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板外3 ミリー・フィルの女王狩り 後編(前・後)

ミリー・フィルが戦闘を開始してからほぼ2時間。

彼女は未だ赤い壁の中にいる。


もう何万匹倒したかもわからない『近衛蟻』だが未だ途切れる様子もなく、ただひたすらに倒しながら前へ進むしかないという、手探り状態が続き


「あ”~、もう、いい加減雑魚ばっかりで鬱陶しくなってくるわね! 女王様はどこなのよ!!!」


そして、ここ10分ほど目に見えて彼女の愚痴が増えてきている。

ミリー・フィルがいかに優秀で『蟻』からの攻撃をほんの僅か回転軸を方向けるだけで全て回避しているといっても、彼女の体力が無限ではないし、『硬化流体』も全く未使用とはいかない。

戦闘時間が長引けば当然疲労が蓄積してくる。


『予定ポイントはそろそろだよ、焦らないで、大丈夫、まだまだ問題ないよ』


専用機AIは彼女の動き、判断の遅れをできるかぎり補正しながら、こうやって会話することで集中力を持続させているが、このままいけばそう遠くないうちに破綻するだろう。


『そろそろ一度、補給しておかないと厳しいかもな』


彼女の生体データをモニタリングしながら、そんな事も考えている。


だが、それから5分、ついに状況の変化が訪れた。


壁というにはあまりに分厚かった『近衛蟻』の密集地帯をついに抜けたのである。



**********************



「わぁお、ついに見つけたわ。ほんと雑魚ばっかりでうんざりだったの!」


私の眼前に広がっていた赤い壁は唐突に終わりを告げた。

壁を突き抜ける、という表現より壁の中にポッカリと広い空間が作られているという方が正しいのかもしれない。


ともかく、その約1000km四方ほどの空間の中央に、白銀の巨大な何かが陣取っているのが見える。


『どうやら、あれが女王様みたいだね。前回討伐したのよりずいぶん大きいよ。全長60mぐらいあるよ、それに足が12本に、なんだろうお尻が二股になってるね』


パートナーのAIがすぐさま解析し報告してくる。

前回、私が倒した女王は全長がロボットと同じ20mほどだったから、今回はその三倍ということになるのか。


『ふふ、それは大物ね。あっはは、とてもとても美味しそうだわ』


『周囲に5匹ほど漆黒の蟻がいるようだね、どうやら女王直属の護衛って感じなのかな? 索敵には反応してないし、視覚観測も難しい色だから注意しよう』


どうやら女王様は『赤』の連中より強い護衛を侍らしているようだ。

さすがにこれらを同時に相手にするのは面倒かもしれない。


『大丈夫、後続部隊がすぐ来る。黒い連中はそっちに押し付けちゃいなよ』


さすがパートナーAI、いいアイディアよね。


「分かったわ、後続のヘナチョコ連中が来るまで少し待ちましょう。補給物資が届けばなお助かるけど、さすがに無理か」


補給部隊の連中は戦闘には向いていないし、さすがにこの分厚い壁を武装護衛艦が抜けて来るにはまだ時間がかかるはず。

それにモタモタしていると女王様が逃げてしまうかもしれない。


『大丈夫、FF600ならすぐ届くよ』


