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void  作者: 薄桜
4/5

当日は、予定外の事が起こりそうになるのを何とかすり抜けて、別のやつに押し付けた。それでも予定の時刻から少しずれてしまい、辻元を少し待たせる事になった。

「悪い、少し仕事が長引いた。」

「やっと来たな。しっかしお前、老けたんじゃないか?」

「ひでーな、大人になったんだよ。お前も大分変わったぞ。」

そして、お互い顔を見合わせて笑った。

「まぁ、もうすぐ30だしな。」

そして笑いが止むと、俺は思わずこぼした。

10代から20代へのランクアップは、期待感が溢れている。

だがしかし、20代から30代へは、溜息しか出てこない。

そして、その瞬間はもうすぐそこに迫っている。

「だな、昔は30っていやぁおっさんってイメージだったんだが、いざ自分がそうなってみると、そんな気はしないんだよな。」

「だな、けど『昔』って言葉が出るあたり、十分俺等もおっさんなのかもな。」

「それを言うなよ・・・。」

情けない顔で、乾いた笑いを立てる辻元に、俺も苦笑を返した。

・・・確か、俺の方が2ヶ月早くその時を迎える筈だ。


通りがかった店員にビールとつまみをいくつか頼み、俺たちは改めて再会を祝した。

お互いの近況と、思い出話でしばし飲んだ後、

「そうそうこれこれ、これ返さなきゃ意味ねーよな。」

アルコールの作用でよく回る辻元の舌が、今日の本題を切り出し、カバンを探って茶色い封筒を取り出した。

それは何の変哲も無い事務用の薄い茶封筒で、色気も何もあったもんじゃねえな・・・と、当時の自分に苦笑しながらそれを受け取り、俺もカバンから白い封筒を出して辻元に渡した。


二人が惚れた女の子。比和 麻衣子(ひわ まいこ)は、ちょっとキツめの子だった。

守ってあげたくなるようなタイプじゃなくて、逆に守ってくれそうな気もする・・・親分気質で、正義感が強くて、それでいてとても女の子らしかった。

男子と一緒に騒げるノリの良さがあり・・そのせいで手紙を渡せなかった。

良い友達だったから、友達からその先に手を伸ばすリスクは犯せなかった。

結局、彼女とは中学までで・・・そこから先はまったく会ってない。

成人式でも会わなかったし、同窓会は俺の方が行ってないので、参加していたのかどうかすら知らない。


自分の手紙を眺めて、昔の純粋な気持ちにくすぐったいものを感じて・・・それでも懐かしさに表情が緩む。

だから、自然とその疑問が口をついて出た。

「比和さんどうしてるかな?」

当然同い年の彼女も29歳で・・・既に誰かのものになって、母親になってるかもしれない。そう思うのが当たり前の歳だ。

だが、だとしたら自分とはえらい違いだなと、思わず口の端が歪む。


もちろん彼女の行方を知らない身としては、答えを期待した訳も無く、話題の一つとして口に乗せただけだ。

だが、意外な事にその答えが返ってきた。

「・・・あー、それなんだがな。・・・今度結婚する。・・・悪い。」

そう言った、正面の辻元は少し俯いていた。

「誰が? 何が悪いんだ?」

「俺と・・・比和麻衣子。」

なるほど、それが本当の本題か。

アルコールの効果はどこに行ったものか・・・。

俺の出方を待って、よく回っていた舌は急に動かなくなってしまったらしい。

だが、昔の思い出に律儀にこうして向き合って、たいしたヤツだと改めて感心した。

「そっか、おめでとう。」

その一言で(おもて)を上げた。

「良かったら式に来てくれないか?」

「あぁ、喜んで。」


それから式場の場所と、二人の馴れ初め・・・営業先で偶然再会して、再燃する思いのままに猛アタックをかけたって話を笑いながら聞いた。


「なぁ、式は教会式か?」

「んぁ? そのつもりだけど、どうかしたか?」

「じゃぁ・・・異議があるものはって(くだり)で手を上げていいか?」

「おいおい、止めてくれ。」

「冗談だ、本気にすんなよ。」

「お前が言うと、笑えねーよ・・・。」

引き攣った顔で、日本酒を口にする友人に、

「間違いなく祝ってるから、心配すんな。お前と違って、俺にはただの思い出だ。」

そう言って、グラスのカクテルを煽った。

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