廊下の先には扉がふたつ
カサカサと音がする。音は小さく、そしてだんだん大きくなってきた、
僕らは立ち止まり、暗闇を凝視した。廊下の先から何か来るのは確かだ。暗くてあまり見えない。
「何かいる」
「なんだろう」
ほぼ同時に僕たちは答え、立ち止まった。奥の方から何か歩いてくる。
「人がいる」
僕は思わず言った。
「そんなはずはない」
男はそう答えた。
ゆっくりと近づいてきた。やがてうっすらと視認できるようになり、僕たちは安堵した。それは白い猫だった。それは何事もないように歩いてくる。そして、僕たちの前で一声猫鳴きをしたあと、そのまま通り過ぎていく。
僕たちが猫をかまわなかったのはなぜだろうか。少なくとも僕には理由があった。それは猫の陰が異様に大きかったからだ。それは猫の影にしては形も変だった。四本足がそれぞれ伸びていたわけではなく、僕には二本足が伸びていたように思えた。僕には人型に見えた。
「あれ人じゃないの?」
「なに言っている。猫だったろう」
男は気がつかない様子で心底不思議そうな表情を向けていた。確かにそばを通り過ぎたのは猫だった。
何事もないように男が進むので、後ろをついていった。やがてまた廊下の脇の小窓から外を眺めたが、街灯があるくらいで何も見えないはず……。実際はうっすらと人影があったが気にしないようにしていた。不思議と怖さはなかった。
男と突き当りまで来ると、「ここだな」と呟くようにいった。まるで知っていたかのように。
そこには左右二つの扉がある。何かいる。そして、右の扉からは乾いた物音、左の扉からは湿った物音がする。
「どうする?」
男は僕に問いかけた。
「開けないほうがいいんじゃないですか?」