鳴き声
惑星への落下は、奇跡的な生還だった。
宇宙船は主機関を失いながらも、どうにか地表へ不時着した。乗組員は八名。死者は出なかった。
さらに幸運は続いた。
大気は呼吸可能、水は飲める、気温も極端ではない。生態系こそ異なるが、乗組員の生活に支障は少なかった。
しかし――帰還手段だけがなかった。
超空間機関は焼失し、通信設備は沈黙している。
救難信号は自動送信されたものの、最寄りの航路まではあまりにも遠い。
「運がよければ百年」
航法士が言った。
「悪ければ、誰も来ない」
議論の末、彼らはコールドスリープを選んだ。
食料を消費しながら寿命を待つより、生存確率は高い。だが、問題が一つあった。
救助隊が来たとして、この広い惑星で彼らを発見できるのか。
船の電力では長期間ビーコンを維持できないだろう。何百年も動く人工設備など、持ち合わせていなかった。
技術主任が言った。
「作ればいい」
「何を?」
「知らせるものを」
彼は生物工学の専門家でもあった。
この星に適応し、長期間存続でき、なおかつ低コストで機能する存在。
自律的に増え、環境変化にも耐え、必要な季節だけ活動する。
地中に長く留まり、無駄な消耗を避ける設計。
決まった気候条件を満たした時のみ現れ、短期間だけ活動する。
そして何より、鳴くこと。
位置座標、地下施設の深度、起動信号―。
それらを一定の周期と音階に変換し、遺伝的に継承させる。
「救助隊は解析できるだろう」
技術主任は言った。
「この音を聞けば、我々の場所がわかるはずだ」
「だが、長い年月で変異したら?」
「少々の誤差は想定済みだ。重要な部分は単純化してある」
試作個体は小さかった。
透明な膜を持つ翼。硬質な外皮。
普段は地下でほとんど動かずエネルギーを蓄え、長い時間を眠るように過ごす。
だが、季節が来れば地上へ現れ、樹木の高所で大音量の信号を送る。
その寿命は短い。
鳴き終え、次世代を残せば役目を終える。
「完璧だ」
誰かが言った。
「千年後でも、きっと待っていてくれる」
そして乗組員たちは地下施設で眠りについた。
救助を信じて。
長い、長い時間を。
それから遥かな後の時代。
この星の住民たちは、暑い季節になると現れる奇妙な生き物に悩まされていた。
何年も姿を見せず、ある年に突然、大量発生するものもいる。
木にしがみつき、耳を塞ぎたくなるほどの音を出す。
子どもは抜け殻を集め、学者は生態を研究した。
うるさいが、季節を告げる存在。
誰も気づかなかった。
あの鳴き声が、数百年越しに繰り返される
遭難者たちの救難信号だったことに。




