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板外1 -ミリー・フィルの戦場-  と設定っぽい

なんちゃってファンタジーロボバトルのお話です。

突っ込みは無しでお願いします。

人類連合軍の有する約3億5千万の戦闘ロボ、その中で有人のロボは約4千万機。

大半は各部隊の隊長機である。

ただし99.99%は隊長に就任した者なら誰でも乗れる汎用型で癖はない。


残りの約1千機が『専用機』と呼ばれる特殊な機体だ。

いや、特殊といっても元々製作時点で特殊な訳ではない


他の無人用機体と同じパーツ、同じAI、同じ手順で作られるのだが、

搭乗者なしでは全く動作しない、もしくは規定値以下の性能を発揮せず、特定の搭乗者を乗せると出鱈目な性能を発揮する。

つまり、搭乗者が発見出来なければガラクタ同様、それが『専用機』の特殊性である。

それが専用機AIに嗜好によるものだと知る人間はいない。

ロボ転板の住人以外。


GJ 1061 第24強行偵察分隊所属のミリー・フィル軍曹は自分だけの『専用機』を持つ下士官である。

彼女は14歳という若さで専用機持ちになり、戦場を駆ける事8年、数多の敵を屠り、その撃墜数は約82万、すでに地球連合軍歴代3位の記録を作った。

そして22歳にしてエースオブエースと呼ばれる連合軍の切り札的存在だ、ただし戦闘狂である。


それほどの戦果を上げながら未だ下士官なのは、全く部隊を指揮出来ない性格に起因してるのだが、本人は


下士官であればこそ強行偵察分隊のさらに先頭を切って敵軍に突撃できるってもんですよ


と喜んでいるのであった。 救いがたいことである。


ちなみに他の分隊各機が情報収集に専念できるため、この分隊の生存率・情報収集能力は他分隊に比べて図抜けていたりする。



+++++++++++++++++++++++++++



その日、GJ 1061は正体不明の敵に攻撃された。


GJ 1061は連合支配領域外宇宙にある前線と本星・地球のほぼ中間に位置し、前線への補給基地を兼ねた大星系である。

ここに到達するためには、最前線から二重三重の索敵・守備を突破しなければ不可能、なはずだった。

しかしこの日、それらの網には全くかからずに侵入した敵の部隊に強襲されたのである。


アンノウンによる第一波攻撃で、星系外周に位置していた警備ロボ4000機を搭載した第4警備部隊が無抵抗のまま丸ごと消滅した。


ここで司令部はようやく事態を把握、迎撃作戦に移る。

とはいえ、世は情報第一のこの時代、まず強行偵察分隊を戦線に派遣するのが常道であった。



『ミリー・フィル軍曹、分隊長から通信だよ』


たまたま、整備のためにコックピットに乗り込んでいたミリー・フィルに、やたら砕けた口調で話しかけるのはミリー・フィル専用ロボ『強行偵察 専用型タイプⅣ』のAIである。

ミリー・フィルが軍人として初めてロボットに搭乗した時からの相棒であり、他のロボでは考えられない軽い口調で喋るAIが彼女は嫌いではなかった。


「了解、つないで」


彼女が答えると、正面にホログラム映像で中年のひげ男が映し出される。


「ミリー・フィル軍曹、司令だ。 我が分隊は今より00:10後にポイント(-02,05,08)地点から外円方向への強行偵察を行う。 準備せよ。 なお戦闘が予想されるため装備ランクはAとする。 以上だ」


「っは、了解しました。 分隊長殿。 00:10後ランクA装備で強行偵察」


ミリー・フィル軍曹が敬礼体勢で復唱すると、分隊長は一つ頷いて消えた。


『ランクA装備への換装申請終了したよ、00:05後に換装完了予定。 ポイント(-02,05,08)には第4警備部隊がいたはずだよ』


専用機のAIはとても優秀で、自分の苦手な分野をほぼ完ぺきにサポートしてくれる。これが専用機じゃなく、汎用隊長機のアシスタントAIだと齟齬が出て行動が遅れたりすることもあるそうだ。

