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第一部 第二章 大会崩壊と少年 その1

   第二章 大会崩壊と少年


     1


 キリシ村が襲われた日から二日が経った。

 初日は仕方なく野宿をしたが、翌日からは隣町に身を隠すことにした。その理由はショカの容態がよくなかったからだ。

 ショカは高熱を出し、デメテラにつけられた傷が赤く膨れ上がっていた。これ以上の移動は不可能だと判断し、カオスたちはしばらくの間、隣町で傷を癒すことにしたのだ。

 町は平和そのものだった。三叉(みつまた)(ほこ)の襲撃をまだ受けていないからだった。だが、それも時間の問題だとカオスにはわかっていた。そのため、長居は無用と、すぐに医者の元へむかった。

 しかし、病状は不明。ただひとつだけ、医者の透視能力によると、傷口の奥に、何か妙な影が見えるとのことだった。

 これ以上の治療は高額の料金がかかるようで、着の身着のまま飛び出してきた三人にそんな用意があるはずもなく、治療を断念するしかなかった。

 多少の危険は伴うものの、カオスは日雇いの仕事を探しに出かけた。メテアはショカの看病をすることにした。

 夜になり、仕事がみつからないコトに意気消沈したカオスは、鉛のようになった身体を休めるため、二人の待つ宿屋へと戻った。するとすぐに、メテアが大粒の涙を流しながら駆けよってきた。

「カオス……ショカおばさんはもう、助からないわ」

「そんな……」

 何が起こったのか、不安を抑えながらカオスは母親の元へ急ぐ。

「母さん!」

「帰ったのね、カオス」

 ショカの全身から血の気がうせている。笑顔を浮かべているが、無理をしているのが、ありありと見て取れた。

 カオスはショカの腕を取った。強く握る。

「気分はどう。大丈夫?」

 ショカはそれに答えず、違うことを話し出した。

「お前ももう十九になるのね。もう立派な大人。これからもメテアちゃんをよろしくね」

「どういう意味なの?」

 ショカは優しい微笑を浮かべた。

「アア……いつか、あなたたちの孫が見たかったわ。でも、それも叶わぬ願いね」

「がんばってよ母さん。きっと仕事を見つけて助けてあげるから」

「ごめんなさいね。わたしはもう……二人で生き抜くのよ」

「そんなこと云わないでくれよ」

 メテアがそっと部屋に入ってきた。

「カオス……」

 言葉は止まり、あとはしゃくりあげるだけだった。

「お父さんが死んじゃって、寂しい思いをさせてごめんなさい。もっともっと親らしいことをしてあげたかった。メテアちゃんにも料理を教えて、洋服を編んであげて、綺麗にしてあげたかった。ずっと……見守っていくつもりだったのよ。アア……二人とも……愛しているわ。これからも……ずっと……」

 ショカは突然、白目をむいて立ち上がった。

 カオスとメテアは驚いて彼女を見上げる。

 ショカは何かにとりつかれたように両手を広げ、絶叫した。その刹那、ショカの眼、鼻、口から無数の子グモがあふれ出したのである。ゾロゾロと這い出してくるクモ。見るもおぞましい姿へと変貌したショカを、カオスとメテアは涙を流しながら賛辞した。

「あなたは立派な母親でした。ボクはあなたが誇りに思えるよう努力します」

「ワタシを救ってくれて感謝しています。お母さん、ありがとう」

 二人は心に誓った。

 デメテラ、エラ……三叉の矛の横暴を、決して許さない……と。


 それから一年後、世界は三叉の矛の手に、落ちた。


つづく

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