第二部 3 優しい嘘
3 優しい嘘
支配された人たちは世界中にどれくらい存在するのだろうか……。
そして、どうすれば、支配された人間を救うことが出来るのだろうか……。
八方ふさがりのまま、カオスたちはマーの家にたどり着いた。
そのとき、緊張が解けたのか、疲れがひびいたのか、カオスは突然、頭をおさえながら意識を失った。
マーは、先ほどよりも仮面の侵略が進んではいるが、まだ自我を失ってはいなかった。
「いったい何があったんですか?」
カオスをベッドに休ませる、マー。
蒼ざめるマーに詰め寄り、シャイアが云った。
「仮面に支配された人間のすべてが私たちの敵にまわりました。何とかしなければ、敗北が眼に見えています。今までの研究で何か発見したことはありますか?」
マーは蒼い顔をさらに蒼くして云った。
「すみません。いよいよ思考がおかしくなってきまして。研究も進まず、日常の生活もままなりません」
「そうですか……わかりました。それならば強行手段に出るしかありませんね」
シャイアは横になっているカオスに顔を向けて、
「それは、カオスをさらなる危険にさらすことになるのですが……」
カオスの腕を取って、心配そうに見守るメテアがシャイアをにらみつけた。
「許さないわよ。これ以上カオスを苦しめないで」
「……大丈夫だよ……」
いつの間にか眼を覚ましていたカオスは、上半身を上げて、さらに続けた。
「やるよ……シャイア。ちょっと疲れているだけだから。もう……大丈夫」
不安そうな表情で見つめるメテアに、カオスは腕をつよく握り返した。
そのとき、マーが慌てふためき、窓際に駆け寄ると、外に眼をこらした。
「た、大変です。アア……ついに、囲まれてしまいました」
シャイアは何処かしら嬉しそうに、しっかりとした足取りで歩き出した。
「ここは私独りで何とかしましょう。その間、避難する準備を整えてください」
シャイアが外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
糸をはやした仮面の人間たちが、ぞくぞくと集合している。
ついに、全人類対四人の戦いの火蓋が切って落とされた。
シャイアの誤算とは……スルトアールハイムの叫びが、周りの者たちだけに届いたと思ったことだった。遠く離れたこの村では、自分たちが敵と認識されるのは、まだ先だと考えていたのだ。実際はどうだ……スルトの声は、電波となって、世界中の仲間に伝わっていたのだ。それと、もうひとつ…………。
カオスは痛む頭に鞭を打ち、重い身体を持ち上げた。
シャイアの加勢に向かうつもりだったが、恐ろしい異変に気づき、部屋にとどまった。そして、能力を発動させた。
「メテア! マーはもうダメだ。仲間を呼んでいる」
マーはぶつぶつと意味不明の言葉を発し続けている。それはスルトが発音していた言葉と何処か似ていた。
メテアは自分が腰かけていたイスを投げつけた。イスを頭部に食らい、マーはよろめいた。カオスは哀しそうに……、
「もう……支配されていたんですね……」
と、マーの体液を凝固させた。
☆
カオスとメテアは外に出た。すると眼の前で、シャイアは両手を広げ、襲い来る者たちの精神支配を開始していた。前方にいる仮面人間たちから順に動きを止めるが、次から次へと襲ってきて、邪魔者を踏み台にして乗り越えてくる。徐々に山となっていく仮面人間たち。
「カオス、ここはいったん避難しよう。数が多すぎる」
そろそろ疲労が見えてきたシャイアは、振り向かずに云った。
それを訊いたカオスは、シャイアとメテアを結界で包み込み、セイダンの反射で上空に飛んだ。空中にさらに反射鏡をつくり方向を変える。そのまま、巨大な鳥に変化して、村から離れて行った。
☆
降り立った場所はニョッカ島。シャイアの考えでは、精鋭のそろっているここなら、仮面の支配が遅れていて、時間を稼げるだけの戦力が揃うだろうということだった。カオスもそうかもしれないと思った。ナトとアトロスを排出した島国。きっと、チカラになる人物が大勢いるはずだ。
そこでカオスは、シャイアの顔を真っ直ぐに捕らえ、彼の考えを尋ねた。
「ところで、ボクの能力で何を狙っているの?」
シャイアは一度、ちらりとメテアを見たが、そのまますぐにカオスへと顔を戻し、きっぱりと云った。
「今まで盗んできた能力……発動できる能力を使って、仮面と肉体を切り離そうと思う。しかしそれは君が、仮面の適正肉体に、急速に近づくことになるんだ…………」
話しを訊くうちにメテアがみるみる蒼ざめた、そして、カオスの顔色を覗き込む。
カオスの顔を見たとたん、メテアの身体が小刻みに震えだした。
「カオス、あんた死ぬつもり? そんなことワタシは許さないから」
カオスは愛しい女性に顔を向けて、優しく微笑んだ。
「ボクは死なないよ。愛する人を悲しませることなんて、絶対にしない」
メテアは涙を浮かべながら、カオスに抱きついた。
そんな様子を、シャイアは苦しそうに見つめていた。
つづく




