Epilogue9:「――Your mother――」
ここは、どこだろう。
ベルフラウは怯えながら、その部屋を見回していた。
公都の宮殿と公都しか知らない彼女にとって、その部屋は余りに異質だった。
異質と言うより、異常、と言った方が正しいだろうか。
上を見れば本来は天井があるはずだが、この部屋ではそれが見えなかった。
その代わりに、赤い星空が広がっていた。
星のように見えるのは全て<アリウスの石>だ、リデルの首飾りに勝るとも劣らない、透明で高純度の石が星空の如く散りばめられていたのだ。
「……怖い」
それはあの日、父の棺を前にリデルと見た輝きに似ている。
だが、どうしてだろう。
同じ輝きのはずなのに、どうしてこんなにも不気味に感じるのか。
この赤い輝きの空は、酷く不安な心地にさせる。
「怖がることはないさ」
その時だった。
誰もいないと思っていたから、声が聞こえて肩が跳ねた。
「だ、誰? 誰かいるの?」
「怖がることは無いと言ったよ、大公女……いや、公王ベルフラウ」
辺りを見渡すが、どうしてか声の主を見つけることが出来なかった。
視界が悪いからだろうか。
いや、不気味な輝きとは言え光量は十分だ、何も見えないと言うことは無いはずだった。
そのことがベルフラウをまた恐怖させた、目尻の端に涙すら滲んでいる。
その涙を、誰かの指が掬った。
優しく、白くほっそりとした指先が透明な雫を掬い取る。
ぎょっとして振り向くと、そこには誰もいなかった。
声もする、指で触れられもした、なのに姿が見えない。
混乱した、どうすれば良いのかわからなかった。
「うう。リデル、リデルぅ……」
ぐすぐすとしゃくり上げながら呼ぶのはリデルの名前だった。
頼り癖がついたわけでも無いだろうが、他に頼る人間を知らなかったのだ。
「こっちだよ」
また声がした、どこか苦笑を滲ませた声だった。
あえて表現するなら、幼子を宥めるような声音だった。
ベルフラウが恐る恐る振り向くと、今度は、いた。
赤い星空の下、ゆらり、と立っていた。
三日月のような笑みを、口元に湛えて。
「あ……あなた、だぁれ?」
お前は誰だ。
それは古来より、相手のことを知るために必要な質問だ。
通常、相互理解の第一歩として扱われるべき言葉である。
「ボクかい? ボクは<大魔女>」
そんな言葉に対して、相手は答えた。
「キミ達みんなの、お母さんだよ」
だが、その答えは相互理解とは程遠い物だった――――。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
これで9章は終わり、次章に移ります。
予定ではあと2章、最後までお付き合い頂ければと思います。
それでは、また次回。




