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板外3 マウカクエ・有樹・ビポッテの補給大作戦 前編 - 前・後

フェドボール

無重力空間で行うアメリカンフットボールのようなスポーツ


そのうち雑板の話としてフェドボール実況板を掲載する予定

戦闘が始まって12時間が経過しようとしていた。


エクスキャリバー002は連合軍の主力6000万と共にジリジリと後退しつつ『蟻』の前衛部隊約120億を引き付け激しい戦闘を繰り広げている。


そして3時間ほど前からは主戦場を大きく迂回していた100~200万程度で編成された別働隊が『蟻』の中後衛の各所へ断続的に攻撃を加え『蟻』の陣形を崩そうと四苦八苦していた。



そして現在、戦闘はいよいよ佳境に入りつつある


「特務部隊リーダーより各部隊、ヒマな時間は終わりだ。先ほど旗艦より連絡があり敵女王の位置が特定された。ここからは我らがお姫様達を女王様の元へ送り届けることが仕事だ、抜かるなよ!」


そんな演説をリーダーがすれば


『『『『『『おう』』』』』』


と部隊全体の士気が向上する。

色々な意味で専用機の『女性』パイロットは男共の憧れなのであった。

例え『姫様達』の大半が、自分の専用機AIに『恋』しちゃうような『残念娘』であったとしても・・・・・・

まあ、知らぬが仏、言わぬが華なのであった。


そして、5㎞級武装補給艦3隻と専用機700・有人機12000、無人AIロボット27000の約5万で編成された特務部隊が満を持して動き出す。



***********************



マウカクエ・有樹・ビポッテは武装補給艦『ベズカ』に乗艦してからずっと駐機場にあるラードックに乗り込んで


「ふえぇぇ、なんでこんな事になっちゃんたんでしょうかぁ」


愚痴をこぼしながら泣いていた。


『泣かないでぇぇぇぇ、有樹ぃぃぃぃぃぃぃぃ』


これにはラードックもほとほと困り、何とか慰めようとあれこれ声をかけているが、一向に泣きやむ気配はない。

そもそも新兵かつまだ成人していない年齢の有樹である。

本来であればこんな地獄の一丁目みたいな戦場へ出る必要などないのだが、今回は特別に稼働している専用機は全機召集を受けている。

色々運が悪い有樹なのだった。


しかも


「わたし、戦うなんてできませんよぉ、しかも正式な軍人でもないんですよー」 


シクシクシクシクグチグチグチグチ


もう丸三日ループしながら泣きっぱなし、瞼はもちろん顔全体が赤く腫れているように見える有様である。

もし彼女に100年どころか1000年越しの恋心を抱くような男がいたとしても、きっとその幻想は終わってしまう事だろう。


「だって、だってぇ、戦うなんて変ですよぇ、無いですぅ」


その上、周りで聞いている人間がいれば総突っ込みが入りそうなセリフである。

この時代の人間が誰も居なくて幸いだというべきだろう。


『マウカクエ・有樹・ビポッテ 準正規兵はそこにいるか?』


上官であるおっちゃんからラードックへ連絡が入った。


「うぇぇ、出たくないですぅ。出撃命令とか聞きたくないんです」


有樹はその無線にイヤイヤと顔を猛烈な勢いで左右に振る。


『有樹、もうつながってるから、丸見えだよぉぉぉぉぉぉ』


声が聞こえるということは、当たり前のことだが回線が接続されて、つまり生映像も向こうへ配信中ということである。

もちろん上司の映像は正面に映し出されている。


「あうあうあうあう」


そうして有樹は真っ赤な顔を瞬間的に真っ青にするという芸当をやりのけた。

ドジっ子属性な彼女はある意味で多芸である。


『よし、いるな。これより我らは敵中へと突入を開始する。マウカクエ・有樹・ビポッテ 準正規兵、心配する必要はない。君はまだ正式な軍人ではないし、敵と直接的な戦闘をする必要はない。君が担当するのは補給物資の投擲だ、分かるな?』


