全身を覆われてしまったら、心臓がどうなるかわかりますね。頼みますナトさん、ギブアップしてください」

「俺は意地でもギブアップしない。ニョッカの誇り、仲間たちの苦しみを背負っているんだ。これ以上、敗北を続けるわけにはいかない。お前のような小僧に負けるわけにはいかないんだ」

「……」

 カオスは攻撃をやめ、その場でひざまずいた。

 氷が溶解し雨に戻る。ザアアアという轟音があたりを支配した。

「勝負はあなたの勝ちです。でも、ここはボクを信じて下さい。絶対に後悔はさせません」

 ナトはしばらく黙り込み、じっとカオスの眼を見つめた。しばらく眼をそらさなかった。カオスもまた、じっと見つめ返した。

 やがてゆっくりと、ナトは口を開いた。

「何か……深い理由があるようだな。わかった。お前を信じよう。ギブアップだ。だが、大会終了後、その理由をちゃんと説明してくれよ」

「はい、ありがとうございます」


「勝者、カオス!」


つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