Prologue8:「――Good friend――」
いつかの夜、どこかの森の中。
生い茂る木々の間から覗くのは、深く澄んだ星空。
夜の森、暗闇しか無いはずのその場所に、1箇所だけ不自然な光があった。
燃え盛る焚き火、と言う不自然な灯りだ。
「ぐ、む……むぐっ、はぐっ」
そこに男が1人、いや2人いた。
1人は黒い外套を身に纏った金髪紫眼の男で、こちらは黙して語らず、火の前にじっと座っている。
そしてもう1人は筋肉質な身体の大男だった、独特の模様を描いた毛織物の衣服を着ている。
獣の肉だろう、彼は火で焼かれたそれを両手で掴み、顔を脂塗れにしながら貪り食っていた。
「ん、んぐっ……ふぅ。いや、助かった。生き返った心地だよ」
「……いや」
毛織物の男は肉を食べ終わると――骨まで綺麗に――座ったままの姿勢で頭を下げた。
激しい勢いで行われたそれに、対照的な態度で金髪の男は応じた。
「一飯の恩義だ。何か礼をしたい、望みはあるか?」
「……特に無い」
「そうか。まぁ、仕方ないな」
どうやら毛織物の男は行き倒れだったのか、金髪の男に食事を与えられていた様子だった。
礼をしたい気持ちはそこから来ているのだろう、空腹時に与えられた食事の恩は深いものはある。
しかし礼の気持ちも押し付ければ負の結果をもたらす、毛織物の男もそれはわかっているのだろう。
無理強いはせず、ふむと考え込んでいる。
金髪の男は、心の底から対価を期待せずにそうしたのだろう。
心の底から礼を求めていない、逆に言えば望みが無い状態だ。
清廉と言うには、やや希薄な心の動きと言えた。
何故そうなのかは毛織物の男にはわからない、だがそれで良かった。
それと恩義は、全く関係が無いからだ。
「ならば、望みが出来たら言ってくれ。何であれ、叶えると約束しよう」
「別に必要ないが……」
「構うな、俺がそうしたいだけだ」
2人の男は、常に共にいる友と言うわけでは無い。
朝になれば別れて、きっと二度と会うことは無いだろう。
「俺の部族では、受けた恩義は子孫に伝えてでも報いると言うのが掟でな」
「……部族?」
「俺の、家さ」
がはは、と胸を逸らせて笑う男を、金髪の男はどこか呆れた色を視線に込めて見つめていた。
豪放な男の笑い声は、やがて低音の歌声へと変わって、深い森の中に響いていった。
静穏な夜の森は、その日、少しばかり賑やかであった。
――――そして、時は流れる。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
というわけで8章です、次はまた新しい世界を描く予定です。
部族、何と心躍る響き。
それでは、また次回。