Prologue10:「――Query――」
男は、問うた。
何故、と。
それはまさに、真理を求める求道者のように。
「何故ですか。何故、我々は300年もの間、争い続けなければならなかったのですか」
そう、まさに彼は真理を問うていた。
何故争うのか、その問いかけは全ての歴史学者が持つ問いでもあろう。
何故人は、争うことをやめられないのか。
理由は色々ある、「つまるところ人間も動物なのだ」とか「欲望を抑えきれないとか」とか、様々だろう。
しかし、それらは総じて哲学的な分野に類する。
人が争うのは、そうした哲学によってだけでは無い。
より悪意のある、より救いの無い理由から争いが始まり、そして終わらないこともあるのだ。
「何故、我々は今も、未来も。争い続けなければならないのですか……!」
例えば、そう、何者かによって「争うこと」が確定されている場合だ。
その場合、争いごとを始めた何者かの意思が無ければ、争いは終わらないことが多い。
ソフィア人とフィリア人、アナテマ大陸において最大人口を有する2つの人種の間の争いもその1つだった。
300年に及ぶその争いに対して、その男は異を唱えていた。
金色の髪に彫りの深い顔立ち、身に着けている衣服も質素だが仕立ての良いものだった。
見るだけで、高貴な身分だとわかる。
「――――第七公子アクシス、キミは何をそんなに興奮しているのかな」
そして、応じる側もまた同じだった。
金細工を施された漆黒のローブ、穏やかな佇まい。
男に対しているその存在は、表現に迷うが酷く不確かで、しかし確かにそこに存在していた。
彼ら2人は、赤い星々が夜空の如く煌く不思議な部屋で向かい合っていた。
「確かに争いは続いている。でも良いじゃないか、それによって人間は傷ついていないのだから」
「人間が傷ついているではありませんか。何の罪も無い人々が」
「第七公子アクシス、ボクはキミが何を問題にしているのかわからないよ」
それよりも、と、対する声は言った。
「ボクの問いに答えてほしいな、第七公子アクシス。キミは、王になるつもりがあるのかい?」
「…………」
「他の子供達はどうにも、欲が強すぎてね。キミが良いと思うのだけれど」
「…………私は」
王になれと、そう言った。
そしてその問いかけに、彼は。
「僕は――――……!」
――――そして、時は流れる。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
今回から10章に入ります。
上手く描けると良いのですが……頑張ります。
それでは、また次回。




