やはりおみやげ
男は部屋の中に入っていった。つられて僕も入っていく。何には棚があり、たくさんのファイルが埋まっている。男はなにやら頷きながらファイルを取り出しては戻していく。
「そういえば、もうカルテは破棄処分だった。閻魔さまがいってた。まったく合理化だとか言って」
ぶつぶつ言っている男は言葉ほど、苛立っているようには見えなかった。
「変わりに死亡診断書か。これじゃ、娘のカルテは見つからないな」
そういいながらもなにやらあさって、見ている。
「死亡診断書しかない」
男は僕に知らせるように言った。
何か書いてあるが、他人の死亡診断書を見ても気持ち悪い思いがするだけだ。
唐突に「おまえもある」と男は言った。
「はっ?なんで?」
「それはここにあるのが、生きている人間の運命を書いてあるからだ」
急に暗い目つきで男はそれを見ていた。
「何を言っているの?そんなのあるわけないじゃん」
僕のまともな見解を無視した男は目線をこちらに向ける。妙に目つきが怖い。
そもそもおかしいのは確かだ。やはりこの病院は三階建てだったと思う。四階に来て、
「おまえはあと三日後に脳挫傷で亡くなると書いてある」
「えっー!なぜ?」
「脳挫傷だから、高いところ落ちるとか、交通事故に遭うとか、事件に巻き込まれて……」
「……巻き込まれて……?何?」
「たとえばだが、通り魔にあって頭を殴られるとか」
男の低い声はこの状況では怖い。そして、その手にはいつの間にか、太い棒を持っていた。
「江戸時代の話をしよう。ある男がいた。そいつは貧乏で、娘をなくし、貧乏を呪っていた。そして、あるとき自分の境遇を自分はいわば貧乏神。世の中に不必要なものはないと前向きに考えた。閻魔さまは娘のことは仕方ないが、男がその悲しみを乗り越えるまで、貧乏神であることを許した。男は貧乏神を祀った神社を建てた」
「へえ……」
僕はなんだかわからないが、
「その神社を造ったやつがしゃれていて、江戸の庶民を呼び込むときに『お参りなきときはこちらからお訪ねする』と」
そうですか、と感心する僕。すぐに自分のバカぶりを苦笑した。
「助かりたければ……」
「どうすればいいの?」
「明日……」
「明日?」
「おみやげ持って来い」
「はあ?」
僕は意外な答えにあっけにとられた。
「命とおみやげどちらをとるか、おまえの自由だ。
すると男は棒を杖にしながら部屋から出て行く。出て行く間際にもう一言。
「来ない場合はこちらからお訪ねしよう」
僕はどうすればいいのだろう。とにかく男を追いかけた。すると男は消えていて、病院はもとの荒れ果てたままの廊下になっていた。




