目を覚ますと
廃業病院で男に出会い、なぜか一緒にカルテを探すはめになる。
目を覚ますとそこには無精ひげの男の顔があり、マジマジと見た後、自分が廃業していた病院にきていたのに気づいてさらに意識が遠くなる。
「おい、しょうがないやつだな、ほれ、起きろ!」
ビンタをもらって、意識がはっきりし、再びマジマジ無精ひげの男を見た。そして、自分の状況がうまく飲み込めないこともあって、僕は沈黙するばかりだ。
僕を起こした男はやがて腰を降ろして、僕の持ってきた酒を飲んでいた。
「ひさしぶりの酒はうまい。人と話すのも久しぶりだ」
男は酒を飲み、そして、流暢に話し始めた。声音を聞くと若いのかもしれない。といっても、高校生の自分よりはかなり年の差は離れている。男は自分がここにいる経緯を流暢に話しながら、酒を飲み、僕は相槌を打つのが精一杯なほどまくし立てるように言う。気性は荒いようだ。
その男の話によると、あくまで本人の話を自分の解釈で言うと「この病院で昔、娘を亡くし、 それは医療過誤で、裁判を起こすためにカルテを探しているという。しかし、裁判を起こす前に病院は廃業されて、手術を担当した医者は失踪。それでもまず、カルテを見つけ、その後医者を探し出して裁判を起こそうとしている」
実際そんなことがありえるのかはわからないが、少なくとも男は一ヶ月前からこの病院に住み込み、カルテを探しながら暮らしている。思わぬところで僕は友人の巻き添えを食い、その友人が今はいないばかりか、この男の巻き添えを食う羽目になった。というのも、「おまえもいっしょに探してくれ。報酬は裁判でがっちりもらえるはずだから」
そんなことを言うが、裁判に勝てばの話し出し、裁判は何年もかかるはず。しかもまだ裁判は始まっていない。僕はそれを承知で今日一日だけ同意した。ついでだからこの病院を見て、友人に自慢しようと思ったのだ。