おっちゃんが部隊における有樹の役割を伝える。


「そ、そんな。私そんなこと出来ませんよぉ」


それを聞いた有樹はまたしても半泣きだ。

まあ自分に自信が全くない彼女であるから致し方ないのだが。


『マウカクエ・有樹・ビポッテ 準正規兵は学校でフェドボールの選手でQBクォーターバックだったのだろ? ならば問題ない、多少のミスは物量でカバーすればよい』


フェドボールとは戦場でロボット同士の補給方法をヒントにルールなどを整備して作られたスポーツだ。

人類連合内では最も盛んなメジャースポーツでもある。


「フェドボールなんてもう1年ぐらいやってませんよぉ、ダメですよぉ」


『これ以上の泣き言は聞かん。与えられた任務は全うするものだぞ、以上だ』


おっちゃんはそう言って通信を終了した。


『有樹ってフェドボールやってたんだぁぁぁぁぁぁ、あ、どんなスポーツなのか知らないけどぉぉぉぉぉ』


そしてやはり空気を読まないラードックである。


「えーと、知らないの? AIさんってスポーツ見ないのかな。あのね、映像見た方が良いよ!」


AIにスポーツ観戦を勧める少女、という微妙な絵面がここに完成した。

とはいえ現在彼女らがいる場所は、蟻の女王によって隔離されている戦場空間内である、その辺りから適当に映像を拾ってくる事など不可能なのであった。


『それはまた今度ねぇぇぇぇぇ、それよりそろそろ準備しないと不味くないかなぁぁぁぁぁぁぁ?』


「ひ、ひぃ」


有樹はフェドボールの事に頭がいっぱいで現状の事をすっかり忘れていたのだが、思い出して再び涙目になった。


『85番機から順次射出中』


『第1から12大隊は前面を固めろ』


『突撃部隊の専用機各機は自機内で待機』


『第13から60大隊は側方周囲だ、残りはケツを守れ』


『お姫様にアリンコを近づかせるなよ、気合を入れろ』


『専用機を損耗させたら生きて帰っても軍法会議だからな、覚えておけ』


丁度その時、有樹の耳に通信回線から次々に怒号が飛び込んできた。


いよいよ特務部隊による『女王蟻』急襲が始まろうとしている。



*******************



「あのぉ、ラードック。静かすぎると思いませんかぁ?」


突入合図から十数分、未だラードックのコックピット内でウジウジしていた有樹は、そんな事をポツリと漏らす。


『そりゃ、通信回線切ってるからねぇぇぇぇぇぇ』


それに対して平然と答えるラードック。

というか軍用回線を勝手に切断していていいのだろうか。


「へぇ、そんなこともできるんですかぁ。でもでも、ちょっと、ちょっとだけ外の様子が気になったりしたりするんですけどぉ・・・・・・」


有樹の声は、後半徐々にトーンダウンする。

興味はあるが、見るのは怖い、そういう心境なのだ。


『いいよぉ、外部カメラの映像に切り替えるぅぅぅぅぅぅぅぅ』


だが、そんな心も空気読まないラードックには通用しない。


ババンッと効果音付きで外の戦闘の様子が眼前一杯に映し出される。


「ひゃぁ」


有樹はそんな可愛い声を上げて思わずのけぞってしまった。


「もぉ、心の準備ぐらいさせてください。それが紳士という者だと思うんですぅ」


そしてプリプリ怒ってラードックに向かって文句をいう。


『はは、ごめんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』


特に堪えた様子もないラードック。

その証拠に映像を消そうとはしない。


『・・・・・・なんというか、地味ですねぇ』


有樹はしばらく映像を眺めてから感想を述べた。


それは、茶黒色っぽい巨大な壁の周辺を薄青く光る無数の点が飛び回ってるだけの映像だ。


それはそうだろう、実際に『蟻』と直接戦っている機体のモニターカメラならともかく、輸送艦の外部カメラからの映像である。


相対距離は15万kmもあるのだ、『蟻』の群れを遠目に見てもただの壁にしか見えないのは当たり前のことだった。

むろん、光学倍率を上げれば見えるのだが、それを指摘する者はいない。


『蛍が壁の周りを飛び回ってるみたいだねぇぇぇぇぇ』


「ホタル?」


コロニー育ちの有樹、というかこの世代の人間は地球産の生物などほとんど知らない。

ちなみに、『ネズミ』『蚊』『ゴキブリ』などは宇宙開闢初期うちゅうかいびゃくしょきに、持ち前のしぶとい生命力で宇宙各地へと散って行き、今やどこの船にも生息すると呼ばれるほどなので知っている。


悲しい現実である。


『でも凄いよねぇぇぇぇぇ、この巨大な壁を蛍が削岩してるんだぜぇぇぇぇ、ドォリィルゥゥゥかよぉぉぉぉぉぉ』


「ふーん、ってこの壁に向かって進んでりゅにょ!?」


目一杯、目を大きく開いて驚きを表す有樹。


『そだよー、この補給艦も秒速4万㎞ぐらいで壁に向かって前進中かなぁぁぁぁぁぁぁ』


「うしょんぅ(うそぉ)」


『ホントだよぉぉぉぉぉぉ、というか、もうこの部隊全体が敵の作る壁の中まで侵入してるから今さらだよぉぉぉぉぉ』


相変わらずカミカミ神な有樹だが意図は伝わっているようなので問題ない。

ラードックはカメラの映像を補給艦周囲1周するようにぐるりと回す。


それで有樹は理解した。


今この自分が乗っている艦は360°『蟻』に囲まれているのだと。

そして味方のロボットが近づく全てを薙ぎ払い吹き飛ばし穿って補給艦の周りに空白地帯を作り出しているのだと。


「あ、あ、あ、み、みんな大丈夫、なのかな」


先ほどまでの恐怖がぶり返してきて、涙目の震え声で味方の事を心配する有樹。


『ん~、凄いよねぇぇぇぇ、もう戦闘始まって20分ほど経つのに味方の損耗率0.05%ぐらいだ、強すぎじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ?』


そう、特務部隊はその任務に恥じない『精鋭』部隊だ。

1戦闘で撃破数が1万以下のロボットはほぼ皆無、ぶっちゃけ最近専用機に昇格したラードックだけである。

ラードックは非戦闘員として登録され、補給作業員として保護される立場なのだった。


「そ、それはぁ、凄いねぇ」


ラードックの言葉に心底感心したようにコクコク頷く有樹。

この感情の起伏が激しい娘が一瞬ホッとした雰囲気を出した所で、上官のおっちゃんから再び通信が入った。


『マウカクエ・有樹・ビポッテ 準正規兵、そろそろ補給が必要な機体が出始めている、補給用バックパックを装着して出撃しろ。これだけは言っておくぞ、戦う必要はない。とにかく補給物資を投射しろ、いいな!』


「ひゃ、ひゃい、了解しましゅた」


勢いに押され、とにかく拳を胸に当て敬礼して命令を拝受する有樹。


『よろしい、準備完了後、すぐに出撃するように、以上だ』


あっさり切れる通信、そしてまたしてもカミカミな言葉すら出ない口をパクパクさせている有樹だけが残された。


『大丈夫、有樹は俺がちゃんと守るからぁぁぁぁぁぁ、重空液注入開始ぃぃぃぃぃぃぃ』


なんだかフラグのようなセリフを言いつつ勝手に作業を開始するラードック。


そのセリフにポッとしてしまう有樹は完全にダメななのだった。


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