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Epilogue2:「――Next Stage――」

 リデルとアーサーの2人の旅は、その後も続いた。

 2人の旅は、基本的には森や山の中を進むものだった。

 アーサーの身の上が原因とは言え面倒な旅だ、が、リデル自身は不満を覚えなかった。

 島育ちの彼女にとっては、自然の中を歩く方が気楽なのだ。



「ふぅ……そうは言っても、流石に早朝と深夜にしか移動できないのは辛いわね」

「すみません、この辺りはもう街に近いので」

「まち、ねぇ。ルイナの村みたいなもの?」

「いえ、あれよりもっと大きくて……」



 ルイナと別れて2日後あたりから、移動時間は深夜と早朝のみになっていた。

 これは人に見つからないための処置だが、島で規則正しい生活を送っていたリデルもこれには参った。

 最初の数日は眠い目を擦りながら歩いていたし、動物達も抱いて運ばねばならなかったからだ。

 蛇だけは常に肌に密着しているので、温かそうにしてはいたが。



 そして今も、空向こうが白み始めたかと言う時間帯だった。

 昼間に休み深夜に歩く、そんな生活がもう10日も続いていた。

 つまり、ルイナと別れてからすでに2週間が経っている。

 リデルは頭に乗せた黒いビロードの帽子のズレを直しながら、森の木々の間から覗く空を見上げた。



「まち……街と村がどれくらい違うのかはわからないけど、でも、確かに島とは違うわね」

「そうですね、このあたりは気候も違いますし」

「みたいね。私もそこまで植物に詳しいわけじゃないけど、たまに見かける動物の毛の色とか虫の羽の形とか、いろいろ違うものね」



 島では卵型の小さな葉の木が多かったが、今はギザギザの形をした葉が多く地面に落ちている。

 小動物や羽虫が多かった島に比べて、動物や昆虫も大きくて強そうな印象を受ける。

 加えて言うなら気性も荒く、アーサーなどは稀に襲われていた。

 リデル? 何故か彼女は襲われず、むしろ懐かれていたとだけ言っておく。

 動物に愛される星の下に生まれているのかもしれないと、アーサーは思っている。



「ねぇアーサー、そういえばなんだけど」

「はい、何でしょう」

「私、島の外に出られるなら良いかと思ってたから、今まで特に聞かなかったんだけどね」



 自分の前で枝葉を分けて道を作ってくれているアーサーの背中を見上げながら、言った。

 小首を傾げるその様は可愛らしくもあるが、場所が場所である。

 アーサーは特に振り向かなかったが、それでも苦笑を浮かべているあたり、リデルがどんな表情を浮かべているのかわかっているのかもしれない。



「私達って、今どこに向かってるのよ」

「……あれ、言ってませんでしたっけ」

「言ってないわよ。アンタがこの10日で私に言ったことって、水浴びは別々にしようってことだけじゃない」

「いやそれは、と言うかそれだけなはずは無いんですけど」



 首を傾げつつ、ばさっ、と音を立てて枝葉を払うアーサー。

 特に足は止めないが、何も説明していなかっただろうかと内心で悩む。

 そんなことは無いと思うが、まぁ、なら今言えば良いかと結論付けた。



「とは言っても、実はもうすぐ見えてくるんですよ」

「そうなの?」

「はい、えーと」



 白みがかっている空を見て、それからあたりを確認するように見回して。



「もうそろそろ、抜けても良い頃なんですが」



 この10日でいくつ目になるかわからない山を越えて、アーサーが目指している目的地。

 多少の興味を持って、リデルはアーサーの「ああ!」と言う声を聞いた。

 そして、アーサーが押し上げる枝葉の間から、見る。



「ああ、あそこです。まだ少し距離はありますけど、明日の夜にはあそこに行く予定です。もう日が昇りますから、今日はとりあえず休んで、それから――……」



 ふと、アーサーは言葉を止めた。

 これだからと笑う、彼の視線の下には大きく丸く目を見開いているリデルの姿がある。

 これまでの旅の中で何度も見た目だ、こういう目をしたリデルに何を言っても無駄だ。

 彼女は今、自分の世界に入っているのだから。



「ねぇ、アーサー」

「はい、何でしょう」

「あれは、何?」



 お決まりの問いかけに、アーサーもまたお決まりの言葉で返す。

 もしかしたら彼女の父も、あの音に聞く<東の軍師>もまた、同じようなことをしていたのかもしれない。

 苦笑を浮かべながら、好奇心旺盛な娘の問いかけに答えていたのかもしれない。



 そして当のリデルは、もうアーサーの言葉など聞いていない。

 その視線の先には、次の目的地である「街」がある。

 それは彼女が想像していたものとはまるで違い、想像よりもずっと大きく、そして――非自然的だった。

 自然で無いもの、それはリデルの想像を容易に超えていく。



「紹介しましょう、あれこそが……」



 腕で枝葉を押さえながら、アーサーは教えた。

 この時彼は口元を皮肉そうに歪めていたのだが、リデルはそれに気付いていたか、どうなのか。

 とにもかくにも、アーサーは答えた。



「あれこそが我が王都――――旧王都クルジュです」



 これから2人で行くことになる、彼の目的地を。



最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。

何とか2章終了、テンポを早めていきたい所です。

次は3章、エンディングまではまだまだ遠いですが、完結させられるよう頑張ります。

それでは、また次回。


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