パートナーAIがそういって機体後方の様子を正面に映す。

ご丁寧にカウントダウン付き、相変わらず芸が細かいわ。


カウントがゼロになった瞬間、蒼い稲妻が自機へ一直線に飛来して、背中のすぐ後ろで停止する。


「わぁお、お見事。投擲手はいい腕ね。位置もタイミングも完璧じゃない」


私は思わず歓喜の表情で投擲手に敬意を払い、飛来したそのカプセルに自機の頭を突っ込み『硬化流体』を補充する。

本当なら手や足を使ってエレガントに行うのがいいのだけれど、今の装備じゃそれが出来ないから、多少の無作法は仕方ないわよね。


『流石だね、ミリー。とてもワイルドだよ』


「仕方ないってことわかってるでしょ、ホントあんたのそういう所好きになれない」


そんなやり取りをしている間に、私に遅れること二分、後続の機体が三機、壁に穴を開けて自分の横までやってきた。


「遅かったわね、待ちくたびれたわよ」


私はわざとらしく嫌味を言っておく。

これもエースの嗜みってやつなのよね。

会話一つするにも、チョット高慢なぐらいの物言いをしないと逆に恐縮されちゃうのが玉に瑕。


『これは、遅くなって申し訳なかったわ。しかし我々の力量でエースオブエースに着いて行くのはとても厳しくてね、許して欲しい』


三機を代表したのか、少し薹(とう)が立ったベテランらしいパイロットが謝ってきたので、私は應用に頷いてみせた。

「まあいいわ、補給物資を待つ必要もあったのだし、タイミングは悪くなかったからね。で、よ。あなた達はあの女王の近くにいる邪魔っけな黒いのを引き剥がしてくれない?」

この三機のパイロットはいずれも私より階級が上なんだろうけど、実際直接戦闘の時は関係ない。

私の指示を無視して命令してきたり邪魔するようならまとめてなぎ倒すだけだから。


『了解したわ。エースオブエースの露払い、見事努めてみせましょう』


三機は特に反論するでもなく、お互い頷きあって私に先行する。


「それじゃあ、こちらはメインディッシュを頂くわ、行くわよ!!」


『全チェック問題なし、思いっきりやりなよ』


私は女王だけをまっすぐ見つめ、機体に戦闘加速を命じる。

宇宙での戦闘で彼我の距離が500kmなんて全くゼロ距離に等しい、私達は瞬きするほどの時間で女王の懐に飛び込み、その腹へ挨拶代わりに斬りつける。


<グギッ>


しかし、赤い蟻を難なく切り裂いてきた『オリハルコンブレード』そんな聞こえるはずのない鈍い音と共に停止する。


『マズイ、離れるよ』


パートナーAIの少し焦ったような声がしたかと思うと、私の意志に関係なく自機が弾かれるように後ろへ10kmほど移動している。


「なに、どうなったの?」


私は今の一連の動作を頭に思い描きながら確認する。


『この女王様のお腹さ、どうもとんでも無い硬さと柔軟性を併せ持っているみたいだね。運動エネルギーを根こそぎ奪われちゃったんだよ』


私はパートナーAIの返事を聞いて、焦るはずだと納得した。

『オリハルコンブレード』の攻撃力、その大半は高速移動と回転力の運動エネルギーによって生み出されているのだから、それを無力化されるということは、攻撃手段が無くなってしまうことを意味しているの。