つくづく専用機持ちになれてよかった。


と、ミリー・フィルはいつも思っている。


ミリー・フィル専用機AIは癖が強く(というか専用機AIはみなそうだ)、彼女以外に乗りこなせたものはいなかった。

ただ、彼女が乗るとあらゆるステータスが想定値を遥かに超えるという事実がある。


実は自分専用のサポートAIがロボマニアで美少女パイロット大好きの変態転生者だとは露ほども思ってないのだった。

幸せな事である。


『換装完了したよ、ミリー出撃準備。 空重液注入開始するよ』


空重液、正式名称は『空気互換・重力緩衝・操縦液』だが、人が宇宙空間で他生命体と互角に戦うには、まず体にかかるGを克服しなければならなかった。

そのためさまざまな方法が考案されたが、最終的に空気とほぼ同じように肺呼吸可能で加速Gを受け流す特殊な溶液でコックピットを満たす事によりその問題を解決したのだった。


「オッケイ、その後すぐ発進するわよ」


コックピットが空重液で満たされるまで1分少々、搭乗用ロボットが最も無防備になる瞬間だが、幸いにしてまだこの場に敵の刃は届かなかった。


『注入完了 ミリー・フィル専用機 発進するよ』


専用機AIがスクリーンにそう文字を映し出すと同時に正面のハッチが解放される。


ロボットの操縦は思考入力と実動作による疑似マスタースレイブ方式が採用されている。


これは思考入力に加えて、反射や感覚といった具体的なイメージ指示を伴いにくい動作を実動作(筋肉の動き)から読み取り、ロボットの動作へ反映出来るようにしたシステムである。


ハッチが完全に解放されるとミリー・フィル専用機は音もなく発進する。

まあ真空なのだから音が出ていても周囲に聞こえる事はないのだが。


『流体装甲の強度固定を確認したよ。 戦闘可能時間は 08:00:00 カウント開始するよ』


この時代のロボットは人間の体の構造と似て、その内容物の約9割は硬化液体だ。

コックピット内部とAIの設置されている制御部、間接部と駆動用のパルス送信網は金属で、以外はほぼこの溶液で満たされている。


まあ液体といっても水ではなく、真空に晒されると瞬時に凝固する溶液で比重が軽く、電導性で電気量の偏在によって高速で移動する特殊な物だ。

ロボットは電気パルスを使い内部に満たされたこの溶液を急激に移動させることにより推進力を得、駆動するのだ。


また、真空で凝固すると多重金属装甲に匹敵するほど硬く、+4,000℃の熱に耐え、光を98%以上湾曲させる物質に変化する。

昔のロボットアニメに出てくるような超金属に匹敵するほどのスグレモノなのであった。


ただし有機物を豊富に含む水(体液)や一部の溶剤に対して非常に弱く、すぐ溶け落ちるという欠点があり、惑星内では使い物にならないのだった。



空重液が満たされた直径5mほどの球体のコックピット内部は前後、上下、左右の360度すべてがスクリーンになっている。

操縦は基本的にミリー・フィルが思考で機動を思い描けばAIがそれを受け自動的に制御するのだが、戦闘機動になると彼女はコックピット内部を魚よろしくグルグルと泳ぎ回り、舞うように戦う。

宇宙空間で慣性を無視した機動は不可能なので『泳ぐ』というのは慣性のベクトルを上手く受け流しながら軌道を変えるのにとても有効である。


例えば急激に逆方向へ方向を転換をする場合、急流に逆らって川を登ろうとする鮎に似ている。

必死で慣性という流れを自身の体で受け流し逆らう力を籠めなければならないのだった。



「第24強行偵察分隊 ミリー・フィル 偵察任務開始する」


『管制からの発艦許可受領したよ 第一流体起動制限解除 はっしん!』


専用機は一瞬細かく振動したあとゆっくりと前方へ移動していく。


『母艦からの離脱を確認 第三流体起動制限解除』


「よし、いくわよ。 何だか知らないけど、こんな所まで入り込んだ連中を殲滅してやる」


『殲滅でもいいけど、一応強行偵察が任務だと言っておくよ。 目標地点まで 04:00 だよ』


思考入力でミリー・フィルはAIと会話しながら機体を加速させていく。


「分隊長につないで」


『了解、つなぐよ』


スクリーンに分隊長があらわれる。


「ミリー・フィル軍曹、なにかね?」


「っは、目標地点まで 04:00 であります、分隊長」


「こちらでも貴君の位置は把握している、我々は 00:10 遅れて続いているので安心したまえ。 目標地点前に戦闘が発生する可能性もある、レーダー通信チャンネル01をオープンにして前進したまえ」


