板外3 若旗艦 エクスキャリバー002 司令部の仕事
ほぼ戦況説明です
でもやっぱり巨大戦艦の主砲は最強です
ロボットのバトルは次話から
全長600㎞、幅150㎞という巨大な塊、その威容は『剣』に例えるのが正しいだろう。
遥か昔の時代であれば移民船としても使うに十分な大きさと設備を兼ね備えたその船の名を『エクスキャリバー002』という。
内部施設、特に巨大なのはブリッジで6万人収容のコンサートホールにも匹敵する広さがある。
眼前には2km×1kmという見る者を圧倒する大きさのモニターが鎮座し、約400分割された画面には各方面から収集されたデータや映像が所狭しと映し出されている。
そんな巨大なブリッジは階段状になっており、平時でも約2万、今回のような緊急時には約3万人のオペレーターが階級が下の者から順にひな壇の要領で並んでいる。
そしてそれは上に行くほど階級が高くなり人数が減るという事で、特に最上の3段はこの軍の中枢たるメンバーが鎮座する。
3段目には情報部次官、参謀部次官、統括部次官、補給部副官と次官(副官)クラスが計12名
2段目には各長官4人が並ぶ。
そして最上段にいるのはただ1人。
30歳をやや過ぎたかという中年長身の美丈夫の上級士官、彼こそがこのいて座矮小不規則銀河方面防衛軍、全軍の総司令官を拝命している人物なのである。
そんな彼の前に小さなホログラムモニターが浮遊してくる。
『マツマエ中将殿、第45管区 第20から30大隊 前線指定ポイントへ合流致しました、+12:00』
そのホログラムのモニターには一段下で種々の報告に埋もれている、白髪の情報部長官が胸に右こぶしを当てた姿勢で報告している姿が映し出された。
よほどのことがなければ、わざわざ振り向いて直接報告したりはしないものである。
広い宇宙空間で旧来の光通信しか使えないというのは、つまりタイムラグなしの情報伝達手段がないという事である。
だが虚海側の通信手段が完全に封じられているこの宙域では致し方ない事。
「+12分か、やれやれ不便な事だ」
マツマエ中将と呼ばれた男はホログラムが消えると同時に小さなため息を漏らした。
マツマエ中将、と呼ばれた人物は実はバイオロイドである。
それは主格Aであるはエクスキャリバー002の単なる外部端末だ。
知っている『人間』はこの世に存在しないのだが。
つまり、『マツマエ』という生前の名前を持つ、エクスキャリバー002は通常任務である太陽系防衛の任務を一時凍結され、いて座矮小不規則銀河方面防衛軍の旗艦としての任務を受け、現地へ赴いているのであった。
彼がタイムラグの面倒さに思いを馳せている間にも、次々と報告が上がってくる。
合流、編成、補給、移動、偵察
この戦場には天の川銀河人類連合軍、総数3億ロボットの内、その1/3に相当する1億機が投入されている。
むろんそれに付随するメンテナンスの人員や母艦の人員、補給部隊など『人間』は約1500万人が動員されている。
つまりそれだけの人・艦艇・ロボット・資源がこの宙域に終結しつつある、ということだ。
宙域全体を取り仕切る旗艦、指令所となれば莫大な情報を処理しなければならない。
それはわずか1分間という単位で区切ってさえ入ってくる報告は1000を軽く超る量になる。
それらの情報を3万人からなる艦橋のオペレーターは、下流から流れてくる情報を整理し上流へ、また上流から流れてくる指令を宙域、部隊などの単位に振り分けて下流へ流す作業を休む間もなくこなし続けている。
戦闘が始まっていない現状であればロボ転板で『若旗艦』と呼ばれる転生者AIだけで処理する事も可能だ。
しかし『軍』として司令官が直接細々としたことまで首を突っ込むのはご法度であるし、現場でしか分からない処理の仕方というものもある。
それらを一括で適切に処理できる存在はこの広い天の川銀河の中でもほとんどない。
あえて挙げればマザーと、後はとあるAIだけであろう。
「敵の動きはどうだ?」
巨大モニターに映し出させる情報には敵の新たな動きを示すものはない。
こちらはまだ全軍の集結と編成が完了しておらず、300倍もの敵と戦える体制にはなっていない。
しかし『若旗艦』はそろそろ動いているような予感を抱いていた。
