終章 託された未来
終章
赤や黄色といった、色とりどりの花に囲まれた華やかな村の中を、元気に駆けている少年がいた。
少年は目尻にしわがある優しそうな男性に近づくと、これまた元気な声で云った。
「ねえ、今日は終戦記念日でしょ。約束したよね。僕もつれて行くって」
男性は眼を細めて、優しい声で答える。
「ああ、そのために弁当も用意したぞ。早く支度をしなさい。準備が整い次第、出発しようか」
少年は嬉しそうに大きくうなずき、来た道を戻って行った。
☆
ニョッカ島の巨大都市ラウティに、ぞくぞくと人々が集まってきた。この街に住んでいる人たちも、そうでない者たちも、この集結現象は毎年のことなので驚く者はいない。むしろ好機と見て、商売に精を出すものまでいる。こういう光景は、毎度のことだった。
特に人気があった商品はマットワ・ライスであった。このときばかりはみなが口にする。
群衆は中央広場に集まっていた。その視線の集まる場所に、太陽光を反射している綺麗な塊があった。それは氷のようであるが、毎年の夏の猛暑にも溶けないような代物だった。
その塊の中に、抱き合う二人の姿が浮かんでいる。
集まった人々の目的はこの二人だったのだ。
みなが腰をおろし、出店で買ったものを口にし、談笑が始まったとき、塊の前に独りの男が立った。
長髪で線の細い好青年ともうひとり、容姿端麗な女性だった。好青年が両手を広げ、声を高らかに宣言した。
「私たちが今あるのは、ここにいる二人のおかげです。彼らが心から望んだ世界、それは真の平和です。誰も支配することなく、そして、支配されることなく、みなが平等に生きる世界……いつか、彼らが戻ってきたとき、自慢できる世界にしておきましょう。二人が守った世界はこんなにも美しいものだとこんなにも笑顔にあふれているのだと、見せてあげましょう。私はみんなに宣言します……氷が溶けないということは……彼らは生きているのです。きっと、復活のときがきます。それを信じて、祈り続けましょう」
終戦記念日は、老若男女とわず、笑顔とともに明け方まで催された。
☆
我は、愛というものに初めて触れた。
相手に自分の人生を共生させるという残酷で美しい愛……しかし、それは、この宇宙で最も美しい形なのかもしれない。
我は、見つめようと思う。
かつてない感情に身をゆだねてみようと思う。
だが、それが偽りで、我々と同じ道を歩むようであれば……そのときは…………。
☆
終戦から四年後のある夏の日、小さな村で、海のように青い花がいっせいに咲いた。
それは見るものを幻想の世界にいざない、澄んだ心へと満たしてくれる。
村に住むひとりの少年が毎日話しかけ、愛を注ぎ、願いを込めて咲いた花――。
その花から優しい香りがいっせいに空へと飛び立った。
少年は眼をつぶり、においを味わう。
歌を楽しむ。
ふと、眼を開けたとき、少年の眼に信じられない光景が飛び込んできた。
それは青い花が見せた幻影か……それとも、愛に答えてくれた夢なのか……。
少年は立ち上がった。
そして、声を高らかに、云った。
「おかえりなさい」
混沌の仮面 了
ご愛読、ありがとうございました。
次は、バトルは置いといて、妖精の話でも……と考えております。