「了解致しました、それでは」


ミリー・フィルはピシッと敬礼をして通信回線を切る。


『レーダー通信チャンネル01をオープンにしたよ。 宙図表示するよ」


同時にAIが周辺のマップを表示する。

自分の位置と味方分隊の位置が表示されるが、敵性の表示はない。


「敵の位置はこの距離でも不明なの?」


ミリー・フィルが若干不思議そうな顔をしつつ質問する。


『そうみたいだね。 ジャミングというよりこちらの索敵を透過してる可能性大だよ』


専用機AIが答える。

とはいえ、こういう推測的な返答は普通のAIには不可能なのだが、お互いそれが変な事だとは思っていない。


「ふうん、新型装備か、それとも未知の敵か・・・面白そうね、強行偵察のやりがいがあるわ! 」


『油断は禁物だよ。 目標地点まで 02:00 そろそろ視認できるよ』


「ん、見える見える。 なんか数多いわね」


ミリー・フィルが前方を見つめると空間の広範囲に灰色の染みのような塊が広がっていた。

さらにその一点を拡大すると、どうやら無数の生物であることが確認できる。


『アンノウン、該当形状の種族なし。 形状から昆虫型の有機生命体と推測するよ』


専用機AIが答える。

黒に近い灰色の生物は、アリに鎌と羽を付け足を20本にして体長を5m程度に巨大化させた感じである。


「昆虫型か、数は?」


ミリー・フィルは塊り全体の動きに注視しながら更に聞く。


『測定値外、どうも光学センサー以外には反応しないタイプみたい。 ステルス性能でも持ってるのかな。 現状は塊りの大きさも不明だよ。 まあ勘だけどきっと億単位だよ』


AIが勘というのもおかしいが、ミリー・フィルは自機AIのこの手の助言がほぼ間違いない事を知っている。


「それはまた、思ったより盛大な歓迎ね。 とりあえず数だけでも確認しないとダメか。 推計が出るまで突っ込んで暴れるわ、暴れるわよ!」


ミリー・フィルは舌なめずりしてニヤリと笑う。

倒しきれないほどの敵に興奮してるのだった。


『相変わらず野蛮なパートナーだね。 それじゃあ戦闘速度まで加速するよ』


やれやれ、というため息が聞こえそうな声色で了承したAIは自機をさらに加速させる。


『接触まで 00:30 だよ』


そう自機AIがいってくる頃には、もやのように見えていた灰色塊りが、巨大な壁となって前方を塞いでいた。


「ニードル 準備!」


ミリー・フィルが思考すると専用機AIはすぐに機体の全面に無数の気泡を作る。

内部にある自硬化液体装甲を溶かす溶液操り、前面装甲に穴を開けたのだ。

そこから内部に流体している1滴分の硬化液体を電圧で打ちだす。

すると、打ちだされた液体は細長く伸びた所で真空に晒され硬化し針のような形状とり、そのまま直線的にターゲットへ向かって飛んでいくのである。


+++++++++++++++++++++++



この時代、レーザー兵器やブラスター兵器は大型の戦艦ぐらいしか搭載していない。

エネルギー量=威力の兵器は10m前後のロボットでは損害を与えるような威力を出せないからだ。


大気圏を突破出来るほど進化した有機生命体は外皮が堅く光にも熱にも強いし、

機械工学が進んだだ相手だとエネルギー兵器に対しては様々な対策を取っているからだ。


地球連合軍の主力ロボや艦でもエネルギー兵器で傷つくような事はほとんどない、硬化液体装甲は光エネルギーを98%までは拡散させてしまうし、熱には強くブラスターは無効化する。


