Prologue2:「――A stranger――」
――――その村からは、亡びの匂いがしていた。
澱んだ空、枯れた大地、焼け落ちた村落、痩せているが目だけがギラついた村人達。
風さえも腐っている、そう思えてしま程に……死に瀕した村、だった。
「…………」
村の広場に、1人の男が立っていた。
村唯一の井戸の側に立つその男に、十数の視線が突き刺さっている。
恐怖、畏怖、忌避、そして嫌悪と憎悪。
人々の視線を前に、その男は静かに身を晒していた。
黒い外套で身体覆った、金色の髪の男だ。
金色の髪、それは特別な意味を持つ。
そしてもう一つ、赤い石。
男の手には拳大の赤い石があって、彼はそれを掲げるように持っていた。
「……これを」
「お、おぉ……おおおお」
彼はその石を、ある老人に与えた。
他の村人に比べて小綺麗な服に身を包んだその老人は、村でも責任ある立場の人間なのだろう。
もしかしたなら、長なのかもしれない。
老人の手の中で、石が赤い輝きを放っていた。
「……一宿の恩を返そう」
「おおお、おおおおぉ……!」
石を掲げて見せる老人、それに対して表情を変えることなく佇む男。
ふと、男が視線を下へと向けた。
目が合う。
男の左手に自分の右手を繋げた、2歳程度の小さな女の子だ。
薄い金の髪に、男と同じ紫の瞳の女の子。
手を繋いだ彼女は、じっと、大きな瞳で男を見上げていた。
「……!」
「…………!」
「………………!」
次第に赤い石の側に村人達が集まる、男に声をかける者も現れ始めた。
だが、女の子に声をかける者はいない。
腐りかけていた村に新しい風を入れてくれた男、彼にだけだ。
誰も、男と手を繋ぐ女の子のことなど気にもしない。
だがそれは、仕方の無いことだ。
亡びに瀕していた村人達にとって、力有る男だけが重要だったのだから。
対して女の子には何の力も無い、小さく、儚い存在に過ぎない。
そう、この時点ではまだ、世界中の誰もが「彼女」のことを知らない。
だが12年の後、「彼女」は、世界中の人々にその名を知られることになる。
――――そして、時は流れる。
一体いつから――――前話が今年最後の投稿だと錯覚していた?
と言うわけで、皆様、今度こそ良いお年を。
それでは、また来年にお会いしましょう。




