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第一部 第二章 大会崩壊と少年 その4-2

「フェイントだと決めて攻撃するんじゃない。すべて本気で繰り出せ。相手のチカラ具合、隙、癖を見て、それからフェイントにするかどうかを決めろ」

 ナトの訓練はほとんど拷問に近かった。開始からわずか一時間、カオスの身体はもうボロボロだった。

「まあ、試合を控えた身だ、今回はこれで許してやる。しかし、今云ったことは地獄滅殺流の基本だ。しっかりと頭に叩き込んでおけ」

「はい、ありがとうございます。師匠」

 地獄から開放されたカオスは軽く汗を流し、腹ごしらえをするため外へと出かけた。料亭の前へ来たとき、背後から声をかけられた。

「あら、あなた、カオスくんじゃないの?」

 振り返ると、そこには女性が立っていた。

 ある理由で、彼女が誰であるか、カオスはすぐにわかった。

「準決勝であたる、ディーテ!」

「そうよ。お手柔らかにね」

 カオスは初めて彼女を見たとき、どうしても訊きたいことがあった。それを切り出す。

「ディーテさん、あ、あなたは精神支配を受けないのですか?」

 これまでにも何千回、何万回と受けてきた質問なのか、ディーテは辟易したように答えた。

「大丈夫だから、このままでいるんじゃない」

 しかし、無理もない質問だったのだ。なぜならば、彼女の眼元は仮面がなく、素顔をさらけ出していたからだ。長い黒髪も(あらわ)になっている。鼻から下部分しか覆われていない。これからさらに美しさに磨きがかかりそうな、二十代中半といったところか……。

 ディーテの大きくて黒い瞳が、いたずらっぽく光った。

「ねえ、お願いがあるの。次の試合、負けてくれないかな?」

 ディーテは(なまめ)かしい表情で訴えた。

 しかし、カオスはきっぱりと云い放った。

「ナトさんにも試合中同じコトを云われたんだけど、ボクは勝たなければならないんです。だから、ごめんなさい」

「何か理由があるの?」

 ディーテは残念そうに尋ねた。

「ええ、誓いです。母との……」

 最後のほうは声になっていなかった。


     ☆


「さあ、憎い雨もやんだことだし、いっちょう行きますか。これより準々決勝第三試合を開始するぜ」

 乗りのいい司会者に変わり、会場は興奮の渦に巻き込まれた。

「武術の達人アトロス対、迎え撃つはスナイパー、アマテロ。勝つのはどっちだ。この闘いは眼が離せないぞ!」

 眼が吊りあがり、額に短い二本の角の生えた、恐ろしい形相をしたアトロス。鳥のクチバシのように鼻が前面にとび出ている仮面のアマテロ。ともに一回戦を数秒で終わらせている。

 会場から雑談が消え、シャイアもまた固唾をのんで見守る。

 彼が注目しているのはアトロスだった。

 アトロスもまたナトと同じ、ニョッカの出身だったからだ。三叉の矛への復讐心で燃えるその闘志。見逃すわけにはいかなかった。

 メテアもシャイアの隣でおとなしくなっていた。舞台上の二人のただならぬ闘気を感じ取っていた。この二人の戦闘力、眼を逸らすことが出来ない。

「さあ、優勝候補の二人の戦い――スタート!」

 すかさずアマテロが動いた。

「点をつらぬけ、ムン」

 ガアン、という銃声が鳴り響いた。

 アマテロの能力は、キリシ村のイザナの能力と酷似していた。違うのは、イザナは任意の場所に爆弾を、アマテロの場合は銃ということだった。

 実際、アマテロの能力は恐ろしいものだった。何処に銃を設置しているのか肉眼では確認できない透明の銃。何処から狙われているのか……銃声の後にはもう、撃たれているからだ。しかし、アトロスは無傷だった。いったい、どういうことなのか。

 高速で移動しているわけではない。

 攻撃も食らっていない。

 ただ、ゆっくりとアマテロに向かって前進しているだけだ。しかし、当たらない。いや、銃弾はくらっている、しかし、無傷なのだ。

 アマテロは再び、銃を発射した。

 だが、アトロスは前進するのみ。

「ねえシャイア。いったいどうなっているの?」

 たまらず、メテアは隣のシャイアに云った。

「アトロスの周りをよく見てごらん」

 云われるままに、メテアは注意をはらった。

 すると、何か奇妙な、ひずみのようなものが見えた。

「空気の、壁だよ。触れたものをはじき返す、不思議な壁」

 壁は渦を巻いているようだ。それがアトロスの全身を覆っている。

「僕が注目しているのは、アトロスが攻撃を上空にはじいている、ということなんだ。観客に被害が及ばないように。その優しさは、とても必要なことだ」

 メテアはそれを訊いて感心した。シャイアはただチカラを求めているのではなく、人間性を重んじているのだ。

 戦局が動いた。

 舞台はそう広いわけではない。アマテロはもともとスナイパーを生業としているため、動きに精細を欠いている。対してアトロスの場合は接近戦を得意としているのだ。

 こういう形で対峙していなければ、勝敗がどうなっていたかわからなかっただろう。

「クソ。何だよ、お前は」

「ニョッカの誇りを背負っているモノだ」

「何、わけわかんねえこと云ってんだ」

「我がルヘイムの恐ろしさ、とくと味わうがよい」

「これ以上、近づくな!」

 連続していくつもの銃声が響く、が、アトロスはかまわず腰の入った回し蹴りを繰り出す。アマテロはかろうじて上体をそらし、直撃を免れる、が、アトロスの能力は大気の渦。直接触れなくても、皮膚の数十センチ上の大気に触れれば、はじかれる。

 大きく後方に飛ばされるアマテロ。それを逃がさないアトロス。

 銃が効かないアマテロになす術はなかった。一方的に攻撃を受け、やがて意識を失った。

「勝者、アトロス!」

 歓声とともに準々決勝第三試合は幕を閉じた。


つづく

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