質量兵器は有効だが弾数制限がとても厳しい上、敵の攻撃で誘爆すると目も当てられないからだ。


結果、この広大な宇宙空間での戦闘は、中世の頃に戻ったように最接近距離での格闘戦に終始することになっている。



++++++++++++++++++++++++



ミリー・フィルは武装蟻の集団へ真正面から突っ込む。

眼前に犇めくだけで数百はいるだろう武装蟻を視線と思考でロックオン、気泡からニードルを打ちだす。

戦闘速度に電磁投射の速度を上乗せされたニードルの速度は高速の1/4にも達する。

宇宙空間での格闘戦距離といわれている1万mなど瞬きするほどの時間もかからない速度である。

打ちだされた瞬間にニードルは敵に達し武装蟻の頭部へ突き刺さる。


『撃破 340 だよ 戦闘可能時間は 07:48:27 だよ』


専用機AIが報告する。

ロボットの武装はニードルを始めすべて硬化溶液を使用する物で、もちろん使えば使うほど減る。

攻撃を受けれて削られても減る。

つまり何をしても硬化溶液は減少し、結果、戦闘可能時間は減少していく。


「次、ブレード!」


今度は前後左右、手や足にも平たく薄い板状に硬化溶液を噴出する。

長さは40mほどの薄く鋭い板、つまり剣である。


ブレードを体中に生やした専用機は先ほどのニードルでほんの少し凹んだ場所へ飛び込んでゆく。


武装蟻の正面密集地帯へ単機で飛び込んだミリー・フィルだが、そこからが彼女の真骨頂である。


前後左右上下360度を完全に囲まれでもどこ吹く風、コックピット内を踊るようにグルグルと遊泳しする。


それに追随して、専用機もブレードを生やしたままグルグル駒のように回転しながら所狭しと動き回る。


ブレードで有機生命体を切ればその体液でブレードが溶ける、それを瞬時に再構築したりするのはAIの役目だ。

専用機AIはこの辺りの制御が途轍もないレベルにあるのだった。


≪ガキガキガキガキ≫


鈍い振動が伝わる。


「堅いわね、関節以外はブレードじゃ切れないか」


ミリー・フィル専用機の回転速度は高速の1/10ほどである。

それでももちろん目に見えないほどの速度だが、この武装蟻の攻殻を切り裂くには不足しているようだった。


近接格闘戦になるとニードルは使いにくい、軌道が固定されないし、内部で液体が不特定方向に動き回っているため滴の電磁投射が安定しないのだ。


「これだから虫型は厄介なのよね、攻撃方法は単純だから怖くはないんだけど」


今の所、遠距離攻撃はなく両手の鎌による近接格闘だけを仕掛けてくる。

ミリー・フィルは回転軌道を少しずつ修正し、時には鎌の攻撃をはじく事で自身の回転エネルギーを調整し移動、各関節部のみを切り裂いて撃破数を伸ばしていった。


『これはくるよ』


専用機AIがミリー・フィルへそう伝えた瞬間、周囲の蟻が一斉に触角を鞭のように伸ばした。


「あー、これ鬱陶しい」


ミリー・フィルはAIの声に反応して回転軸を微妙に変えながら次々と触手を切り飛ばすが、ブレードの消耗は激しい。


『また別の、たぶん飛び道具だよ』


その声と前後して、武装蟻の一部が唾液のようなモノを飛ばしてくる。


「ダメ、よけきれない」


唾液、すなわち有機物を豊富に含む水分を受ければ装甲が溶かされる。

この手の攻撃はこの時代のロボットにとって天敵である。


『08-09 ブレードパージするよ』


専用機AIは瞬時に直撃する攻撃に対しての対応をした。

ブレードを切り離しその唾液に対して飛ばす事で盾としたのだ。

斜めに回転しながら飛翔したブレードは唾液を二つに切り裂き、そこを中心に2本に分裂、その先の武装蟻へと突き刺さる・・・

はずだったが、唾液を切り裂いた所で丸ごと溶けてしまった。


『この液体攻撃は浸透毒の可能性がたかいよ、直撃は絶対避けて』


「・・・ほんっと面倒な奴ね」


ミリー・フィルは吐き捨てながらも更に蟻の死骸を量産する。


++++++++++++++++++++++++++++



『撃破数31043匹 戦闘可能時間は 03:31:50 だよ、そろそろ撤退に入らないと包囲を突破出来なくなるかもよ』


ミリー・フィル専用機単独で、蟻を何匹片づけたか。

実質の戦闘時間はまだ15分かそこらだが、ここ2年は無かった撃破数に達している事は間違いなかった。

そして、それもそろそろ限界のようだった。


『分隊長から 00:00:20 後に味方機のニードル攻撃開始、データも十分取れたから撤退に入るよう指示が来たよ』


「了解と伝えて」


ミリー・フィルは軽く頷くと機体の進路を変更する。


『ニードル攻撃開始を確認したよ、包囲網が崩れる、脱出だね』


この後すぐにミリー・フィル専用機は敵包囲網を突破し味方機と合流した。



地球連合軍 GJ 1061 が壊滅し、一度星系放棄する事になる36時間前の出来事である。

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