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第一部 終章 絶望の糸 その4-2

 サラノスの能力に三叉の矛たちは逃げ惑うしかなかった。いや、それすらも不可能で、麻痺した身体を憎み、サラノスに恐怖し、そして血を吐きながら絶命していった。

 静止した時間の中、サラノス以外にも動ける人物がいた。その男の頭は、仮面というよりも、犬そのものだった。ふさふさの毛、伸びた顎、するどいキバ、犬の顔をそのまま頭につけたようなものだった。

 彼こそがセイダン。ラデスの次に強いとされる男。

 サラノスはセイダンの存在に気づいた。

「毒に耐性のある者はときどき現れる。しかしの、性質の違う麻痺も同時に効かないというのはめずらしいのう」

「あなたが……サラノス。お会いできて光栄です」

 仮面の形状のせいか、とてもしゃべりづらそうで、聞き取りにくい声だった。

「じゃがのう、わしの能力は毒と麻痺だけじゃないんじゃよ」

「そうでしょうね。だからこそ、先の大戦を生き延び、人々の尊敬と恐怖の対象になっているのですから」

「そのわしの前で、よくぞ平静でいられる。すひいすひい」

 セイダンはうやうやしく頭を下げた。

「あなたに敬意を表して、私の能力をお教えしましょう。それは反射です」

「なるほどのう、それで、わしの毒をはじき返しているのかの」

「そういうことです」

「反射するだけが、能力のすべてではあるまい?」

「お察しの通りです」

 セイダンは嬉しそうに答えた。それに続き、サラノスも楽しそうに云った。

「それじゃあ、はじめるとしようかの」

 それが合図となり、サラノスの身体が後方に弾き飛ばされた。激しく転げまわるサラノス。体勢を立て直し立ち上がるが、再び何かにぶつかったように飛ばされる。

「まだまだこんなものではありませんよ――好奇心に与える罰を、マンテュス」

 サラノスの背後に見えない壁のようなものが出来、触れた瞬間、前方に飛ばされる。

「透明な反射鏡です。私が触れた場所に反射する壁をつくり出し、触れた者をはじく。この空間の壁や地面のあちらこちらに仕掛けていて、飛ぶ方向も決められるので、はじかれた先に罠を設置してあります。ご老体には少々厳しいですかね」

 サラノスは血を吐きながら笑った。

「久しぶりに楽しいぞい。見せてやろう、我が仮面の恐ろしさを。ハンズー」

 突然、エイダンが大きくのけぞった。その顔には驚きの表情が浮かんでいる。それも当然であろう。なぜならば、眼の前に見たこともない生物が無数にわいて出たからだった。

「これは?」

「真の能力じゃ。わしの吐く粒子に触れたモノの元素を変換し、新しい生物をつくり出す。その生物はわしの毒を持ち、わしの意思どおりに動き回る。おぬしの反射鏡とやらもな。気をつけるがよい。反射の出来ないおぬしは、体内に直接わしの毒をもらうことになる」

 手のひらに乗るくらいの大きさで、毛の生えた茶色の虫が一斉に飛び掛った。おそらく、その毛に毒があるのだろう。触れることは出来ない。そう思ったセイダンは必死に逃げた。飛んでくる虫をかろうじてよける。

 壁に追い込まれたセイダン。突然、壁面から伸びた腕が頭部を殴る。

「壁も大気も人間も、わしの毒に触れれば変化する。自分の足を見てみろ」

 云われるままにセイダンは足元に眼を移す。するとどうだろう。彼の両足は、鳥の鉤爪のようなものに変化していた。

「そしてそろそろかの」

 セイダンが逃げるのをやめた……いや、彼の身体が動かなくなったのだ。

「わしが粒子も同時に出しているのに気づいたかの? そう、麻痺じゃ。そして、もう、終わりじゃな」

「つ、強い……」

「当然じゃ。すひいすひい」

 セイダンは苦悶の表情を浮かべた。全身を襲う激痛。体内に異物が侵入してくるのを感じながら、ただラデスのことを考えていた。

 それは絶対なる後悔。ラデスに対する忠誠が、敗北を許さない。

 ただひたすら、すみませんすみませんすみません……と懺悔していた、とそのとき、セイダンの(なか)で何かがはじけた。ちょうどヘソの下あたりに熱いものを感じた。その瞬間、今まで苦しみを与え続けていた痛みが消える。そして、新たな力がみなぎる。 前方を見ると、サラノスが苦悶の表情を浮かべていた。

 セイダンはゆっくりと自分の身体を確かめる。変形していた足が元に戻っている。それ以外は別段かわったようすはない。

「おぬし、何をした?」

 しかし、それに答えられない。なぜならば、セイダン自身もまた何が起こっているのかわからなかったからだ。

 セイダンは何かしら予感がした。その考えが正しいものかどうかを、確かめることにした。

 まず、サラノスの右側に意識を集中した。そこに壁が出来るようにと……。続いてサラノスの眼と鼻の先にも……。

 サラノスが前へ進んだときだった。彼の身体は、セイダンが意識した空間に触れた瞬間飛ばされていた。

 それを見たとき、セイダンは自分に起こった変化を悟った。

 今までは自分が触れたものしか反射できなかったが、今は違う……今は、任意の場所に反射鏡を創り出せるのだ、と……。だから、体内に這入った毒をはじくことが出来たのだ。

 セイダンは確信した。

 自分を倒せるのは、ラデス様のみ。ということは、ラデス様を失望させることはない。

 私は、絶対なる腹心なのだ……と。

 セイダンはまじまじと、偉大なる老賢人を見据えた。ここで、彼を止めなければならない。彼の能力はラデスと出会わせてはならない。存在を消しても体内に残っている毒が消えることはないからだ。ということは、毒に触れた瞬間、ラデスは敗北することになる。自分がサラノスを止めなければならないのだ。

