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Prologue5:「――City of light――」

 世界は、光に溢れていた。

 真夜中でもなお光を失わぬ街の中にいると、その眩しさに目が眩んでしまいそうな程だ。

 しかし光の中にいる人々にとっては、その眩しさもまた日常なのだろう。



「……」



 天高く聳え立つ建物、灯りの消えぬ街灯、地上の光に破れ姿を消した月星。

 清浄に保たれた空気、清潔に維持された道、尽きることの無い物資。

 そして視界を埋め尽くす人、人、人。

 綺麗な衣服を纏い、美しい金糸の髪と菫色の眼を持つ人々がそこには溢れていた。

 しかし人々が視界を埋め尽くしながらも、狭さを感じないだけの広さがそこにはあった。



「…………」



 其処彼処そこかしこから歩き移動する人々の中で、1人だけ動かない存在がいた。

 小さな女の子。

 彼女もまた金糸の髪を持ち、菫色の眼を持ち、そして綺麗な衣服を身に纏っていた。

 どこか遠くを見るような目で、光の間から見える夜空を見上げている。



 前後左右から彼女の傍を通り過ぎる人々は、時に心配そうな顔で女の子のことを見ていた。

 だが女の子があまりにも当然のようにそこにいるので、特に声をかけるようなこともしない。

 それでも随分と長い時間そこにいるためか、そろそろ誰かが声をかけるか、そんな時だった。

 女の子の前に、外套を纏った男が立ち止まったのは。

 どことなく硬い雰囲気を纏った男の存在に、周囲の人々が少し距離を開ける。



「……?」



 不思議そうに首を傾げる女の子、その仕草が嫌に年相応に見えて、可愛らしかった。

 そんな女の子に対して、男は手を差し伸べた。

 まだ幼く、10年の後には今日の記憶を思い出せるかもわからない年頃の彼女。

 純粋無垢な瞳で、男の手をじっと見つめている。



「さぁ……」

「……!」



 男が口を開くと、女の子はにぱっとした笑顔を浮かべた。

 嬉しそうに笑い、男の手を握る。

 その様子に何を感じたのか、男は目を伏せる。

 そしてその上で、人々の中へと足を向けた。



 手を引く重みと、手を引かれる重み。

 連れ立って歩く2人は、親子のようにも見えた。

 もう少し男に近寄りやすい雰囲気があれば、微笑ましいものに見えたかもしれない。

 降り注ぐ柔らかな光の中、彼の存在だけが黒く硬い。



「…………」



 視線を下げれば、男の歩幅に置いて行かれまいとする一生懸命に歩く女の子の姿がある。

 小さな両手で男の手を掴み、唇を尖らせるようにして転ばないように注意しているようだった。

 男の視線に気付いたのか、彼を見上げ、そして笑顔を浮かべた。

 そんな彼女を見て、男は歩幅を少しだけ狭めた。



「……さぁ、行くよ」



 うんっ、と頷く幼い声。

 男は小さな手を引いたまま、再び前を向いた。

 光溢れる世界の中にいながら、その光の先にある世界――闇の中に沈み行くそれを、見つめていた。

 そしていずれは、手を引かれるままの女の子も。

 彼女もまた、いずれ闇の中身を覗く事になるのだから。





 ――――そして、時は流れる(じゅうにねんご)


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