Epilogue7:「――Return――」
2000人で、集合と離散を幾度か繰り返した。
それでも中核の200人だけは分けなかった、おかげで動きはスムーズだった。
一度西へ抜けて、それから南下した。
不思議と、追っ手の気配は感じなかった。
だからと言って、道程が楽だったわけでは無い。
事情が事情だから町に立ち寄ることは出来ない、僅かな水と食糧を荒野の中で分け合った。
昼は暑いが夜は寒い、身を寄せ合うようにして寒さを凌いだ夜は幾夜にも及んだ。
しかし、辛くは無かった。
「~~♪ ~~♪」
むしろ、楽しくすらあった。
島育ちと言う出自からは意外に思うかもしれないが、リデルは旅が好きだった。
豊かでは無いが皆がいて、物珍しいものを見て、触れることが出来る。
例えば、水が無くとも生きていける動物をリデルは初めて見た。
「……あ!」
そして、ラタとの戦いから2週間程が経過した頃だ、南西の方角にあるものが見えた。
それは、茶色と緑色が広がる大地だった。
茶色は耕作された土地であり、緑色は地面に生えた植物の色だ。
それが農地なのだと気付いた時、リデルは駆け出していた。
「元気の良いことだ」
「全く」
クロワの言葉に、駆けていく少女の背中を目で追いながら、アーサーが苦笑で応じた。
2人とも不衛生と言う程では無いが、砂埃に汚れた姿だった。
旅の中で互いのそう言う姿は見慣れてしまっていて、それだけの時間を共にしていたと言うことだった。
そうしていると、前方からアーサーを呼ぶ声が聞こえた。
皆が一緒にいる時でも、彼女はこう言う時、決まってまずアーサーを呼んだ。
呼ばれて応じるのはもはや義務のようなもので、逆に早く行かなければ機嫌を損ねかねない。
何と言うか、扱いが難しい。
だがその扱いの難しさが、アーサーは嫌いでは無かった。
「アーサー、見て! あれって作物じゃないかしら!」
「ああ、そうかもしれませんね」
「適当なこと言ってんじゃないわよ! こっち来てちゃんと見てよ! あれ、何て言う作物なの?」
「えーと……さぁ、この距離では何とも。たぶん根葉類だとは思うのですが」
「根葉類って何?」
「あー……大根、とか」
農地の向こうには、古ぼけた都市と大河が見える。
都市の名はクルジュ、旧市街。
丘を越えた先にあるその街は、リデル達にとって酷く懐かしいものだった。
数ヶ月ぶりの、場所だった。
「ふーん、あれは大根って言うのね。そう言えば食べたことがあったような気もするわね」
「まぁ、おそらくはそうでしょうね」
「じゃあ、早く行きましょ。すぐ近くで見たいわ」
「はいはい」
作物を見たいだけでは無いのだろう、そわそわしているリデルに苦笑する。
ただ、手を引かれて全力疾走されるのには困ったが。
駆けていると、農地の方からも人が出てくるのが見えた。
「――――ッ!」
それを見て、リデルが歓声を上げた。
アーサーは、笑った。
彼らは、帰って来たのだ。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
7章が終わりました、このまま8章に行きたいと思います。
半分は過ぎたので、後は風呂敷を広げて放置するだけです(え)
それでは、また次回。