攻め込まれるのに最悪、つまり敵として攻めるに絶妙のタイミングは、今この瞬間であるからだ。
『若旗艦』は情報部長官の前に自身のホログラム投影して確認する。
「っは、偵察部隊から動きがあったという情報は上がってきていません」
情報部長官はすぐさま上がってきている情報を一瞥して答えた。
そもそも『敵が動く』なとどいう重要な情報を見逃しているはずがないのである。
「ただ、最前線の偵察部隊とは+12:14の情報遅延が生じておりますから、ない、とは言い切れませんが」
若旗艦は一瞬、何事かを考えるように目を伏せ
「少々気になる。前線に近くて動かせる部隊があれば3つほど前に出すよう指示しろ。戦闘が始まっているならゆっくり後退、援護も回せ」
そう指示をだす。
そうやって最上段から発せられた指令は瞬く間に段を下って行き、その間に各方面に必要な連絡やデータ類や艦隊の移動経路の選定などが付け加えられてゆく。
そして最下段に到達した頃には
『第53管区 第二戦闘部隊は 23:21:30 に (-572,260,340) へ移動するように』
といった最終指令となっていてそれぞれの部隊へ通達するレベルまで落とし込まれる。
まさにこの艦橋こそが全軍の中枢、頭脳として機能しているのだ。
ちなみに座標は相対座標が使用されている。
旗艦の場所が(0(上下),0(左右),0(前後))として設定され、数字は『〇光秒』を表す
(-572,260,340)
なら下572光秒、右260光秒、前340光秒の位置、つまり旗艦から見れば右斜め下の方向となる。
『通達、第277偵察部隊より、敵に動きあり。方陣のまま前進開始しました。相対速度は1/3、23:08:52 +13:27です』
タイムラグによる指揮系統への負担は大きい。
情報が行き来するのに24~25分、これだけ時間があれば情報の双方向性は失われ、場合によっては戦況がそのものが変化する。
むろん各管区にはそれぞれトップがおり管区内の部隊を指揮してはいる。
だがそれはあくまで戦場の中では小さな『点』に過ぎない。
常に相手の動きを予測し、それに対応する手を考え戦場全体を掌握し続けるのは旗艦スタッフの責任なのである。
「先の命令を継続、相手の方陣を崩さなければ話にならん、まずは相手の前線を引きずり出して叩く。天上方向にも二管区分ほど部隊を回せ」
若旗艦は矢継ぎ早に指令を飛ばしつつ、刻々と変化する戦場の状況をモニターと報告から把握するように努める。
まず全体として、各部隊の集結状況が8割、編成を終えた部隊は未だ6割にも満たず、ほぼ半数の戦力が未だ投入できる状態になっていない。
当然、後方で遊兵と化している部隊も多いのだが、逐次投入にだけはならないように運用しなければならない。
蟻は方陣を組んでいる、とはいってもおおよそ300億の蟻全体がひとまとまりになっているわけではない。
2000万ほどの塊が1500、それが相互に援護できる程度の距離で均等に並んで、陣形を形成しているのだ。
戦力の逐次投入となれば、それぞれが別々の敵部隊に包囲され殲滅されることもあり得る。
今、最も重視すべきは味方の消耗を押さえ、敵の一部分を懐に引き込み出血を強いる事である。
が、引き込むのは相手に勢いが付く分、危険もある。
もし、敵の女王と呼べる個体がいるであろう敵方陣の中央部、と前線群をある程度離すことが出来なければ、それは全部隊が圧殺される危機に陥るに等しい。
そこで防衛軍の基本方針として、前進する敵の上下左右から敵前線よりやや後方へ攻撃を加え、自軍の中央部隊は徐々に下げる事で、ロート状の陣形に組み直す。
中央へ吸い出されるように突出してくる部隊には、強力な物理攻撃能力を持つ戦艦軍群から集中砲火を浴びせつつ、敵の最前線と中央を切り離してゆく、というのが全体の方針である。
現在モニターには愚直といっていいほど一直線に、しかし整然と形を崩さず自軍前線へ突入してゆく蟻達と、その勢いに押し出されるように上下左右へ分かれている自軍の様子が、戦術図として表示されている。
むろんそれは12分前の情報を基にした現在の予想図なのだが、逐次寄せられる情報を元に更新されているので突発的な事態が起こっていなければ、一定の信頼をおけるものだ。
