あとはワサビがあれば良い。
大皿に盛り付けた、お刺身の一つを箸で摘まんで、自家製の醤油にちょんと付ける。
醤油の上に脂が薄く幕を作る、脂の乗っている証拠だ、白み掛かった赤身に白い筋が何本か、まるで大トロのようだ。
先ほど釣った魚の外見は、マグロとは全然違うのだが、切り身と味はとてもよく似ている。
口の中に入れると、脂がまろやかに溶け、それと共に旨味とほのかな甘味が広がってゆく
美味しい。
先ほどから串に刺して焼いている塩焼きも、もうそろそろ良いかもしれない。
ボクは、残りのお刺身を食べ終えると、塩焼きに噛り付く。
白身魚の淡白な味に塩のアクセントが効いてこれまた美味しい。
水筒から水を汲んで一杯飲む、一息ついてから、釣竿を手に取る。
釣竿と言っても、針と糸がついていない、ましてや竿の方でさえ近くの森の中に生えていた竹っぽい植物を切ってそれっぽく見せただけのものだ。
こんな最低限の物さえ付いていない棒でどうやって釣りをするかって?
答えは簡単。
《スキル:擬似餌》発動
ボクは棒へ、魔力を流していく、大物に耐えられる強度としなりが生まれる、先端から魔力で形成された糸が垂らされて、その先には、魚の形をしたルアーが生まれる、普通のものと違い魚が食い付くと、針ではなく吸盤で吸い付くようになっている。
竿を勢い良く振ると、きれいな放物線を描いてルアーが飛んでゆき、海に波紋をたてる。
ちなみに糸の長さは魔力の続く限り伸ばすことができる。
波打ち際の岸壁でボクはちょうどいいくらいの岩場に腰を掛ける。
海と空、碧と青のコントラスト、その間に一筋の白い線、どこまでも真っすぐな地平線。
晴天の太陽は、必要以上に体を温めて、時より吹く海風が火照りを覚ましてゆくのが気持ちよかった。
そんな陽気の中で思い返す、現実の世界を、仮想世界の仲間たちを、そして、なぜボクがここに居るのかを。