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餌をつけて釣り始めるまでの話。

座り心地の良さそうな岩に腰をかける。


慣れた手つきで釣竿を構え、釣り針を自分の前まで持ってくる。


もちろん針に餌なんかついていないし、付けようにもアイテム袋の中は空だ、と言うより元々入ってなかった。


けれどボクは、釣り餌を持っていなくても十分釣りを楽しむ事ができる。


なんたってスキルがあるからね。


『スキル:疑似餌』発動


アクティブスキルの『疑似餌』はボクが一番よく使っているスキルだ。


アーククラフトオンラインの釣り餌には、初級、中級、上級釣り餌の三種類があって、ランクが上の餌を使うほど魚が食い付き易くなり、高級魚が釣れるようになる。


最初は初級釣り餌を使っていたけれど、すぐに中級、上級の釣り餌が欲しくなった、やっぱり珍しい魚を釣りたいからね。


幸い釣り餌は三種類とも店で売っているので買いに行ったのだが、陳列してある商品をみて固まった。


虫だった、中級釣り餌が、初級のお団子とは全然違った。


スルーして上級へと視線を変える、しかし、それはあの忌々しうねうねの型をしていた、しかも動いていたのだ、それを見たボクはその店から静かに立ち去った。


気分直しに町中を散策している時に、スキルショップで『疑似餌』のスキルが売っているのを見付けた。


スキル獲得条件の『釣り』レベル10以上も満たしていたので購入して覚える。


『疑似餌』は、通常の餌の代わりに魔力で作った餌を作り出すスキルだ、毎回、餌を買いにいかずに自身魔力の消費だけで済むのでとっても財布に優しい、最初こそ初級釣り餌に劣るものの、最高レベルになると、上級には劣るが中級以上の効果があるらしい、何よりうねうねしていないのが素晴らしい。


スキルを使うと、黄色い玉のようなふわふわしたものが、釣り針の先にできるのだ。


そんな訳で、スキルを発動させると、針の所に光が集まって、疑似餌が出来る筈なんだけれど。


・・・・・・


・・・できない。


針先に光の玉が出来るどころか、何にも起きません。風に揺られてぷらぷら揺れているだけです。


何だか、得意になってスキル発動とか言ってた自分が逆に恥ずかしくなってきた。


もう一度、スキルを発動させてみるが結果は同じただった。


なんで発動できないのだろう?


原因を探る為にステータス画面を開く、MPの表示は、2600/2600全快状態だ、HPの表示がおかしくなっていたけれど今は関係無いので気にしない。


次にスキルリストを開き覚えているスキルを確認する。疑似餌があることをしっかり確認して、ついでに他のスキルも変化がないことを確認する。


次に他のスキルが発動できるか調べようとしたが、今メインで育てている刀術関係の物理攻撃のスキルは武器が無いと発動出来ないし、製造系のスキルも道具がないのでまた同じ。


そして、使えそうな魔法関係のスキルをボクは覚えて居なかった、ただ一つを除いて。


オリジナルスキル『ただ属性球を回転させるだけの魔法』


アーククラフトオンラインのシステムに自分でスキルを作ることのできるオリジナルスキルと言うものがある。この魔法は、僕の友人が作ったものをそのままコピーしてもらった物だ。


疑似餌のスキルを使い釣りをしだすと、釣りのスキルはもちろんの事、魔法戦闘技術と言うスキルがどんどん伸びていった、疑似餌のスキルで魔力を使うからって理由で上昇したらしい。


単に成長しているだけだから特に気にしていなかったのだけれど、一つ問題が発生した。


なんと、スキルを介さない基本的な魔法攻撃力が、物理攻撃力を上回ってしまったのだ、ボクは刀しか使用していなかったので当然、魔法攻撃力なんてものは無用の産物だったのだけれど。


