眼差しとあいつ
暁が望んだこと。
それは、大切なものと共に生きること。
時は繋がり、廻る、廻るー
暖かな四畳は遠く記憶の底に。
彼の側で眠るものが彼の底へと対話する
研究員の仕事は山積みだ。私は私の仕事をしなければならない。暁は軽いため息をついて伸びをすると、自分の仕事に戻った。周りの若い研究員はただひたすらに仕事をこなしていく。このラボが国の闇を生み出す母胎となってきたことなど、この若い研究員達は知らない。
暁はその時ふと思い出した。最近このラボに来たばかりの若い研究員が裏機関一のホルダーを見てみたいと言うので、慧を迎えに行かせたのだが、ラボに帰ってきていない。暁は少し考えてまた何かを思い出したのか苦笑いした。全ての事情をやっと把握した暁は、『検査室』と書かれた部屋の方に目を向けた。すると、若い研究員は検査室から出てきて、少し陰った顔をしながら暁に近づいてきて暁の隣に座ると、愚痴をこぼすようにして言葉を発した。右頬がわずかに赤くなっていた。
「暁さん、あれは子供のする目ではありませんよ。あの子が…裏機関一の能力者。」
暁は慧に対して勝手な幻想を抱く若い研究者に多少の怒りを覚えてはいたが、仕方がないとも思っていた。
慧の心はもう普通の人の手には負えない。かつての彼を知らない者は彼のことを口々にこう言う。
『異常者』と。彼を利用し続けてきた多くの大人ですら彼を恐れ罵る者さえいる。この国のお偉いさん方はみな己の利益しか考えない。『あいつ』の様に無鉄砲で真っ直ぐな思いを抱き行動しようとする奴はもういない。
私を苦しみから救ってくれたあいつはもういないんだ。
「なあ、暁、嘘をつける奴は真実を知っている。真実を知っている奴は自らが信じるものを持っている。だからさ、案外嘘をつく奴の事を信じてみてもいいのかもな。」
あいつはいつだって不思議なことを言っては笑っていた。
あいつには世界がどう映っていたのだろうー
第二種として産まれ『グロー計画』に利用されてきた私にはあいつの様な心も、逞秋の様な力もなかった。私が創り出すものは人を傷付け、殺し、壊していくものだった。そこで生まれる痛みに耐えられなくなり、私は心に蓋をした。そんな私を救ったのはあいつの眼差しだった。
一緒にいたいと願ったはずだった。けれど、いつの間にか独りになっていた。
独りになってしまったけれど、二人は大切なものと意志を私に残していった。時は必ず繋がり廻り続ける。かつてのあの暖かい四畳の部屋が導いてくれたこの時と慧を私は守ろう。暁は薬で眠ったままの慧を見つめた。
彼の寝顔が苦しそうに歪むようになったのはいつからだったのか。慧の夢の中が過去の『幸福』になってしまったのはいつからだったのだろうか。
私は答えの持ち合わせのない疑問を頭に浮かべながら、慧のブレスレットを探すのだった。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました(o^^o)
次は新キャラを登場させようと意気込んでます
キャラぶれしないように頑張ります