第一部 第三章 青い絆 その4
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二人は犯行現場であるサラノスの部屋へと戻ってきた。
入るなり、カオスは部屋の隅々まで眼をこらした。腰をおろし、さらに台を使って眼の届かないところまで。
それを見たメテアは手を叩いた。
「わかった。あんた今、証拠を探しているのね。名探偵にでもなったつもりなんでしょ」
「う、うん。ちょっとそういう気分だけど、でも、小説のようにトリックがどうとかはないと思うよ」
「何でそう云いきれるのよ」
「だって、ボクたちに見られることは想定していなかったはずだからね。証拠は隠したはずだけど、急いでいたから何かを残しているかな、と思って。だからこうやって調べているんだよ」
「この部屋って、一番奥にあるのよね」
カオスは顔をメテアに向けた。
「そうだね。ここからテシュパ、エフノ、マー、ストスの順だ。サラノスの部屋の向かいがナト、ボク、メテアで、その隣がトイレになっている」
「トイレのところに階段があるわよね」
「そうだね。階段を上がったら眼の前にストスの部屋だ。来客の際、迎えるのがストスらしいから、階段の近くがいいと云っていたよ」
そこでカオスは、何かを思い出したように含み笑いをした。
「メテアはトイレの近くでよかったね。寝てる間にオシッコしてもすぐ行けるし」
「何年前の話よ? 殺す」
メテアの前蹴りが炸裂。カオスは窓まで飛ばされた。
そこで少し苦しんだあと、カオスは突然、笑い出した。
「ど、どうしたの? そんなに強く蹴ったつもりはないんだけど……頭? 頭なのね! いやあああ」
「違うよ。大丈夫大丈夫。カギを発見して、侵入経路もわかったんだ。ありがとう、メテア」カオスが立ち上がり、つづける。「あとはストス、マー、エフノに会うだけだ」
「蹴って褒められたのは初めてで妙な気分だけど……どういうこと?」
カオスは外を指差した。
メテアが窓の外に視線を巡らせる。すると、ちょうどマーの部屋の下あたりに、金色に輝くカギが落ちていた。
メテアがそれを確認するのを見て、カオスは窓の鍵穴を指差した。
「これで、状況証拠はそろったよ。さあ、行こう、メテア」
部屋を出て、最初に向かったのはエフノの部屋だった。
ノックすると、彼はすぐに出てきた。
「夜分遅くにすみません。ちょっと確認したいことがありまして」
「確認したいこととは?」
「エフノさんの能力は……つまり頭部の糸は、先ほどの数本だけじゃなくて、全部を同時に動かせるのですか?」
「はい、可能です」
「そうですか。それでは糸のチカラはどれくらいでしょう?」
「一本のチカラは弱々しいのですが、三本、五本と束になると、ある程度の岩なら持ち上げられますよ」
「なるほど、わかりました。わざわざ協力してくれてありがとうございました」
「いいんですよ。それより、何かわかりましたか?」
カオスは手を左右に振った。
「それが、さっぱりですよ」
「まあ、無理しない程度にがんばってください」
「ありがとうございます」
エフノと別れ、次はマーの元へ向かった。
「すみません、マーさん、起きてますか?」
マーも呼び出したあと、すぐに出てきた。
「いろいろあって眠れないのですよ。どうかしたのですか?」
「マーさんに訊きたいことがありまして、能力のことなんですが」
「能力がどうしたんですか?」
「あの人形は一体しか出せないのでしょうか?」
「ああ、そのことですか。はい、いっぱい出せれば、便利なのですが」
「そうですか。じゃあ、人形のチカラはどれくらいあるのですか?」
「いやあ、これもダメでね。小石をやっと持ち上げられるくらいです」
ここでカオスは頭を下げた。
「訊きたいことというのはそれだけです。どうも、ありがとうございました」
二人がサラノスの部屋へ向かう途中、メテアがカオスの腕を掴んで止めた。
「どうだった?」
「嘘はついていなかったよ」
こういうトリックだった。エフノとマーが出てきたとき、カオスのコピーが開始された。彼らが云うように、どれくらい同時に動かせるのか、チカラはあるのかを、廊下にある植木鉢などで、こっそりと実践していたのだ。
サラノスは快く二人を出迎えてくれた。
相変わらず圧倒的な量の本だった。カオスは読書が趣味だったため、興味をそそられる本がいっぱいあることに気づいていた。すべてが終わったら、景色と美味しい紅茶を味わいながら、読書を堪能しよう、とそう思った。
サラノスはデスクに座り、カオスたちはソファへ腰かけた。
「で、何を訊きにきたのかの?」
カオスは居住まいをただした。
「テシュパくんと話しをしていたと云いましたよね。そのとき、どんなことを話されたんですか?」
「なあに、おぬしらと旅に行くという話しをしておったのじゃ」
そう云ってサラノスは自慢のヒゲをさすった。もしかしたら、それは彼の癖なのかもしれないと、ぼうっとカオスは見ていた。
「最初は何処へ行くの? 何をするの? とテシュパは訊いておったんじゃが、くわしい内容を知るにつれ、鼻息が荒くなってきおってな。最後には、おじいちゃんなんか何処かへ行っちゃえ、と怒鳴りだしおったわい」
「大声でですか?」
「そうじゃ」
「ありがとうございました。それが訊きたかったのです」
カオスは深々と頭を下げた。
「なんじゃ、犯人がわかったのか?」
「犯人わかったの?」
サラノスとメテアの驚きは同時にあがった。
「うん、まあね」
「で、誰なのよ」
「それはまだ云えない、あとはストスさんと会って、最終確認だ」
メテアはカオスの言葉を訊いて、襟首を掴んだ。
「その首へし折る! もったいぶらずに云いなさいよ」
身の危険を感じたカオスは、ゆっくりと言葉を発した。
「今のところ犯人はあの人だ。でも、確認しなきゃならない。ひとつだけ云えることは、この事件を解決するのは探偵の推理でもなんでもない、仮面なんだ」
「能書きはいいから早く犯人を教えなさいよ」
カオスの首が、あらぬ方向に曲げられた。
「は、犯人は……」
つづく




