私が魔女っ子を卒業したわけ
あの時が楽しかったかと問われれば、決して楽しかったことばかりではなかったと思う。
『周りの人にばれたらダメ』
『また敵が現れた!』
魔女っ子になってフリフリのかわいらしい服を着て、派手な魔法で敵を倒す!
現実はそんな綺麗ごとばかりじゃなかった。
それに、好きな男の子と一緒に遊んでいても空気を読まずに出てくる敵!私の恋を邪魔する奴は許さない!
・・・そんな日々から20年。
魔法の力はまだ残っているし、返信だって出来る。だけど、それをする気にはなれない。
だって・・・。
「お母さん!」
あわただしい足音とともに13歳になる娘が入ってきた。
「お母さん!」
「どうしたの?」
「あのね、今日ね、初めて敵を倒したんだ!かわいい服を着て素敵に戦ったの!」
満面の笑みを浮かべ、誇らしげに語る娘を見て、私も嬉しくなる。
大人になって、『魔女っ子』と呼べる年ではなくなったけれど、その血は引き継がれていくものなのね。
私が『魔女っ子』をやめたのはいつのことだったかしら?
ひっきりなしに出てくる敵に疲れた時?
友だちにばれそうになった時?
・・・どれも違う気がする。
そうだ、きっと『あの時』だ。
あれは私が18歳の時だった。
18歳で『魔女っ子』というのも少し恥ずかしかったけれど、かわいい服を着て敵を倒すことが楽しかったから、私は辞めずに戦い続けた。
そんなある日、私は一人の男の人に出会った。――それが今の旦那だ。
その時は何とも思ってなかったし、一般人を巻き込まないように必死だったから、あまり彼のことを気にはしていなかった。
なぜ彼のことが気になりだしたのだろう?
彼は新聞部で、町を襲う怪物と、それと戦う私の存在を追いかけていた。
今となってはあの服だけで私だと分からなくなることがあるのだろうか?いつもと違う服だと印象は変わるでしょうけど。
とにかく、彼は私は『魔女っ子』だということに気付いた。だから私に近づいてきた。
『魔女っ子であることがばれたらおしまい』この言葉の本当の意味を私は大人になってから理解した。
別に魔法の力を失うわけでもないし、返信もできる。まだかわいい服だって着れる。
なにがおしまいなのか。それは、『人前で戦うこと』が出来なくなる。それだけのことだったのだ。
変身したり、敵と戦わなくはなったけれど、守るべきものが生まれて、次の世代に伝える使命も生まれた。
だから私はそのために魔女っ子を卒業した。新しい世代に、夢を引き継ぐために。
・・・本当は変身した自分の姿を見て、似合わなくなったのを認めたくないだけなんだけどね。
小じわだらけの魔女っ子なんて、見たくないでしょ?