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第一部 第四章 マットワ・ライス その1

   第四章 マットワ・ライス


     1


 マーがホース状の眼をぐにぐにさせながらカオスに詰め寄ったのは、新たな仲間の捜索から帰ってきてからすぐのことだった。

シャイアへの報告をマーが後回しにした理由を、カオスはすぐに気づいた。

「あれ? マーさん、いっしょに行ったメテアはどうしたのですか」

「それ! それなんですよ」

「だから何?」

「ひひひひひひヒューエレンけけけけけけケイジむ村ってってって知ってますううか?」

 カオスは姿を消し、コップを手にしてすぐに戻ってきた。

「すみません」一気に飲み干すのを確認して、カオスはコップを受け取った。

「で、どうしたんですか?」

「本当にすみません。ふたりでヒューエレン・ケイジ村へ行ったのですが、そこがとんでもない村だったのです」

「聞いたことのない場所ですね」

「それもそのはずです。実は、仮面を崇拝する村人たちで構成されているのですから」

 仮面崇拝の村……そう聞いたたけで、カオスはおぞけを覚えた。

「旅人から噂を聞いたことがあるな」

 アトロスがおもむろに割りこんできた。

「仮面を神の化身だと思い込んでいる危険な連中だ」

 カオスが慌てる。

「そんなところに、メテアはひとりでいるんですか?」

「すみません。仲間にふさわしい人物がいないとわかった時点で帰る予定だったのですが、メテアさんはどうしてもしなければならないことことことがあああああってだからメメ」

 カオスはもう一度コップになみなみと水を入れてきた。

「すみませんすみません。危険だからいっしょに帰りましょうと云ったんですが、どうしても残ると……」

「それはまずいことだ」アトロスが声のトーンを落とす。「あやつらは、神を蹂躙していると世間をうらみ、他人の仮面をはいでしまうのだ」

「連れ戻しに行ってきます。マーさん、案内できますか?」

「ええ、ええ、それはもちろん。そのために戻ってきたのです」

「ふむ。ワシも行くとしよう」

 こうして、カオス、アトロス、マーの三人によるメテア救出作戦が開始された。


     ☆


 ヒューエレン・ケイジ村へ一歩足を踏み入れると、ここは見捨てられた村ではないのか、もしくは身の危険を感じて村人たちはメテアを連れて何処かへ逃げたのではないのか、と勘違いしてしまう。人の気配が、皆無なのだ。

 家々は外壁が半ば崩壊し、雑草は我が物顔で村を覆っている。小動物や昆虫が住人と化していた。ただひとつ整備されているのは、中央にある井戸だけだった。最近まで誰かが使っていたらしく、まわりには湿った土が広がっていた。

「マー殿、ここで、間違いないのか?」

「油断しないでください、アトロスさん。あいつらの能力、ちょっと変なんですよ」

「変だと?」

「アトロスさん」ここでカオスが口をはさんだ。「やっぱり、当初の作戦、『男なら正面から堂々と』を変更しましょう。どうもイヤな予感がします」

 ハシャラという甲虫が同じ方向に大移動している。ドゥーダという円筒状の生物が地中へ消えた。それにともない、マーが落ちつきを失ってきた。

「ああ、始まってしまった。でも大丈夫です。あいつらから距離を取れば、解放されますから」

「落ちついて説明して、マーさん。いったい、『あいつら』とはどういう意味ですか?」

「来た!」

 建物の(かげ)から笑顔を浮かべる白い仮面が姿を現した。その数、六つ。みな、同じ仮面、同じ笑い方をしている。あり得ないことだった。

 同じ形状をした仮面なんて見たことも聞いたこともない。人の顔がそれぞれ違うように、仮面もまた同一のものなんてないのだ。

「気づきませんか。自分の中に起こっている、変化を……」

 マーの言葉にカオスが反応した。

「なんだろう、これ」

 アトロスも頷く。

「腹が、減ったな」

「それなんですよ。物理的な攻撃なら、そこの井戸水を操ってメテアさんがなんなく撃退できたはずです。そうじゃないんです。お腹がすいてしまうんですよ!」

 カオスの声のトーンが少し下がった。

「戦いが、繰り広げられたのに、あなたは逃げだしたのですか?」

「もちろんいっしょに逃げましたよ。でも、途中でメテアさんが……」

「後にするのだ! ワシがなんとかしてみよう」

 そう云ってアトロスは空気の渦を身にまとったままズンズンと前進した。ところが、蜘蛛の子を散らすように村人たちは建物の影に消えて行った。

「云ったじゃないですか、物理的な戦いは避けるんですよ」

 歩をとめるアトロス。そしてゆっくりと振り向いた。

「その井戸の水……飲めるのか?」

 喉が鳴る。喉が鳴る。喉が鳴る。

「おそろしくてとても飲めませんよ~」

「そうですね、マーさん。でも……」

「うむ。ガマンできん」

 そうして三人は、井戸を囲んだ。


つづく

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