今夜はお刺身〜♪
いきなり、ゆるく無かったり
一瞬、気を失って居たのだろう、空腹と倦怠感で再び薄れそうになる意識を必死につなぎ止め、ただ生きるために、あてもなく再び前へ進みだした。
「力と記憶を無くし、どこか遠くで野たれ死ぬがいい」
自らの中にある最初の記憶、その言葉と浮遊感、目を開けると圧倒的な広ひろさの見覚えのない世界に、ぽつんと一人漂っていた。
私より一回りも二回りも大きな生物が私を捕食せんと牙を剥いてくる。
あの声の通り、私は無力だ、必死に逃げ、隠れ、意識を研ぎ澄まし、生き延びようとあがき続ける。
絶対に野たれ死ぬものか、どこの誰とも知れぬ声の主の思い通りになるものか。
だが、そんな私の思いを嘲笑うかのように、肉体は疲労し、腹は空き、頭は睡眠を訴える。
その場に生えていた海藻を無理やり腹の中に詰め込み、岩影に隠れて眠り、生き物の気配に飛び起きる、周囲に気を配りながら寝るのだ、当然、深さも時間も足らない。
私の体力と精神は急速に磨耗していった。
どれくらいそうして生き延びて居たのだろう、昼も夜も関係なく、ただ合間合間の短い休息で命を繋いだ
そんなある時、私はとても‘美味しそうな匂い’を感じた。
一口に‘美味しそうな匂い’と言っても色々あるだろう、肉の焼けた芳ばしい香り、作られたばかりのお菓子の甘い香り、挽きたてのコーヒーのほっとする香り、だが、この香はそれらとは決定的に違うように感じた。
記憶の無い私が言うのはおかしいが、今まで嗅いだことの無い種類の匂い、嗅覚ではなく、本能、空腹に直接、ここにおいしい食物があるよと訴えかけるような、‘美味しそうな匂い’
私は取りつかれるように匂いの出所を探した。
いた、私の視線はしっかりと‘弱った獲物’の姿のを捕えた。
私は歓喜した、久しぶりの肉だ、満身創痍の私でも狩れそうなほど‘弱った獲物’だ。
私は、騒ぎ立てる空腹感を意思の力で押さえつけ、極めて冷静に、獲物へと近づいていった。
捕まえるその瞬間に、全てをぶつけられるよう、力を蓄えながら。
気がつかれれば終わりだ。
死にかけとはいえ、相手にまだ、力が残って無いともかぎらない、見つかって遠くに逃げられた場合、それを追い掛ける体力と気力が私の残っているとは言いがたい、こちらもまた、ギリギリなのだ。
必殺と自信の持てる距離まで近づいた、冷静に相手の動きを伺う、獲物へと全ての意識が集中していく、体感時間が何倍にも何十倍にも伸びていくような不思議な感覚の中、私の中で何かが噛み合った。
狩る。
今までどこに眠っていたのかと思えるほどの力を爆発させ獲物へとかぶりついた。
後から思えばだが、やはりこの時、私は冷静ではなかったのだろう、匂いにつられて行ったら、あとちょっとの手間で食べられるご飯が用意してあるのだ、
こんな事は自然界ではまずありえない、明らかに、罠だ。
正気ならば即座に気付いただろう、極度の空腹と疲労は、私の判断力をあっさり狂わせた。
獲物を口に入れた瞬間、それは、別の何かに変化した、あえて近いものを言えば吸盤だろうか、思い出したのは以前襲われた大タコの吸盤、あの時、運良く自らのウロコが剥がれ落ちなければ、そのまま絡めと捕られ補食されていたであろうもの。
私は咄嗟に、異物を吐き出そうとした、だがそれは、口内にピタリと張り付き、離れない、それどころか、どこかへ連れていこうと、引っ張り始めた。
私は必死に逃げ出そうと暴れるが、食らい付くのに力を出し切った今、まともに抵抗するだけの体力も残っていない。
ずるずると引きづられ、上方へ、海面がどんどん近くなる。
ザパン!!
とうとう、海の底から、空中へと投げ出される。
太陽の光に反射されて、口から長く細い糸が出ている事に気が付く。
おそらく吸盤から伸びているであろうそれの先は、先端がだんだん細くなり軽く湾曲している棒、それを両手に持ち二本の足で大地に立つ謎の生物が居た。
私はこの時理解した、あの生物の仕掛けた罠にまんまとはまり、釣り上げられたのだ。
猛烈な死の予感に体が強ばる
あれほどまでに必死に生き延びようとしたのに、たった一つの油断ですべてが無に返したのだ、逃れようとしても、疲弊した体はぴくりとも動かせない。
あぁ、私は死ぬのだ。
唐突に、そう悟ると、抵抗しょうとする意志がまるで、水に溶けるように消えてゆく。
絶望も怒りも悔しさも無く、ただ、虚無感だけが、私の体ををうめつくしてゆく。
薄れゆく意識の片隅で、記憶の中の声が私を嘲笑ったような気がした。
表現が分かり辛かったり、句読点がおかしかったり、いろいろあると思いますがヨロシクお願いします。