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Prologue9:「――Separation of――」

 そこは、世界の中心だった。

 そこには本当に全てがあった、この世の全てが。

 富、名声、力。

 その椅子に座る者には、この世の全てが与えられていた。



「出奔する」



 星を散りばめたかのような宝石の天井、それは空を支配していると言う象徴。

 水を敷き詰めたかのような透明感のある壁と床、それは海を支配していると言う象徴。

 古今東西のあらゆる種類の調度品が飾られた部屋、それは大地を支配していると言う象徴。

 人々から玉座の間と呼ばれるその部屋は、支配者の住まう部屋である。



「……と、言うのか。どうしても」



 たとえ、椅子に座しているのが押せば折れそうな老人だとしても。

 たとえ、老人の周りに誰もいなくとも。

 たとえ、今まさに1人の青年が彼の下から去ろうとしていたとしても。

 その青年が、彼の息子の1人だとしても。



「父を捨て」



 まるで、呪いのように紡がれていく言葉。



「国を捨て、家族を捨て、兄弟を捨て、友人を捨て、全てを捨てて。この父に叛こうと言うのか」

「叛くのではありません」



 金髪菫瞳、彫りの深い顔立ちを青年は、凜とした声で言った。



「民が誰かを求めるのであれば、彼らと共に在ろうとする者が1人くらいいても良い。僕はそう思います」

「だが、そなたでなくとも良い」

「僕であっても良い、と思います」

「何故、フィリア人などと」

「あなたがフィリア人などと呼ぶ人々も、同じ民であったはずだ」

「お前は何もわかっていない!!」



 慟哭のような叫びの後に、沈黙が来た。

 ぜいぜいと息切れのような音が聞こえて、玉座の間にはそれ以外の音が何も無いことに気付く。

 まるで、玉座が孤独の友であるかのように。



「……勝てるわけが無い。勝てると思っているのか……」



 玉座に沈むように座り込み、老人――公王は、言った。

 まるで、絶望を垂れ流すかのように言葉を呟く。



「あのに、あの魔女・ ・に。勝てるわけが無い」

「……それでも、僕は往きます」



 対して決意を、未来への希望を言葉に乗せて。



「自分が何をすべきなのか。それは、僕自身にしかわからないのだから」



 父の制止を振り払うかのように背中を見せて、息子は歩き出す。

 玉座を捨て、父の声に耳を貸さず、ただ民のために。

 この日、彼は魔女・ ・ の敵となった。





 ――――そして、時は流れる(じゅうにねんご)


最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。

今話から9章開始です、宜しくお願いします。

それでは、また次回。

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