これは手強い、と私は嬉しくなった。


「っふふふっふふふ、もう少し色々な所を切って確かめてみるべきね、そうよね、そうしましょう!!!」


そう、おそらくあの巨体から仕掛けてくる攻撃は致命的な物でしょうし、こちらの攻撃が有効かどうかも分からない。

なんてエキサイティング、素晴らしいシチュエーション。

これよ、これが戦場なのよ。


「さあ、行くわ!」


私は再び自機を疾走させる。

お腹の部分がダメなら背中、ダメなら首、尻、頭。


次々を攻撃を加えては状況を確認し、パートナーAIと打破の可能性を探る。

これが楽しい、この瞬間が一番楽しい。


でも、最初はほとんど反応のなかった女王蟻がようやく何かに気付いたのか、猛烈に暴れたした。


100mもある12本の足や6本ある触覚を振り回す。

体の側面や背中にある小さな『穴』、おそらく気門に当たるような場所からは体液を大量に吹き出し、こちらのニードルのように使ってくる。


私はそんな攻撃を時には早さで、回転の軸をずらす事で『オリハルコンブレード』で打ち払って、女王蟻に密着する。


上下左右タテヨコナナメ、ありとあらゆる方向から切りつけ離れ回避し、わざと打ち付け運動エネルギーを相殺し、方向を変え再び密着する。


『これは強いね。でも、どうも背中側の方がエネルギーの吸収拡散率が悪いみたいだ、それでも70%は持って行かれてるけどさ』


私はパートナーAIからのアドバイスで背中からの攻撃に集中することにした。

30%が通るなら同じ箇所を打ち付ければそのうち表皮を突破することが出来るのだろう。

おそらく。


『たぶんねー、強化ゴムみたいなのは表皮だけだと思うから、それさえ突破できれば倒せるはずだよ』


「オッケイ、やるわ殺るわヤルワ、必ずコロス」


更にテンションを高めた私は、常に女王の背中側に位置して首と背中の付け根の辺り、ち丁度急所だと考えられる場所にあった小さなシミのような場所を狙うことにする。


1度、2度、3度、4度と打ち付けると、女王蟻が今までと違った反応を示してくる。

一瞬、暴れるのをやめたかと思えば、シミの周囲からヌラヌラと体液に濡れた生体組織が数十本飛び出してくる。


それはどこからどう見ても触手にしか見えず、嫌悪感を引き起こす光景だ。


「うわ、何これ、気持ち悪い、バッチィ」


私は思わず乙女のような悲鳴を上げてしまった。

まあ頭のなかでだけれど、それは思考入力されるコックピット内では何の慰めにもならない。


『おおー、触手だねー。エース・オブ・ザ・触手プレイ。なんちて』


「なんちて、じゃなぁーい」


一度、女王と距離を離して観測するが、とても厄介なことにそれは5kmぐらいの長さまで伸びるようだった。


「あー、あれをブッチギリながらあそこを攻撃し続けなきゃならないの? 私みたいな美少女が触手プレイなんて冗談じゃないわよ!!!」


『他の場所狙ってもいいと思うよ、さすがに体のどこからでも出せるわけじゃ無いと思うしさ』


そんなこと言われても、いまさら逃げるようなことは絶対にしない。

あのシミみたいな所はきっと急所なんだから、やるしかないわ。


覚悟を決めると、私は自機を再び突っ込ませる。


別々の生き物のように蠢くそれをズッパンズッパン切りながら、進めばいいというものではない。

それに運動エネルギーを取られてしまっては急所への攻撃した時に力が乗らないのだから。


「ええい、いつものサーベルなら投射しながら突っ込めるのに!」


電磁投射の要領で飛ばす『硬化流体のブレード』であれば自機の運動量ロスは殆ど無いのだが、ここで固定武器が彼女の足を引っ張っている。


味方は少しづつ到着しつつある。

本来なら部隊をまとめて連携し、攻撃すれば倒せる可能性は高くなるかもしれない。

でも、それでは女王が逃げてしまうかもしれない。


『サーベルを投射しながらだと、あそこへ攻撃できるのは3~4回が限度だね。さっき補給しておいて良かったよ、所でニードルじゃダメなのかな?』


「あう・・・・・・ま、まあ、その手があるわね」


今日は『硬化流体』の消費を抑えるためにニードルは封印していてすっかり忘れていた。なんてドジなの私。


でも、これならやれるわね。

ふふふ、こんな楽しいこと誰にも邪魔させない。


ペロッ


と唇を軽く舐め、目標を定める

そして自機を一気に加速させる。

回転はしない、迫る触手は全てニードルで弾く。


高速で接近する数十本のそれをことごとく迎撃出来るのは、エースたる私とパートナーAIだけだろう。


外側へ弾きながら一直線に突入、シミを斬りつけるのではなく真っ直ぐに突撃したエネルギーを集約して突き刺す、まず一度目の突撃では右腕の『オリハルコンブレード』だ。


ほんの少し突き刺さった事を確認したら、抜く間も惜しんで腕ごと切り離し離脱する。


二度目は左腕だ、三度目は右足、そして四度目の左足の時には10mほど食い込む所まで深く傷つける事が出来た。


『これなら行けるよ、体内に直接打ち込もう』


パートナーAIも自分と同じ考えだ。


私は右腕に今まで作った中で最大級80mの『硬化流体ブレード』を形成する。


「さあ、これで最後よ!!」


だりゃぁぁぁぁぁ


そう心のなかで叫びながら五度目の突撃を敢行する。


しつこく迫ってくる触手もほとんど無意識のうちにニードルで弾き飛ばし、雷光の如き速度でそこへブレードを突き立てる。


浸透毒の体液はブレードを一瞬で分解する、が、その前にブレードを体内深く撃ちだす。制御は全面的に信頼しているAI任せだ。

しかし、『彼』がこの手の制御を失敗したことは過去に無く、これからもないだろう。


<ズグン>


一瞬、女王蟻の体が痙攣した。

意志があるかのように蠢いていた触手は力を失い、ただただ女王蟻の背中を漂う。


そして、頂点たる女王蟻が死んだ効果は絶大だった。

それまで広い宙域全体で組織的に行動していた『蟻』はたちまち統率を失い、バラバラに行動し始める。

中には同士討ちを始める個体すら出る始末である。


エースオブエースは、その名に相応しい仕事を完遂したのである。

それ以上の言葉は必要なかった。



残敵掃討には今しばらくの時間が必要となるのだが、こうしていて座矮小不規則銀河の方面の戦闘は集結したのである。

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