兄を忘れたくて
私の名前は、マナ。22歳の看護士。2人兄妹。兄は、清人、27歳で、消防士。父子家庭だ。両親は、マナが、小さい頃に、離婚していた。
兄妹は、とても仲が良かった。いろんなことで、助け合って生きていた。私、マナは、兄の清人に、淡い恋心を持っている。兄の清人も、マナのことは、妹としては、見ているが、頼りにしていた。
父親は、2人とも、そろそろ、適齢期ということもあって、結婚してほしいと、思っていた。マナは、兄のことが、好きだったので、結婚には、気が進まなかった。兄の清人も、両親の離婚のこともあり、あまり、結婚には、前向きではなかった。
父親の心配をよそに、兄妹は、よく二人で、遊びに出かけたり、旅行したり、カップルの様な感じで過ごしていた。
転機が訪れたのは、兄の清人に、職場の先輩が、女性を紹介して、付き合ってみることになったのだ。女性の名前は、久美子といって、清楚な美人という感じの女性だった。年齢は、29歳で、清人より、2歳年上だった。2人は、意気投合して、仲良くなっていった。
マナは、それを知って、複雑な心境だった。兄妹だから、結婚は、できないのは、わかっているけれど、兄の清人に、恋人が、できたことが、ショックだった。もし、兄が、結婚したら…考えただけでも、落ち込んでしまっていた。
そんなマナの気持ちとは、裏腹に、清人と久美子は、順調に交際が進んでいた。久美子は、29歳だったので、清人も、結婚を急ぎたかった。間もなくして、2人は、結婚することになった。
父親は、とても喜んでいたが、マナは、結婚式にも、出席したくなかった。マナは、傷心だった。仕方なく、結婚式には、出席したマナだが、終始、浮かなかった。
無事、結婚式も終わり、清人と久美子は、アパートで、暮らすことになった。実家から、歩いても行ける距離のところにある、アパートだから、行ったり来たりは、できる感じだった。
マナは、傷心だったが、その分、仕事に、打ち込んでいた。マナもまた、清人のことを忘れようとして、コンパなどには、積極的に参加した。そんな中、マナが、出会ったのは、兄の清人によく似た、看護士の健一だった。健一は、25歳になったばかりだった。マナは、一目で、健一の事が好きになった。兄の清人とは、別人だけど、兄に、似ている、というだけで、一目惚れをしてしまった。付き合ってみることにした。付き合っていくうちに、兄とは、全然違うタイプだったことに、気づかされた。それでも、付き合いは、続けていたが、マナは、やはり、兄の清人には、かなわないと、健一との別れを決意した。やはり、自分が、好きなのは、兄の清人だということを、まざまざと、知らされた気がしていた。
一方、兄の清人と久美子は、仲良く暮らしていた。久美子は、清人の子をみごもっていた。来年には、赤ちゃんが、生まれる。幸せいっぱいに暮らしていた。
マナは、兄の清人とは、あまり、会わなくなっていた。父親と2人で、仲良く暮らしていたが、父親は、マナのことも、とても、心配していた。父親の本心は、マナが、お婿さんをとって、自分と一緒に暮らしてくれたら、いいな、と思っていた。
マナは、もう、結婚は、あきらめていた。兄の清人を好きなまま、他の誰かと結婚することは、できないと、思ったからだ。父親にも、結婚は、しないかもしれない、と言った。父親は、それを聞いて、ものすごく心配していた。
マナは、ある決意をしていた。仕事をやめて、今まで、貯めたお金で、海外留学をしようかな、と、思っていた。それとも、青年海外協力隊で、看護士として、働こうかな、と、思っていた。いずれにしても、兄の清人のいない国に、行って、忘れたかった。
ちょうど、青年海外協力隊で、募集していたので、応募することにした。でも、そこは、タンザニアという国だった。国は、マナにとって、どこでもよかった。大変だと思うけど、頑張ってみようと思っていた。
父親は、ものすごく、反対したが、マナは、2年間だけ、行かせてほしいと、頼み込んだ。マナも、覚悟をして、行かなければならないと、思っていた。
青年海外協力隊の方から、合格通知が届いた。合格は、したけど、マナは、兄の清人と離れることに、改めて、複雑な心境になっていた。清人も、マナのことを、とても、心配していた。
タンザニアに向けて、出発の日、空港まで、兄の清人が、見送りにきてくれた。マナは、涙が止まらなくなっていた。清人を忘れるために、タンザニアに行くことになった。その兄の清人が、目の前にいることで、もう、気持ちは、抑えられなくなっていた。でも、この気持ちは、兄には、伝えることは、できないのだ。
飛行機に乗り、マナは、いろんな事を、走馬灯の様に、思い出していた。両親が、離婚してから、兄の清人と、仲良くやってきたことや、いろんなところに、2人で、行ったりしたこと。涙が溢れて、止まらなくなっていた。
そんなマナを見ていた、隣のシートに座っていた、新司、30歳が、そっと、ハンカチを差し出した。新司は、仕事の出張で、この飛行機に乗ったのだ。
マナは、「ありがとうございます。」と言って、ハンカチを借りた。「あとで、お返ししたいけど、無理ですよね。」と言った。新司は、「連絡先を教えてください。」と言って、メモを取り出した。お互いに、連絡先を交わした。
マナは、これから、青年海外協力隊で、2年間、タンザニアに行くことを、新司に伝えた。新司も、タンザニアでの、仕事があった。「これも、何かの縁だと思うから、お互い、時間が、あったら会いましょう。」と、新司は、言った。マナは、オーケーだった。傷心のマナにとって、異国の地へ、行くことの心細さを、少しは、解消できていた。救われた気がしていた。
マナは、タンザニアに行くことになったのにも、何か意味があったのではないかと、思い始めていた。




