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第一部 第三章 青い絆 その1

   第三章 青い絆


     1


 そこはとてもとても小さな村で、妖精が躍り出しそうな、なんともいえない優しさに満ちあふれていた。

 そこら中に色とりどりの花が咲き乱れ、気持ちのいい香りが漂っている。木造の建物はどれも外壁に花飾りが施され、何処を見ても眼と心が癒された。

 誰でもこの村に入ると時間の流れ、すべての(いさか)いを忘れるだろう。

 ただひとりだけ、場に似つかわしくない男がいた。

 男は椅子を壊しそうなほど身体を動かし、大きな骨付き肉をわしづかみにし、ぼろぼろとこぼしながら、そして、ぐちゃぐちゃと音を立てていた。

「がっはっは、うまい!」肉の欠片が飛び散る。「この村が隠れた名所と云われる由縁(ゆえん)は、この肉のうまさだろうな」

 絶対に違う、と首を横に振る人物が二人いた。カオスとメテアだった。

「ナトさん、そろそろ行きましょうか」

「何、もう行くのか? お前たちはほとんど食ってないではないか」

 メテアが真っ青な顔で云った。

「おじさんの食いっぷりを見てたら具合が悪くなってきたのよ」

「そんなんじゃ強くなれんぞ、譲ちゃん。がっはっはっは」

「カスが飛んでる飛んでる!」

 暴れるメテアにかまわず、ナトはカオスに顔を向けて云った。

「それはそうと、本当にこの村にいるんだろうな? その……サロンラップというじいさんは」

「サラノスです。この村出身の旅人からの情報なので間違いないと思います」


     ☆


 見るからに村長の家とわかる、ひときわ大きな建物があった。

 三人は門をくぐる。その瞬間、視界いっぱいに花園が広がった。鼻腔(びこう)をくすぐる甘い香り、空を舞う七色の蝶に興奮するメテア。

 カオスは、花の咲いていない一画が妙に気になった。浮いてるというか、場にそぐわないというか、おぼろげに違和感を抱いた。

 建物は他とは違い金属で出来ていた。この村で唯一の金属だろう。堅牢な牢屋のような気がして、何処か寒気を感じさせる。

 ナトはそんな建物に臆することなくドアを豪快に叩いた。

「いるか? サランパス!」

「サラノスです。すみません、サラノスさんに用があって参ったのですが。いらっしゃいますか」

 しばらくして、鉄の扉が重々しい音を立てながらゆっくりと開いた。

「あの……どちら様でしょうか」

 うろこのようなモノがたくさん付いている仮面の中年男性だった。

「サラノスさんにお願いがあってまいりました。ボクがカオスで、こっちがメテア。そして、礼儀を知らないこちらが、ナトです。どうしてもお目通りかないたく」

 中年男性はカオスの言葉を訊いて、しばらく考え込んだ。数秒後、静かに口を開いた。

「今はちょっとタイミングが悪いんですが……少々お待ち下さい」

 そう云って、再び重苦しい音を立てながら扉は閉じられた。

「何かあったのかな?」

 怪訝そうにメテアはひとりごちた。

 それからどれくらいが過ぎただろうか。いい加減待ちくたびれ、ナトが落ちつきを失い始めたとき、扉がゆっくりと開いた。

 出てきたのは再びうろこ仮面だった。

「父の了解がでました、どうぞお入り下さい」

 三人は広いリビングに通された。壁には有名な絵画がいくつもかけられていて、暗い部屋だが、陰鬱さはなく上品な感じが漂っていた。室内にも、名称のわからない草花がいくつもあり、絵画とあいまって小規模な博物館のような部屋となっていた。

 来客はカオスたちだけではなく、他にも二人の姿があった。

 ひとりは両眼から二十センチくらいの細い管が二本突起している仮面の男。

 もうひとりは頭部がトゲだらけの男だった。

「私は、サラノスの息子、ストスといいます。こちらがマーさんで、こちらがエフノさんです」

 うろこの男ストスが、ホース眼の仮面、トゲの仮面の順で紹介した。会釈する二人。

「実はですね……私の息子が原因不明の病にかかっておりまして、いろいろな医者に診せたのですが……やっとのことで、こちらの有望な二人を見つけました。今日は初診で、私たちは期待を膨らませているところなのです」

 それを訊いて、カオスは神妙な面持ちで云った。

「そうだったのですか。大変なときにおじゃましてすみません」

「いや、まあ……いいんですが……」

「差し支えなければ訊かせてくれませんか? いったい、どんな病気なのでしょう」

「それは私から説明しましょう」

 名乗り出たのはホース眼のマーだった。

「彼の息子さんは、何の前触れもなく突然気を失うという前例のない症例でして。私は研究魂を刺激されて志願しました。もちろん、それだけではありません。おそらく、息子さんの病は脳の損傷でしょう。そこで、私の能力の出番です」

 そう云って、マーは自分の眼を指差してみせた。

「これが――」

 ホース眼の先端から、白くて小さな人形のようなモノが出てきた。巨大なひとつ目をもつ人形だった。

「これは究明(きゅうめい)(がん)といって、ミクロのサイズまで小さくなり、そうやって患者の体内にはいり、病原を探るのです。映し出された映像は、私の脳内で拡大や縮小が可能で、どんな微小なことも見逃しません。また、究明眼は、ちょっとした治療なら可能です」

「原因を探り出し、そのあとは私の針の出番です」

 そう云って、エフノが頭部に生えるトゲの一本を引っ張ってみせた。

 するとトゲはズルズルと伸びた。どうやらトゲに見えていたが、糸のようなモノらしい。

「私の針は自在に動き、それぞれが違う動作をするので、同時に千種類のオペが可能なのです。私とマーさんの能力があれば息子さんの病はたちまちのうちに完治するでしょう」

 マーが原因を探り、エフノがそれを治す。なかなか良いコンビネーションだとカオスは思った。

「あの……そろそろよろしいでしょうか……」

 ストスがそわそわとしだした。

「ああ、はい。長い時間足止めをさせてしまってすみませんでした」

 カオスは頭を深々と下げた。

 ストスと医者たちが部屋を出たとき、ナトは苦虫をかんでいるような表情でうなっていた。疑問に思ったカオスは、ナトに尋ねた。

「どうかしたのですか?」

「うむ……いや……たいしたことじゃないんだが、あいつ……何処かで……」

 しかし、それ以降は黙ってしまった。


つづく

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