板外2 - 選定試験 前編 - 前・中・後
地球連合には10億を超える人間が軍に所属している。
中でも約1千機しかない専用機のパイロットというのは当たり前だが特別な意味を持つ。
超エリート
戦場の花形
スターオブパイロット
様々な美辞麗句で彩られ迎えられるのが専用機パイロットというものなのである。
それもそのはず連合における敵機撃破数トップ1万を並べると実に9995位までが専用機で占められているのだから。
ただし専用機のパイロットになるというのは簡単な事ではない。
厳しい試験を潜り抜けあらゆる技能が人間の最高値に達そうと専用機AIに否と拒絶されて終了するのが常なのであった。
さて、約1千人いる専用機パイロットの内訳を確認すると、実に9割、つまり900人がうら若き乙女である。
この現象については諸説あるのだが、最有力なのは戦闘ロボット用AIを作ったとあるプログラマーが男だったから、というものであった。
身も蓋もない話である。
ともかく軍としては、専用機向きのAIが発見されると、そのAIと相性がよい相手、つまりパイロット候補を全人類約300兆から探さなければならない。
のだが、実際はマザーがある程度まで候補を絞る。
増減はあるが概ね100人前後がピックアップされ、個別にAIと対話、実機動作試験などを行う。
実機動作試験は難関だ、相性が悪いとロボの能力は並みの戦闘用ロボをはるかに下回り、ぶっちゃければ宇宙空間をふよふよと漂うゴミになっていまう。
そして、そう簡単にベストパートナーが見つからないのが専用機というロボなのであった。
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「次! マウカクエ・有樹・ビポッテ」
将校の制服を着た男が待機所へと顔を出し名前を呼ぶ。
この作業もすでに80人目、将校の顔もいささかウンザリしているように見えた。
「は、ひゃい」
ビックリして舌を噛んだような返事をして立ち上がる15歳ぐらい少女。
少女は軍服ではなく重ね着で有名な独特の民族衣装、つまり振袖を着ていた。
なぜそんな服を着た少女がいるのか、マザー以外に知る物はいない。
むろん裏で糸を引いているのは若旗艦なのだが。
「マウカクエ・有樹・ビポッテ、こちらへ」
珍しい服装をまじまじと見てしまった将校は、気を取り直して先導する。
少女はその後ろをしずしずとついて行った。
廊下へ出てしばらく歩くと、一際大きな左右開きの扉へ行きつく。
将校が右の壁にある大きな青いボタンを押すとその扉がゆっくりと開きその向こうの空間が見えてきた。
扉が完全に開き切ると将校はその躊躇なく部屋へと入って行き、有樹もその後に続く。
見えてきたのは全高20mの巨大ロボット、その上半身だった。
部屋の全面がガラス張りになっており、そこから駐機場が見えているのだ。
「これが、ラードック00038 今回、専用機として製作されたロボットだ。民間人の君も知っていると思うが、自律AIが搭載されている専用機ロボットには相性という物が存在する。まずはこうして面と向かって会話をしてもらうことになっている。時間は10分だ、好きなように話したまえ。それでは私は失礼する」
将校は有樹にそう告げるとさっさと退室してしまう。
「あわわ、会話ってどうすれば・・・・・・」
急に部屋へ置き去りにされた少女は、態度と言葉であわあわしながら視線を彷徨わせる。
『ふおぉぉぉぉぉ、清楚お嬢様系小動物きたぁぁぁぁぁ』
突然、部屋に若い男の声が響いた。
「え、え??」
有樹はビックリして小さく飛び上がった後、キョロキョロ忙しなく周囲を見渡すが、もちろん部屋には誰もいるはずがない。
『君、名前は?』
「えと、あの、あの・・・・・・ゆ、有樹です」
男の声に思わず答えてしまう少女、初心であった。
『へぇぇぇ、日系人かなぁ。髪は黒いし目はクリクリで可愛いねぇぇぇ。それ振袖でしょ? この時代にもあるんだなぁぁぁぁ』
やたらと高いテンションで捲し立てる若い男(音声のみ)
有樹は何が何やら理解できず自分の体を隠すように小さくなってしまう。
「あの、あの、あの、だ、誰ですか? で、出てきてください」
勇気を振り絞って(それでも大きな声ではなかったが)そう意志を示す有樹。
ただ手足がプルプルしているのはご愛嬌である。
あくまで愛嬌なのである。
『あぁぁぁ、ゴメンゴメン、俺は君の目の前にいるロボット。名前は・・・・・・ああ、まだないんだっけ、一応ラードック00038ってのが機体名称、かな』
目の前のロボットが巨大な銀色の右腕を有樹に向かってプラプラっと振って見せる。
口調もそうだがノリも軽い。
「あわあわ、ろ、ロボットさんでしたか。こ、こんにちは」
『こんちわぁぁぁぁぁ』
有樹はどうしてラードック00038と名乗った目の前のロボットがやたらと語尾を伸ばすのか理解できていなかった。
理解できない方が幸せなのは確かである。
『で、君が次の候補ってことだよねぇぇぇ。なんでその服装なの? 軍人じゃないのかよぉぉぉぉ?』
それを聞いて有樹はさらに小さくなりプルプル震える。
ラードックは怒ってる訳ではないが大きな声で語尾を伸ばすと怒ってるように聞こえる典型である。
『ああ、ご、ごめんよ。別に怖がらせるつもりはないんだよ』
小動物が震えるような様を見て慌てて言い訳をするラードック。
「ご、ごめんちゃい。別に怖がるとかそんなちゅ、つもりじゃないんです、ビックリしただけでしゅ」
カミカミだった。
有樹はまごう事なきカミカミ神だった。
『か、カワイイ』
そしてラードックはバカだった。
おっとりとメガネと委員長がなくともかまわないようだった。
ダメダメである。
これが二人の出会いであった。