「攻撃艦各隊は敵が射程に入り次第、個々の判断で攻撃することを許可する。ロボット部隊の運用は当面管区毎に判断させろ。旗艦はもう少し前に出すぞ、主戦場とのタイムラグは+5分とする」
若旗艦は間違なく反対意見をいうだろう参謀部長官を睨みつけながらキッパリと言い切る。
それを感じた4人の長官は一瞬迷ったようだが素直に従う事にしたようである。
すると1分もしないうちに戦術図に変化が現れる。
10㎞級戦艦群が旗艦の前面を守護するように周囲から集まり壁を築き、代わりに旗艦周辺で警護をしているロボットの多くが、戦艦群のさらに前へ移動してゆく。
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丁度その頃、最前線では互いの距離がわずか20光秒と光学観測可能な距離まで接近していた。
そしてついに防衛軍による遠距離からの砲撃が開始される。
この『蟻』と呼称されている敵性生物は地球の昆虫類に似た姿を持つ『虫』に分類される虚海産の生命体である。
この生命体全般に関しては、人類社会全体で統一された見解をまだ見いだせていない。
しかし、全般的な特徴のひとつとして上げられるのが個々に堅牢な外殻、異常な耐久性を持ちながら、『女王』と呼称される生殖機能を持った複数の固体を頂点とした生命体のように振る舞う事である。
したがって、『兵隊アリ』に分類されるような末端の個体は遠隔操作されている生体ロボットのようなものだと考えられている。
もうひとつの特徴は数十万kmといった1光秒単位の長距離攻撃を持たない事である。
唾液や体液のような生体物質を投射する事はままあるが、命中射程はせいぜい3000㎞程度だ。
宇宙のスケールで考えればあまりに短い射程なので戦闘用艦艇からすれば何の脅威も無い。
しかし、とにかく虫類は数が多いので互いの距離が一定以上ある間に砲撃で数を減らすのがセオリーであった。
ただ、その『セオリー』というやつは、必ずしも通用するとは限らないのが戦場だ。
射程が長いわけではない、20光秒の距離から撃ちこまれる破壊物質の速度はせいぜい光速の1/3である。
つまり着弾まで1分かかるということで、対抗手段を持っていれば十分対応できる時間があるという意味でもある。
今回の相手は『浸透毒』の体液を弾幕として使うことで艦砲射撃を封じ込めた。
ミリー・フィル専用機が『浸透毒』と判断したこの体液、実は『分解毒』といったほうが正しい。
こはマイクロブラックホールとほぼ同等の機能を持っている、つまり物体を虚素へ変換する『毒』
これを前面の蟻が全く同時に吐き出したのだ。
それはそれぞれの前面を全て覆うカーテンのように広がり混ざり『物体弾』を遮る膜となった。
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『艦砲射撃の効果認められず、前線各部隊は後退継続中 +08:00』
「本旗艦は+5:00まで前進を継続」
艦橋は慌ただしさを増していた。
通常弾による遠距離攻撃による攻撃が意味をなさなければ、約300倍の敵に対して有効な遠距離攻撃が『ほぼ』封じられたということだ。
AI制御のロボットでも『蟻』程度に1対1で負けることはあり得ない。
しかし個々に包囲されたとすればそんな前提は何の意味もないのである。
「旗艦前面の道を開けさせろ、+05:00に到着で主砲を使うぞ、まずは敵前面をバラけさせる。仮想バレル展開急げ」
若旗艦は矢継ぎ早に指示を出す。
エクスキャリバー系列には特殊な主砲が搭載されている。
恒星破壊規模の『無砲』がそれだ。
ブラックホールとホワイトホールの中間に位置する『無元素』と呼ばれる物質の塊を撃ちだす特殊兵器である。
『無元素』に衝突したあらゆる物は性質が反転し消滅する。
つまり虚海産であれば素粒子へ、実物質であれば虚素へと性質が反転し形状を維持できなくなってしまうのである。
エクスキャリバーの巨大な船体と剣のような形状は、極論すればこの兵器を使うために設計されているのであった。
『旗艦前面部隊、仮想バレル外へ展開中。前線部隊なおも後退+06:00』
『第352から380まで編成完了 (025,-40,-462) へ展開開始+05:44』
