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第一部 終章 絶望の糸 その5-2

 王の間は薄暗く、とても豪華とは云えなかった。金銀の装飾もなく、ここに王がいるとはとうてい思えないような寒々とした部屋であった。

 その奥に、大きな玉座がある。さすがにそこだけは派手な刺繍が施されていて、きらびやかな紋様もあった。

 腰を深く沈めている人物がいた。

 彼の仮面は玉座にも負けないような派手さだった。金色の仮面。そう……メテアたちが最終の目的としているラデスであった。

 ラデスは心の底から楽しそうに、部屋へ入ってきた四人に云った。

「よくぞここまで来られたものだ。賞賛に値する。ところで、君たちの仲間カオスくんは倒してしまったのかな?」

 メテアは怒りで我を忘れるところだった。

「あんたの遊びに付き合っているヒマはないの。早くカオスの支配を解きなさい」

「その云い方だと、あいつはまだ生きているのだな。下で何かあったのか?」

 それにはナトが答えた。

「死神が来たんだよ。お前が作り出した死神がな……」

「ほう、俺をまだまだ楽しませてくれるのか」

 ラデスがゆっくりと立ち上がった。

「その余裕……いつまで続くかのう……すひいすひい」

 メテアがちらりとサラノスへ視線を送ると、彼の傷から血は止まっていた。傷口に見覚えのある人形のような物体がくっついている。最初、何なのかわからなかったが、すぐにメテアは思い出した。それはマーの人形であった。彼が、何処からか支援しているのだ。 ディーテが誰にともなく、確認するように尋ねた。

「ラデスの能力は姿を消すわけではないのよね。ただ、存在を忘れさせるだけ? なら、この戦い、勝算があるわ」

 その言葉にサラノスが微笑を浮かべた。

「そこに気づいたのか、大いに結構。あとでチュウチュウしてあげるぞい」

「勝った暁には、させてあげるわよ」

 ラデスは少し不愉快そうに、声を荒げた。

「何をこそこそしている。下で何が起こっているんだ?」

「そんなに知りたければ自分で確かめてみるがよかろう。存在を消して行けば、造作もあるまい?」

 ラデスはサラノスをねめつけた。

「無理じゃろう? おぬしはセウサと同じじゃのう。あやつの能力も……姿を消していられる時間は、数秒しか持たなかったわい。すひいすひいすひい」

「同じだと? いいや、俺はセウサをも超えた。お前の能力は確かに恐ろしい、しかし、俺には通用しない。世界最強は俺の称号だ」

「だんだんよく吠えるようになってきたのう?」

「ふふふ。お前たちに面白いものを見せてやろう」

 ラデスが指をならすと、影に隠れていた部下がうやうやしくうなずき、隠し通路へ姿を消した。しばらくして戻ってくると、一人のみすぼらしい男を連れてきていた。

 その男を一目見た瞬間、サラノスは声を出さずにはいられなかった。


     ☆


 仮面は何の目的でつくられたのか、誰がつくったのか、それは誰も知らない。


 ただひとりだけ、少しだが、仮面の秘密に触れたものがいる。

 その人物とはセウサ。謎の仮面に触れた最初の男。

 彼は仮面の正体に触れたために仮面を捨て、命をも捨てた、そう語られていた。しかし、ひとつは正しく、ひとつは間違って伝えられている伝承がある。それは…………。

 サラノスはがくがくと震えながら、声を絞り出すようにして云った。

「おぬしは……セウサ……か?」

 かつての戦友……チカラを競い合ったライバル……死んだとされていた友が今、眼の前にいるのだ。

 セウサは死んではいなかったのだ。彼は擦り切れた布切れをまとっているだけで、生気が感じられない。仮面を被っていない素顔には長いヒゲが生えていて、うつろな眼は支配されているとわかる色を放っていた。