友達が「そこまで魔法攻撃力があるのに伸ばさないのはもったいないな。」と言って、攻撃魔法を教えようとしてきたのだ。


覚えるつもりは無いと断ったのだけれど、せめてこのスキルを使って熟練度を上げるだけでもと、無理やり押し付けられたのが、このスキルだ。


効果は、名前の通り、無、火、水、風、土、雷、光、闇属性の八属性の魔法球を発生させて、ただ、頭上で回転させるだけの魔法だ、当然、攻撃力は無い。


実際に使ってみると、釣りをしている時も、買い物をしている時も、狩りをしている時も、ただ、頭上で魔法を発動させているだけで、どんどん熟練度が上がり続けて行くと言うとっても、便利なスキルだった。


ただし、ものすごくウザイ。


釣りをしている時も、買い物をしている時も、狩りをしている時も、頭の上で、色とりどりの魔法球が光りながら円を描いてくるくる回っているのだ。視界の隅にちらちら入ってきて、気になって仕方がなかった。あと、異様に目立って道行く人々からもウザがられた。


そんな訳で、ある程度各属性魔法の熟練度が高くなった頃に使うのをやめてそれっきりにしていたスキルなのだが、今の状況で使えそうなのがこれしか無い。


まあ、使わなくてもある程度、結果が予想できるけれど、確認はしておいた方がいいだろう。


竿を持っていない法の手を天に突き上げる。


『スキル:ただ属性球を回転させるだけの魔法』発動


・・・・・・


・・・やっぱり発動しなかった。


こうなると、何が原因か解らなくなった。


スキルは覚えている、魔力もある。後は何が足りないのか考える。


もしかしたらと、一つの可能性に思い至る。


「大幅アップデート」


サービス開始三周年に合わせて実施されるかも知れないと噂されていた、大幅アップデートがもし、本当に行われていた場合はどうだろうか。


そう考えると、いくつか思い当たる点がある。


まず虫だ、今までなら、大型の昆虫型モンスターや、先ほどの釣り餌のようなアイテムでしかほとんど存在していなかった。


居たとしても、花畑に蝶々が数匹いた程度だ、森の中に蜘蛛の巣やムカデ、今立っている海辺に居る、虫や貝なんかは存在していなかった。


次にグラフィック?になるのだろうか、森の中に、腐葉土なんかは今まで無かったし、その触感まで再現されていた。


周囲を見渡してよく観察すると、今まで作り物ぽっかった部分が現実と見間違えそうなほど、作り込まれているのが判った。


ぱっと思い当たるだけでこれだけ変化しているのだ、本格的に調べ上げたらもっと見つかるだろう。


気を失っている間にシステムがアップデートされたのは間違いないようだ。


だとしたら、突然、スキルが使えなくなったのは何故だろう?


やっぱり、バグかな?


システムの変更に伴って様々な不具合が出ると言うのはよく聞く話だ。


バグなら仕方がない、それが修正されるまでは待っているしかないのだし。


釣りができなくなって、どうしょうかと考え、別に餌無しでも良くない?と思っていたら、ふと、ある一つの可能性を思い出した。


それはボクが魔法使いの友人と狩りに出かけて居た時の話だ。


モンスターと戦っていた友人がとても不満気に魔法を使っていたのを気になって、その事を尋ねてみたのだ。


友人が言うには「魔法使いなのに、魔法を使って倒している気がしない。」のだと


聞いた瞬間、それは謎かけか何かだろうか?と首を捻ったが、詳しく話を聞いてみると納得した。


魔法のスキルを使う時は、頭の中でそのスキル名を思い浮かべて発動と念じるか、スキルリストから選択するかすれば発動させる事ができる。


でも、それでは駄目なのだと、せっかくの仮想現実なのだから、魔力を操っている感覚が欲しいのだと、友人は言う。


魔法を使っても消費するのは、数値上のMPのみ、まるで魔法によく似た何かを永遠とボタン一つで作り出しているようで、ひどく味気無いのだと。


そうではなく、魔力が体の中に有ることをしっかりと感じとれ、それを練り上げ、操り、変化させて魔法を放ち、それが体内から抜け出た感覚が欲しいのだと、熱く語られてしまった。


