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板外2 - 選定試験 中編 - 前・中・後

一次選定試験の翌日、この一次試験を通過した7人が発表された。

内訳は


・軍所属が5人、一般人が2人

・30代1人、20代3人、10代4人


むろん『マウカクエ・有樹ユキ・ビポッテ 15歳』も含まれていた。

選考落ちした90人余はそのまま退艦し、7人はそのまま二次試験に臨むことになる。


++++++++++++++++++++



二次選定試験は実機での操作試験である。

ラードックに乗り込んで1時間ほど宇宙を飛び戻ってくるという試験なのだが、うは全員、操縦経験がなかった。

というよりロボット操縦経験のある軍人が選定試験に選ばれることが無いのだ。

その理由はマザーにしか分からないのだが、他のロボットにのるとクセが付き、それがダメなのではないかといわれている。


もちろん、いかに優秀なAIを積んでいるとはいえ、ド素人をロボットに乗せていきなり宇宙空間に放り込むような事はしない。


ロボットの操縦技能は思考操作と実働操作の複合である。

空重液の中でぷかぷか浮かんでいる状態になる、という経験も普通に生活していれば想像する事すら難しい。

初体験ではまず間違いなくパニックになるし、実動作がロボットの操縦にそのまま影響を与えるため、その状態でまともに動かす事など出来ようはずがない。


20世紀や21世紀に流行ったアニメのように、いきなりロボットに搭乗して自由自在に動き回る、などということはまあ不可能である。


従って、ロボットに乗る前に必ずやらなければならない事、それが操縦訓練だ。

二次試験に選ばれた7人は約1ヵ月の操縦訓練を受けることになったのである。



+++++++++++++++++++++



「うぇぇ、ぎぼちわ”るい」


水着のように体にフィットするパイロット専用スーツを着た少女が直径5mほどの球体から足を引きずるように降りてくる。


その部屋をよく見ると、同じような球体が10個並んでおり、そのうちのいくつかからも同じよう疲れ切った表情の女性が降りてきていた。


「よし、全員降りてきたな。初めて空重液に浸かった感覚は分かってるつもりだ、今日はこの後自由時間とする、ゆっくりしたまえ、解散」


訓練教官となったおっさん将校はそういうと颯爽とその部屋から出ていき、7人の女性がその場に残される。


「これは・・・・・・噂には聞いていましたが本当にキツイですね。この歳で新しい事するのは堪えます」


コホコホと咳込みながら一番年上の熟女・・・もとい・・・色気No1の姉さんがこちらも疲れ切った表情でつぶやく。


「これって、普通に呼吸出来るって理解はしてても・・・・・・かなりムリかも!」


20歳をいくつか過ぎたばかりと思われる美女が球体から下りた所にだらしなく座り込み苦々しい表情で吐き捨てる。


そう、人というのは液体の中で活動するようには出来ていない。

それは呼吸が出来るとか出来ないとかいうレベルの話ではなく、もっと生理的・本能的な恐怖を呼び起こす事柄なのだ。


潜水の名人がいたとする。

その人にあなたにエラを付けましたから海の中で呼吸して下さい、といわれて思いっ切り海水を吸い込むことが出来るだろうか?

それが可能だとしてもまず出来ない。


したがって、ロボットに乗る訓練の第一段階とは、肺にまで液体を吸い込む、つまり溺れた状態になって満たす -つまり空重液に満たされた空間で溺れる- 事なのだ。

最初は器具と薬でサポートを行うがそれでも概ねそんな感じである。


選定試験に呼ばれるような人材は、みな適正が高いのだが、それでもフィット出来るかどうかは本人次第。

パイロット候補の年齢が10代に偏るのは、年齢が高くなるほど忌避感が強くなり適応出来ない傾向にあるためである。


そういう意味ではお姉さんはレアケースといえた。

だから、といって最終的に選ばれるわけではないのだが。


「とりあえず、今日はもう寝たいです」


金髪ツインテール少女が肩を落として独り言のように口に出した言葉は、その場にいる全員の気持ちを代弁していたのだった。



++++++++++++++++++++++



訓練が始まって1週間が経過していた。

ここまでに2名がリタイアしたが、残りの5人はなんとか空重液に適応し、液体内での呼吸を行えるようになった。


「本日より思考操作訓練に入る」


5人が並ぶ前で教官であるおっさん将校が新たな訓練メニューを告げと、ようやく本格的な訓練に入る事になった、と5人の表情が明るくなる。


「液体の中、上下左右が定まらないような状況で的確な思考を行い動かす、ということは前たちが考えているより遥かに難しいぞ。心してかかるように。搭乗」


おっさん将校がいうと全員が速やかに球体の中に入る。

1週間でこの辺りもずいぶん慣れたようだ。


本当はおっさん将校がいうほど思考操作は難しくない。

しかし、液体の中に浮かんだような状態で、自分の体を動かさず『ロボットの体』を動かす、というイメージをするのは容易いといえるような事柄でもない。


それが最終的に無重力空間で、ともなれば『鷹の目』のような才能が多少なりとも必要になる。

なにせ、コックピットの中でシェイクされたような状況になる事も多い、自身の位置と方向を見失わない事が必要となるのだから。


++++++++++++++++++++



全員が球体に入ってしばらくすると、各球体がグルグルと回り始める。

思考に合わせて仮想のロボットが動作し始めた証拠である。

と、ものの数分もしない内に1台が停止した、さらに続いて2台。

5分も経たないうちに3つの球体が動作を完全に止め、その中から人を吐き出す。


「「「「「おうえぇぇぇぇぇ」」」」」


球体の横に備え付けられている専用ダッシュートへ頭を突っ込む3人。

うら若き乙女として人には見せられない姿であった。



++++++++++++++++++++



3つの球体が少女達を吐き出してから25分、つまり合計30分の間、残りの二つの球体は動き続けた。


片方は早く激しく緩急をつけて、もう片方は緩やかに一定のリズムで。


『ビー』


規定訓練時間終了の合図と共に2つの球体が停止し、中から出てきたのはお姉さんと有樹であった。


「こう、こう、難しいでしゅ」


ションボリとした雰囲気を漂わせている有樹に対して


「もっと、ガッとっギュっとするのはどうすればいいのでしょう」


元気一杯、体をグリグリ動かしながら出てきたのがお姉さんである。

歳の割には中々の体力であった。


「よし、本日の実機訓練はここまでとする。この後、機材を使いたいものが居たら申告するように。以上、解散」


おっさん将校がそう告げると、5人の候補生は躊躇うことなく申告に向かうのだった。


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