Prologue6:「――Technological development――」
白い。
他に色が無い程の白い空間に、色のある地点が2つあった。
四角い立方体のその部屋にいる人間の数も、2人だった。
1人は白衣を着た男、四角い部屋の一面を背にした椅子に座っている。
もう1人は小さな女の子だ、こちらは部屋の中央のベットに寝かされていた。
男の白衣は所々が赤く滲んでいる一方で、女の子が寝ているベットは白く清潔だった。
「……来ると思っていたよ」
頭を抱えるようにして座っていた男が、不意にそう言った。
空気の抜けるような音と共に、彼の横の壁の一部が開いた時だ。
どうやらそこは扉だったらしい、左右にスライドして、人が2人通れる程度のスペースが開いた。
「…………」
「大丈夫だ、感染はしていない。奇跡的なことにな」
入って来たのは、椅子に座る男と同年代くらいの男だった。
金髪で菫色の瞳に、彫りの深い顔、長身に黒い外套を羽織っている。
ベットで眠る女の子を見つめる男に対して、彼は呟くような声で言った。
「……彼女は」
「彼女は、アイツは……」
ふるふると、白衣の男が首を横に振る。
金色の髪が揺れ、指の間から覗く菫色の瞳は水の雫に潤んでいた。
それを見た黒衣の男は、ちょうど男の顔の横あたりで拳を握った。
指の皮を破りそうな程握り締める様子を横目に、白衣の男が呻くように言った。
「治せない、治せない感染症じゃ無かった……!」
「……お前のせいじゃない」
「いいやッ、私のせいだッ!」
絶叫に、黒衣の男は天を仰いだ。
そのままブツブツと何事かを呟き続ける男の横を離れ、彼はベットに横たえられていた女の子を抱え上げた。
それを止められるようなことは無かったが、その代わり彼は白衣の男の呟きをその間聞き続けなければ
ならなかった。
「私のせいだ……私の……私が……」
「…………」
「私には、わかっていたんだ。あの感染症を治療するために必要なことが、それなのに」
「……ああ、キミは偉大な医者だからな」
「違うッ!」
違う違うと繰り返す男に一瞥を向けて、男は女の子を抱いたまま歩き出した。
そのまま白衣の男の横を通り抜けるかと思えば、ただ一言だけを告げた。
「……ありがとう」
そうして去っていく黒衣の男を、白衣の男は呼び止めなかった。
むしろ進んで行かせたようにも思えるが、しかし、今の彼がはたして自分以外のことに意識を向けているとは思えなかった。
何故なら彼は、ただひたすらに何事かを呟き続けていたからだ。
「そうだ……どうして躊躇したんだ……あの時、他の患者を使っていれば……そうすれば……私にはそれが出来」
――――それ以上の呟きを、黒衣の男は聞けなかった。
何故なら扉が閉まってしまったからで、閉じた後も彼は少しの間そこにいた。
しかし白衣の男が出てくる気配は無く、最後には諦めたように歩き始めた。
そうしながら、腕の中で眠り続ける女の子を見下ろした。
女の子は何も知らず、ただ穏やかな顔で眠っている。
小さな手で男の外套を掴むその姿はまさに、力の無い子供のそれだ。
そう、今は何の力も無い。
今は、まだ。
――――そして、時は流れる。
最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
さて6章、予定ではもう少しで折り返しなんですよね、あくまで予定ですが。
そしてこの6章、アナテマ・サーガの中で最もダークな内容になる予定です。
こう、外道の中の外道を描きたい、割と本気で(え)
それでは、また次回。




