第二部 1 恐怖への序曲 その1
第二部 仮面
幸せと不幸はバランスを保っている
一攫千金を手に入れた者の幸せが三十だとすると
不幸も三十襲ってくる
幸せと不幸は等しく平等
どちらかに傾くことはない
『三十五人の女を捨てた好青年』
1 恐怖への序曲
「マーさんからの手紙よ!」
嬉々として部屋の中へ飛び込んできたメテアを、カオスは何事かと振り返った。見ると、彼女の右手に羊皮紙が握られている。
「へえ、久しぶりだね。さっそく読もうよ」
二人はテーブルに並んで腰をおろした。
『遅ればせながら、おめでとうございます。結婚式はとても華やかで感動的で、すばらしかったです。あれからお変わりはありませんか? 私はあの後、仮面の秘密を暴こうと思い、自分の仮面から分裂し、生まれ出た新しい仮面を用い、仮面の秘密を暴く研究を始めました。ところが、先人たちが調べた以上のことはわかりません。結局は仮面が何で出来ているのか、目的はなんなのか、謎のままです。私は頭を抱えました。悩んで悩みぬいて、あきらめかけたとき、私に新たな能力が発現したのです。それは、元素透視。対象の元素配列を透視して見ることが出来るという能力なのです。試しに人間を見てみますと、綺麗なDNAの配列がはっきりと確認できました。そうして、仮面を調べてみると、どんなことに気づいたと思いますか? アア……なんてことでしょう。仮面は……仮面は生物だったのです。もちろん地球上のモノではありません。見たこともない元素配列です。私のこの能力なら、研究を続けて行けば、さらにくわしく謎に迫れると思います。あきらめませんよ~。もしお二人にヒマが出来たなら、ぜひ、私の元へ足を運んでください。そのころには、仮面の研究はさらに進んでいるはずです。それでは、お身体をお大事に。またお会いしましょう』
「マーさんってすごいのね。戦闘では役にたたないけど」
「云いすぎだよ」
キリシ村は以前ほどでないにしろ、徐々にではあるがかつての景観を取り戻しつつあった。もともと環境はいいほうなのだ。気候は温暖で、漁に出れば食料に困ることはない。ラーマにさえ気をつけていれば、陸にある食べ物も豊富なのだ。
「とりあえず、もう少し落ち着いたら、旅に出ようか。そうだ、マーさんのところだけじゃなく、みんなの顔を見に行こう」
「そうね。楽しみだわ」
それから一ヶ月が経ち、カオスとメテアはキリシ村を後にした。
ちょうど入れ違いに、マーからの手紙が届いた。
あちらこちらが擦り切れている手紙にはこう書かれていた。
『ラデスの云っていたことが解明しました。いや……あれはラデスではないのです。アア……もう手遅れかもしれません。カオスさん、メテアさん、今すぐ仮面を……』
その後に続く文章は、真っ赤に染まって、とても読めるものではなかった。
☆
カオスたちは大陸の北へ向かい、港町から船に乗った。約三時間の船旅を終え、無事にニョッカ島へとやってきた。
緑に囲まれたこの島はとても幻想的で、力強い自然に囲まれている。以前とは違い、今はゆっくりと観光ができる。ここにテシュパを連れてきたらどんなにか喜ぶだろう、とカオスはワクワクしながらナトの待つ村へと向かった。
村に到着すると、すぐに異変に気づいた。
カオスとメテアの脳裏に、キリシ村が襲われたときの記憶がフラッシュバックする。
「何よ……これ……」
メテアの呟きにカオスは答えなかった。いや、言葉を発することが出来なかった。
それも、無理はない。
村中に散らばる死体……全員が切り殺されているのだ。
「とにかく、ナトさんを探そう」
「そうね……」
奥に進むと、ナトを探すどころではなくなった。なぜならば、何処からともなく大きく曲がりくねった刃が、カオスたちめがけて伸びてきたからだ。
横に飛び、それを回避する二人。
「これは?」声を荒くするメテア。
「間違いない、ナトさんの攻撃だ。ナトさん!」
シンと静まり返った村にカオスの声が響き渡る。しばらくして、家の影からナトが音もなく姿を現した。
「ナトさん! いったいどうしたというんですか?」
やはりこの事態はナトが原因なのか、とメテアは眼の前の現状を凝視した。信じられないことであった……あのナトが……と……。
よく見るとナトの様子が変だった。いや、様子というより外見が変わっていた。
その変化に気づいたカオスとメテアに戦慄が走った。
それは、ラデス同様、仮面から伸びた緑色の無数の糸が、彼の身体をつらぬいていたからだ。
今、世界に何かが起こっている……そう思わざるをえない事態であった。
つづく




