Epilogue10:「――Triple alliance――」
アナテマ大陸の北と東の境界。
何と呼ぶべき方角なのかわからないその地点に、2色の旗がはためいていた。
1つは黒、大陸北方に割拠する老大国・アムリッツァー大公国。
1つは白、大陸東部に割拠する宗教勢力・連合。
「こうして直に顔を会わせるのは、初めてでしょうか」
「そうでしょうね、そうでしょうとも」
そこは先に大公国と連合の軍勢が衝突した地点より、やや南に寄った場所だ。
そしてそこで、両国の軍勢が睨み合っていた。
だが今度は衝突しておらず、一定の距離を取って互いを牽制し合っている様子だった。
その代わりに、両軍の間には戦場には似合わないものが設置されていた。
日差しを避けるための帷幕、円卓、そして椅子だ。
まるでこれから会議でも始まるのかと、そう言いたくなるような設え。
ならば言おう、その通りだと。
ただしこれから始まるのは「会議」では無く、「会談」である。
「何よアンタ達、今さら知らない仲でも無いでしょうに。何でそんなギスギスしてるのよ」
円卓の北側に座るのは、魔術協会の暫定トップにして大公国の交渉全権大使イレアナ・ケリドウィン。
対して東側は、連合の最高司令官にして聖都の交渉全権大使ファルグリン・シュトリア。
現代最高の軍師と目される両者は、お互い以外の第3の声に視線を向けた。
2人も若いが、そこに――円卓の南側の席――座っている人物は、それに輪をかけて若かった。
「私はむしろ、貴女がどうしてこんな場を用意したのか、の方が気になりますがね」
「何よ、ちゃんと教皇聖下の許可は貰ってるんでしょ?」
その人物は、他の2人と異なり軍を率いてきていない。
ただその代わりなのか、赤毛の少年――イサーバである――が隣に座っていて、床にはやたらに巨大な大蛇が這っている。
ある意味、1番威嚇していると取れなくも無かった。
ファルグリンの意味深な視線も、どこ吹く風だ。
別れた時よりも泰然としていて、良い意味で余裕が感じられる。
自分を飛び越えて先に教皇に親書を送るなど、よもやの策ではあった。
「それで、公女殿――いえ、大使。今日ここでの会談を希望した理由は?」
「そうね、まずはこの会談の目的について説明しようかしらね」
イレアナはさらにわかりやすい、公王の要請に応じただけだ。
曰く、「あの子の話を聞いてあげてね」だそうだ。
先に公王を抑えられている以上、イレアナは形式上はこれに配慮しなければならない。
有効な策だ。
また、イレアナ自身にも関心があったのだろう。
「私は今日、大公国と連合にある提案をしたくて、今回の会談を希望したわ。まず、協力を頂いた両国の国家元首に感謝の念を表します。有難う」
第3の少女。
フィリアリーン・ミノス同盟側の交渉全権大使・リデルが口にする言葉に。
あの公王幽閉劇からの2ヶ月でそんな肩書きを得て、しかも不倶戴天の宿敵である両国の代表を同じテーブルにつかせた少女に。
「それで」
「提案とは?」
「提案と言うのは他でも無いわ。来るべき戦いに向けて、私達……」
ファルグリンとイレアナ程、興味を持っている者達はいないだろう。
そんな2人に対して、リデルは言った。
いつものように、自信に満ちた表情で。
「――――私達、3つの勢力で同盟を結ぶことを、提案するわ!」
時代を動かす一言を、告げた。
そして時代は一気に動き出す、2大国の冷戦時代から3つの勢力による勢力均衡の時代に、そして3国の融和の時代に。
中心にいたのは、リデルと言う誰よりも若い少女だった――――。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
これで10章も終わり、次回が最終章となる予定です。
上手く終わらせられると良いのですが。
それでは、また次回。