 強固な忠誠心と責任感が、セイダンの能力を開花させたのか。

 セイダンは老賢人の腕関節に意識を集中した。そのまま、マンテュス、と口走っていた。

 その刹那、サラノスは絶叫することになる。

 サラノスのひじから下がふきとんだのだ。

 それはセイダンが念じた場所。細胞と細胞の隙間に壁を創ったのである。

 これもひとつの実験だった。次は首に壁を創れば…………。

 そこにひとりの救世主が現れたのは、セイダンの勝利、サラノスの敗北、それらが確定したときだった。


     ☆


 そろそろ疲労という言葉が浮かび始めていた。お互いに支えあい、お互いに助け合い、何とか残り数人というとき、ザメレという男が、メテアとディーテの前に現れたのである。

 あきらかに今までの相手とは違う。おそらく幹部クラスであろう。

 ザメレは人間の顔の仮面をしている。人間が人間の仮面をしているのだ。滑稽なことなのだが、感情のない表情が恐怖心をあおり、笑うことが出来ない。怪物状の仮面よりも不気味だった。

「いやあ、おみごと。この人数をよく倒したね。尊敬しちゃうな。僕には無理だよ」

 大きく肩で息をするメテアは、横目でディーテを見た。彼女もまた肩を揺らしている。

「あなたは何者なの?」

 ザメレは嬉しそうに、

「よくぞ訊いてくれました。私は三叉の矛幹部ザメレ。この際ダカラ能力も教えてあげましょう。私の能力は重力。重力を自在に操る能力です。そして、恋人募集中。どうですか?私の恋人になれば助けてあげますが」

 そう云って、二人を吟味した。

「どうしようかしら。ねえ、ディーテ」

 ディーテのかわりにザメレがそれに答えた。

「まあ、冗談ですよ。私の永遠の恋人はエラ様だけですからね。それより、そろそろ疲れもとれたんじゃないですか? 時間稼ぎにつきあってあげたんです、楽しませて下さいよ」

「疲れてなんかいないわよ。ふん、どうせ妄想の中での恋人でしょ。あんたなんか相手にされないわよ。この変態」

 正直、もう少しだけ時間を稼ぎたかったが、イラッとしたメテアはつい悪態をついてしまった。

「ああ、相手にされなかったさ。だが、生きていたらきっと私の魅力に気づいたはずだ。しかし、それももう……。どちらにしろ生きてかえすつもりはなかった。地球の重みをくらえ、シャラモン」

「尊厳と慈愛を示せ、スルトラ」

「神の与えてくれた姿に反旗を、スルトアールハイム」

 ラーマに変身したディーテが襲い掛かる。水が無数の触手になり、突き刺そうと伸びていく。迎え撃つザメレは右手を前に出し、それを下にさげた。その瞬間、触手は地面に落ち、ラーマもまた地面に押さえつけられるような形となった。

「これが重力のチカラです。どうですか、重いでしょう?」

 メテアはそれでも触手を這わせた。ディーテはゴリトラへと変化し、何とか立ち上がった。

「いくらがんばったって無駄ですよ。さらに重力を重くします」

 ズンという感覚とともに、ゴリトラは倒れ、水の触手は動かなくなった。

「遊んでいるヒマはありません。今、あなたたちの身体は重力の圧力にさらされています。もしも、これを開放したらどうなると思います? そう、作用、反作用ですよ。内側から外側に向かってチカラが加えられています。外の圧力がなくなると……いっきにはじけます。爆発するんですね。それをお見せしましょう」

「いろいろと御託をありがとう。もう、あんたの能力は負けよ」

「はいはい。臓物をばら撒いてしまえ!」

 ザメレは眼を丸くした。なぜならば、二人の身体に変化がなかったからだ。いや、よく見ると、二人の身体に薄い水が張られている。しかし、それが何なのかわからない。それが原因で二人が無事なのか……。呆然としているザメレに、猛スピードで跳躍したディーテが襲い掛かる。ゴリトラと化したディーテは、その太い腕を大きく振り回した。

 次の瞬間、ザメレの首は、胴体との永遠の別れを告げた。

 距離を置いていた三叉の矛メンバーたちは、ザメレの敗北で狂乱し、いっせいに襲ってきた。それを相手取るゴリトラ。メンバーのそれぞれが能力を持ってはいるが、森の悪魔ゴリトラには通用しない。負けるとわかっていても逃げない彼らに、少なからずメテアは恐怖した。

「いったいどういうトリックなの?」

 ディーテの問いに、メテアは気を取り直した。

「簡単なことよ。圧力が開放された瞬間、ワタシたちの身体に水圧をかけたの。それで、内側からのチカラとのバランスを取ったというわけ」

「なるほどね」

 数分後、立っていたのは、洪水のように汗を流す女性ふたりだけだった。


     ☆


 四階にある王室は静寂に包まれていた。

 玉座に腰かけるラデスは笑みを浮かべながらカオスを眺めている。仮面をかえしてもらったカオスは何処か様子がおかしい。

 ラデスは顎を上げて、カオスに指図する。

「さあ、下へ降りて仲間を血祭りにしてくるがいい」

「はい……」

 カオスは完全に支配されている。

 うつろな眼で彼は階段を降りていった。

 ラデスの能力をコピーすれば対等に渡り合える、そう油断したカオスの敗北だった。


つづく

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