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第一部 第三章 青い絆 その3

     3


 二階の窓に映る二つの影が、ふと見上げたカオスの眼に飛び込んできた。

 確かあそこはサラノスの部屋だな、と考えていると、左側の影が、もうヒトツの影に飛びかかって行った。そのまま窓から消える大きくなったヒトツの影。

「メテア、何かがおかしい」

「どうしたの?」

「行ってみよう」

 屋内へ入り、階段を駆け上がる。一直線にサラノスの部屋へ向かう。

「サラノスさん、無事ですか。何かあったのですか? サラノスさん」

 ドアを叩くが返事はない。

 この騒動に、ナト、エフノ、マーの順に、三人が不審な表情を浮かべながらやってきた。

「どうした?」

「何かあったのですか?」

 カオスは落ちつきを取り戻して、彼らに云った。

「誰かが争っているのが見えたんです。ちょっと尋常じゃなかったもので心配して来てみたのですが……」

 それを訊いてナトが言葉を発した。

「ここにいないのはサラノス、ストス、そしてテシュパか。誰と誰だろう」

「それはわかりませんが、とにかく入ってみましょう」

「よし」

 そう云ってナトは片腕を剣に変えた。扉をたたき切るつもりだ。

「待ってください。そんな物騒なことをしなくても」

 エフノが前に出た。

「迷宮を突き崩せ、ナムチ」

 頭部の糸が三、四本、グ~ンと伸び、鍵穴へ入った。数秒もたたないうちにガシャリと錠の解かれる音。

 なだれ込むように部屋へ入ると、男がひとり倒れていた。

 それと同時に部屋の外から、ワシの部屋でなにをしとるんじゃ、という声。サラノスであった。

 倒れている人物は、ストスだった。

 ナトが近づき脈を取る。

「大丈夫だ、死んではいない。気を失っているだけだ」

 続いて医者の二人もストスの元へ駆け寄る。

「カギはかかっていましたね」カオスはゆっくりと室内を見回す。「窓も施錠されている」

 カオスはサラノスへ顔を向ける。

「この部屋のカギは誰が持っているんですか?」

「わしとストスが一個ずつ持っているが」

 それを訊いて、カオスはストスのポケットを調べる。

「カギがありません。何処へいったのでしょう」

「わしのはこのとおり、持っておる」

 そう云って、サラノスは自分が持っていたカギをポケットから取り出した。

「念のためだ、お前たちの所持品を調べさせてもらおうか」

 ナトが医者の二人を一瞥(いちべつ)した。

「私たちを疑っているのですか?」

 マーがポケットをひっくりかえし、エフノも同じ行動をする。しかし、二人は何も持っていなかった。

「テシュパくんを救いに来たのに、こんなことするわけないじゃないですか」

 エフノが怒りをあらわにする。

「そうですよ。失礼じゃないですか。でも、この人ならカギがなくても入れるのは実証済みですよね」

 マーがエフノを指差した。

「何を云ってるんですか。あなたの能力でもカギは開けられるんじゃないですか?」

「そ、そうかもしれません……しかし、真っ先に疑うべきはカギを持っているサラノスさんでしょ」

「わし?」

「そうですよ。お孫さんのことでストスさんと言い争っていることがあるかもしれない」

「バカバカしいことじゃ」

「ちょっと落ち着いてください」

 パニックになりそうなのを、カオスが止めた。

「サラノスさんは今まで何をしていたんですか?」

「なんじゃ、おぬしも疑っておるのか?」

「いや、そうじゃなくて、一応全員の所在証明を知りたくて」

「ふん、まあいい。わしはおぬしたちが大騒ぎするまでテシュパの部屋におったわい」

「今、テシュパくんは?」

「もう遅いから寝かせたぞ」

「そうですか、わかりました。それではあなたは何をしていましたか?」

 カオスがエフノを見た。

「私は明日の手術のシミュレーションをしていました」

「私は脳内構造の資料に眼を通していました」

 マーが慌てて続く。

「つまり、二人は犯行のときに独りでいたわけですね」

「それなら、俺も独りだったぞ」

 二人をかばうわけではないが、ナトが名乗り出た。

 マーは鼻息を荒くして、ここぞとばかりに反撃へ転じる。

「突然現れたあなたたちにも疑わしいところがあるじゃないですか。そうか、わかりましたよ。仕組みはこうですね」

 マーはそこで、カオスとメテアを指差した。

「襲われている影を見たというのは狂言で、あなたたち二人がストスさんを襲い、そのあと、あたかも目撃者だというふうに装い、犯行後、大声を張り上げた」

 マーが舐めまわすように二人を見る。

「二人はそんなことをしないと、魂に誓って保証する」

 ナトが威圧的にではあるが、救済に入った。その恐怖的な気に、マーは言葉を失った。

「とにかく今日はもう休んで、くわしいことは明日、手術後ゆっくり話し合うことにしましょう」

 カオスの提案に一同は賛成した。

 部屋へ戻る途中、メテアはカオスを呼び止めた。

「ちょっと待ってよ、カオス。このままみんなを帰しちゃっていいの?」

「うん。でも、これからいろいろ調べることがあるよ。メテアも手伝って」

「調べること?」

 カオスは部屋へは戻らず、クルリと引き返した。


つづく

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