『第14,59,44の各隊、砲戦距離に入りました+06:35』
『特務部隊 各隊配置完了 +35:40』
「よし、特務部隊には 27:00:00 に突撃開始するよう通達」
次々上がってくる報告を聞き流しつつ、必要な場合は指示を出す。
特に、女王を直接叩く為だけに編成された『特務部隊』最終兵器でありながら扱いが酷く難しい。
例えるなら弓の弦にかかった矢の様なものだ。
確実なタイミングに確実なポイントに打ち込まなければ威力を発揮できない。
そして女王にたどり着かなければ戻ることはない、結果は『全滅』という二文字に集約されることになってしまう。
『敵軍は前進継続中、まもなく主砲射程ポイントに入ります+5:21』
『仮想バレル展開中 展開完了まで10秒』
『主砲射線上の味方部隊の避難完了+4:58』
『無元素生成中、砲撃可能まで15秒』
その報告を聞いた若旗艦はマツマエ中将として座る机の右手にある衝撃保護されたボタンを無造作に押しこむ。
すると400分割されている正面モニターが一斉に消え、そして画面に『無砲』の照準器と、虹色に煌めく長大な砲塔『仮想バレル』が表示される。
「5秒前からカウントダウンしろ」
『了解しました、カウントダウン開始します』
女性の声で返答がある。
カウントは参謀部の女性次官が行うのが伝統なのだ。
『5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・』
「撃てぃ」
カウントに合わせて淡々とした声色で若機関が砲撃の合図を出す。
その瞬間は画面に見える映像に何の変化も表示されなかった。
いや変化が無かったのではない、気がつきにくかっただけだ
虹色に煌めいている砲身の色が1色消え去る、というその微妙にして絶大な変化があっただけだからである。
しかし、すぐにその変化は誰しも分かる状態へとなっていく。
次々に、虹が食われるように色が抜け落ちていったからだ。
『仮想バレルの減色確認、砲弾射出は正常に完了。弾着まで 2:50』
「外周展開部隊に通達、弾着後にバラける敵を中央へ押し込め。主砲は次弾準備急げ」
『仮想バレルの再展開まで15:00、砲弾再装填まで18:00』
「相対距離を+5:00に固定、次弾射出と同時に敵前衛を引き出すぞ」
若旗艦の指示で各部隊の行動計画が次々と下流へ流れてゆく。
『着弾まで3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・砲弾到達時刻です、確認まで+4:44』
『相対距離を+5:00へ、旗艦を下げろ』
『展開部隊の移動を開始、敵前衛への砲撃開始』
『主砲着弾情報、『浸透毒』の無効化、敵前衛の3%消失を確認。蟻の前衛バラけます』
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『仮想バレルの再展開を開始、次弾発射可能まで+3:00』
『敵部隊約100万が射線上突出してきます』
「どうやら盾になる気だな、そいつらはそのまま引き込む。軸線を上方へ7%ずらせ、他の部隊も動かすぞ」
『了解しました、旗艦姿勢制御開始。周辺部隊も移動させろ、急げ』
『次弾発射可能まで+1:00』
『5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・』
「撃てぃ」
再び無元素が射出される。
『仮想バレルの減色確認、砲弾射出は正常に完了。弾着まで 3:20』
『敵突出部隊近づいています、まもなく旗艦の艦砲射程』
『旗艦を下げろ、周辺部隊に迎撃を指示』
『主武装射撃開始、弾幕を張れ、それ以上は近づけるな』
『旗艦護衛部隊も出せ、迎撃させろ』
作戦部のオペレーターから半ば絶叫のような指示が轟々と行き交う。
『第2撃の着弾まで3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・砲弾到達時刻です、確認まで+5:20』
「敵被害の報告を待つ必要はない、周辺部隊を突入させろ、敵前衛部隊を中央方向へ誘導させるんだ。中衛と切り離せ」
突入路を確保するまではまだまだやることがある。
ここからが本番だ、と若旗艦は気合を入れ直すのであった。