 サラノスは視線をラデスに移し、憤怒の色を放った。

「お前だけは許さんぞ」

「生きる伝説を手なずける偉大なる世界の王、これが俺の称号だ。歯向かう者は蹴散らすのみ。さあ……かかってこい、雑魚ども。少しでも俺を楽しませてみろ」

 ラデスは立ち上がり、大きく両手を広げた。


     ☆


 カオスは最後の手段を取った。それは世界最強といわれるラデスの仮面の能力であった。

「消滅と破壊を生み出し、真の再生を、ユグドラ」

 次の瞬間、部屋中を電撃が走った。雷に打たれた鞭は灰になり消滅する。しかし、それも初めのうちだけだった。やがて雷をも食うようになっていった。そこでカオスは暗黒球をつくり出した。すべてを飲み込むミニブラックホール。鞭は一本、また一本と減っていく。

「何故、邪魔をする? その仮面は僕のモノだ。早くよこせ。ママに怒られるじゃないか」

 カオスはそのまま存在を消した。透明になったわけではないのだが、パイスの眼には映らなくなった。

「プロメタの仮面は何処だ? この城にあるはずだ。感じるんだ。探している時間はない。そうだ、この城すべてを食い尽くしていけばいずれ出会えるはずだ。そうだ、そうだ、すべてを食らい尽くせ。そして、ママにお土産を持って帰るんだ。立ち止まっているヒマはない。全部だ。全部を食らい尽くせ。何だこの黒い球は? これもだ。これも食ってしまえ!」

 鞭を飛ばすがすぐに消滅する。それを見たパイスは首をかしげる。

「何だこれは? 僕の邪魔をするのか。許さないぞ」

「そう……ラデス様の邪魔をするものは許さない」

 パイスの背後にカオスは《存在》をあらわした。

 その刹那、今までカオスと戦っていたことを思い出すパイス。

 パイスが振り向く間もなく、カオスは暗黒球を彼にあびせた。彼の身体は消滅する。この戦いに終止符がうたれた…………そう確信したとき、カオスは瞬間移動で退いた。

 離れ際、いくつもの暗黒球を放つが、瞬く間に霧に覆われ、ひとつ、またひとつと消滅していく。

 パイスの放つ気が変化したのだ。鞭が突然、すべて消滅し、代わりにあたりから黒い霧が湧き出た。その霧が暗黒球を飲み込んだのだ。パイスは身体を霧に変え難を逃れたのだ。この霧に触れてはならない。カオスの脳内に警報がこだました。

 そして、カオスの予感は正しいことだとすぐにわかる。

 世界にある物質を食す黒い霧……これがパイスの真の能力であった。

 

 仮面は何を求めているのか…………。


 文字通り、八方をふさがれたカオスに策はなかった。パイスの能力はラデスのチカラを超えた。存在を消したところで彼に近づくことが出来ない。ためしに電撃を放ってみるが、パイスの身体に触れる前に消滅してしまう。

「アア……なんだかプロメタの仮面もどうでもよくなってきたよ。ママもどうでもいいや。僕の眼にふれたものは全部食べてしまおう。うん、そうしよう」

 霧がいっきに増幅した。

 カオスは通路のはじまで退いた。それを追うパイス。壁に追い込まれるカオス。パイスは歓喜の声を発した。

「もう逃げ場はないね。それじゃあ……いただこうかな」

「逃げたんじゃない。ここならラデス様に被害がないからだよ」

「どういう意味?」

「浄化の光で悪鬼を祓え、ユグドラ」

 パイスが上を見上げると、一条の光が見えた。初めは小さな光が、徐々に巨大化していく。やがてまばゆい光に、その霧ごと飲み込まれるパイス。

 エラの能力だった。それだけなら城ごと破壊してしまう。そこでカオスは、パイスの周りにアトロスの大気の壁とセイダンの反射鏡をつくりだしたのだ。パイスに光が到達した瞬間に壁で蓋をし、乱反射する光をあびせた。四角い壁だ。その中を太陽光が何度も何度もパイスに襲い掛かる。

「グガアアアア」

 獣のような叫び声をあげるパイス。徐々にではあるが光の強さが弱くなる。霧が光をも食っているのだ。しかし、カオスはそれを見越していた。さらなる光をパイスに浴びせる。

あたりが白一色になる。眼を開けていられない。光の闇であった。

「ママ、ママ……助けて……」

 それがパイスの最後の言葉となった。


つづく

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