第一部 第一章 混沌の風 その1
第一部 第二次マスクゲール
真の心を開くコトは
死よりも恐ろしいコトである
『コンサート中に首をかき切り自害したマエストロ』
第一章 混沌の風
1
そこは廃城と呼ぶにはあまりにも清潔すぎた。
豪華なシャンデリアはその美しさを損なわず、星空のようにきらめいている。
深紅の絨毯も、わずかに埃をかぶっている程度。少し手を加えるだけで、元の機能を取り戻すだろう。とても綺麗な状態だった。
そんなリンボサ城跡に、黒ずくめの三人が侵入したのは、夜中の三時を過ぎたころだった。正体を隠すように全身をマントで覆っている。
三人は迷うことなく大階段の横へ行き、燭台を複雑に操作する。
するとどうだろう、壁の一部が下がり、隠し通路が出現した。
三人は不気味な暗がりの中へ、臆することなく入っていった。しばらく迷宮のような通路が続き、やがて開けた場所へ。
部屋は発光する壁で出来ていて三人は眼を細めた。部屋の中央には台座があり、その上にひとつの仮面があった。いつからそこにあるのか……仮面はそれ自体が神であるかのように祭られている。
ひとりが近づき頭を覆っていたマントを下ろす。すると、金色の仮面とたくましい肉体が姿を現した。額には四本の短いツノが生えており、両頬からは前方へ湾曲している太いツノがついている。壁の光りを乱反射させ、男は神々しさと威厳をかもし出していた。
「やっとたどり着いた。これがセウサの仮面」
声から判断するに、二十代前半だと思われる。その男が、後ろにいる二人に尋ねた。
「セウサの強さ……いや、この仮面の恐ろしさがどこにあったか知っているか?」
「それはいったいなんでしょう」
そう答えたのは女性だった。
「精神支配の能力は児戯に等しい。この仮面の恐ろしさは他にあった。それは二つ。姿を消す能力と雷だ」
金色の仮面は声高に云った。
それに、先ほどの女性が口を挟む。
「失礼ですが、ラデス様の暗黒球のほうが上かと存じますが」
ラデスと呼ばれた金色の仮面は振り返りざまに笑った。
「ハハハハ。お前は何もわかっちゃいないな、エラよ。ただ姿が消えるのではない。存在自体が消えてなくなるのだ。そうするとどうなると思う? セウサの存在を忘れてしまう。戦っていたことも忘れてしまう。今まで誰と話していたのか、何をしていたのか、セウサと関係していることすべてが忘却に消え去ってしまうのだ」
「そして、予期せぬところから電撃が降ってくる……」
低く落ち着きはらった声。もうひとりは男だった。
「セイダンは理解したか。そうだ、相手は訳もわからず絶命する」
「申し訳ございません。恐ろしい仮面ですね。しかし、セウサの仮面を手に入れた今、世界はラデス様のものに……」
「いや、ひとつ気がかりなことがある」
それは? とエラが尋ねると、ラデスはこぶしを握りながら答えた。
「ミダンの女王プロメタが被っていたという謎の仮面だ」
「ミダンの女王プロメタ……」
「セウサと互角に渡り合ったという仮面だ。何処にあるのか、まだ破壊されずに存在しているのか。文献が残っているはずだが、一切が謎に包まれている。しかし、プロメタの仮面を倒した世界最強の仮面は今手にした。世界を統一してゆっくりと探すことにしようじゃないか」
二人は頭を下げ、エラが宣言した。
「世界は我々、三叉の矛とラデス様が掌中に収める」
ラデスは歓喜の声を発した。
「エラ、セイダンよ。俺について来い。これから世界を手に入れるぞ」
ラデスは銀色の仮面を高々と掲げた。
つづく