第一部 終章 絶望の糸 その7
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かつてラデスであったそれは、声を高らかに宣言した。
「お前たちは実にすばらしい。私は歓喜に震えている。ここにして正解だ。これからだ……もうじき……爆発感染する……すべてはこれから始まるのだ」
何を云っているのかわからなかった。
ただひとつみんなにわかったことは、彼をここで食い止めなければならないということだけだった。
瓦礫を飲み込んだ緑色の糸は、やがて獲物を探すように、あたりに広がっていった。
木々や岩を包み込み、逃げおくれた小動物を飲み込む。
今やラデスは、真の意味で世界の敵だった。
「ここはボクに任せてください」
カオスはそう云って前に出た。
「カオス?」
「大丈夫だよ、メテア。ボクがここで終わらせる。すべてに終止符を打つ」
みんなはカオスに任せた。彼を信頼して……。
「哀れな男に最後の慈愛を与え、天へ迎え入れろ、ユグドラ」
雲をつきぬけて太陽の光が降り注いだ。最初は細い一条の光が、徐々に太くなっていく。やがてラデスの糸すべてを包むほどになり、轟音とともに爆発する。
終わった……と思った瞬間、千切れかかった身体をひきずって煙の中からラデスが飛び出してきた。
「まだなのか? お前はあああ」
謎の言葉を発するラデス。
ここでカオスはある試みを思いついた。
これならば、ラデスの秘密を……。
しかし、シャイアがカオスの思惑を知ってか知らないでか……彼の肩をつかんで首を横に振った。
カオスはコピーするのをやめて、ラデスに向き直った。そして、
「仲間たちのチカラをひとつに、ユグドラ」
カオスの右腕が剣になり、左腕が小型のナミノミになった。
湾曲する剣がラデスの身体を地面に突き刺して固定し、ナミノミが首筋に食らいつく。そのままラデスの眼を睨みつけ、精神支配を施す。放心状態となったラデスに、
「これで終わりです」
と云って、彼の体液を凝固させた。
「そうか、血も液体。ワタシの能力で血液もコントロール出来るのね」
メテアが驚きの声を上げる。
「勝負あったな。見事だ」
ナトが感心する。
「ああああ……死なずにすんだ……」
マーが尻をつく。
「さすが、カオスくん」
ディーテがカオスに抱きつこうとするのをメテアが睨みつける。
「これで、本当に終わりましたね」
琥珀の中に封印されたラデスに向かって、カオスはもう一度云った。
「さようなら」
☆
メテアとカオスは故郷に戻り、キリシ村の再建に励んだ。
ナトはニョッカに帰り、生き残りたちに勝利を伝えた。
ディーテは再び旅に出かけ、マーは医療の知識をさらに深めるため、勉学に没頭する。
シャイアは全国を旅し、三叉の矛残党の改心と世界の復興に精力した。
こうして、世界は元の顔を取り戻しつつある。
恐怖と権力による支配はなくなり、世界の人々は安堵した。
☆
セウサ城のあった土地に、ひとりの少年が立っていた。
彼の眼の前には、奇妙な生物が琥珀に封印されている。
彼はそれに向かって怒りをぶつけた。
「いつか、お前が復活することがあっても、そのときは僕が許さない。決して、この憎しみを忘れはしない」
その場を去ろうとしたとき、少年の身に異変が起こった。
彼の仮面から突如として奇妙な糸が生えてきた。それが身体に突き刺さり、身体の自由を奪う。
そして、何処からともなく声が響いてきた。
「お前も、もうじゅうぶんだ。もらうぞ……」
その言葉の意味を理解できないまま、少年の意識は、遠く闇の中へ落ちていった。
第一部 完
つづく