友人は今の話を、運営陣に言って、アップデートがあるなら、その機能を実装してもらうのだと、嘆願書を熱心に書いて運営に送っていた。


そんな面倒くさそうな機能追加しなくても良いよと心の中で思っていたのだが。


もし、今回のアップデートでその機能を追加していたとしたら。


頭の中で魔法を思い浮かべるのではなく、体の中の魔力を操らないと魔法が発動しないように、変更されたかも知れない。


あくまでも可能性の話なので、取り敢えずやってみて、やっぱり駄目でした、と言う程度の軽い気持ちで確かめて見る事にする。


まず目を閉じ、呼吸を整える、お腹の下辺りに意識を集中し、長く深い深呼吸をゆっくり繰り返す。


正直言って、前にテレビかなんかでやってた健康法か何かを真似しただけだ、体内の魔力を感じる方法なんて、知ってる訳がない。


だと言うのにだ。


ヘソの奥辺りに、水より感触がなく、蒸気よりも質量があり、そしてほのかに暖かい言葉にすればそんな感じの何かが、渦を巻きながら少しずつ集まって来ているのがはっきりと判った。


なんか、魔力っぽいのを感じとっちゃいましたけど。


取り敢えず、この謎のエネルギーが実際に仕様できるか試してみる。


集まっている部分から、ほんの少し切りとって、手に移動するように意識してみる。


すると、そのイメージ通りに、集合点から豆粒くらいの量が抜け出て、するすると腕を登っていった。


体の中を走るその感覚が、何だか少しくすぐったい気もする。


手にたどり着いた事を確認すると、それを無属性の属性球へと変化させて手のひらから飛び出すイメージを送る。


イメージしたのは、先ほど不発だった『ただ属性球を回転させるだけの魔法』で作り出せるはずの物だ、ちなみに無属性だけにしたのは、単にそれが一番簡単そうだったからだ。


手のひらから、ポンと頭上へ白い光の玉が浮かび上がる。


「おぉぉ!!」


ボクは、出来上がった属性球を見て感動した。


今なら、友人の言っていた言葉の意味がよく分かる、単に選んで魔法を使うのと、実際に魔力を感じて魔法を使うのでは、実際に使った時の感動が全然ちかう。後者の方が自分で作ったと言う思いがある分、愛着のようなものが沸くのだ。


まあ、面倒くさい事にはかわりないけれど。


まとめると、


仕様の変更で、魔力を操つらないと魔法を発動させる事が出来なくなったようだ。


こんな大がかりな変更通知も無しにして大丈夫かな?、変更の事を知らずに狩りに出かけた魔法使いが、魔法を使えずにモンスターに倒される光景が頭に浮かぶ。


なむり


せめて事前告知か、更新後の全体アナウンスくらいはして欲しかった。


サービス開始以来、細かく丁寧なサポート体制でほとんど不平や不満が出ることのなかった運営チーム初の失態って事になるのだろうか?


さらに、今のボクの現状、説明も無しに町の入り口から何処かに強制転移とかもあるから。


今頃、運営は不満の電話や質問のメールが大量に送られてきて対応に大慌てかもしれないな。


などと、考えながらもう一つ属性球を打ち上げる。


五つほど作って、頭上で回転させたり、お手玉の真似事をしたりして魔力の操作を練習する。


十分なれてきた所で今度は各属性分作って見る事にした、最初は水属性を作ってみる。


水属性にしたのは失敗した時の事を考えてだ、火属性とか火傷しそうだし。


属性球は予想通り、魔力が体内にある時、念じるだけでその属性に変化した。


いろいろ試しながら、各属性の球をポンポン打ち上げる。


しばらく練習しながら球を操って遊ぶ。


完璧に制御できるようになるまでしばらくそうしていた。


そして、いよいよ本番。


『スキル:疑似餌』発動


魔力を操作すると、イメージ通りに光が集まり。今までスキルを発動していた時と同じ球体が針先に出来上がる。


よし、成功。


それでは、楽しい釣りタイムの開始だ。

タイトル通り、釣り始めるまでしか書いてません。



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