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鳴き声

作者: 国産狂人
掲載日:2026/05/22

惑星への落下は、奇跡的な生還だった。

宇宙船は主機関を失いながらも、どうにか地表へ不時着した。乗組員は八名。死者は出なかった。


さらに幸運は続いた。

大気は呼吸可能、水は飲める、気温も極端ではない。生態系こそ異なるが、乗組員の生活に支障は少なかった。


しかし――帰還手段だけがなかった。

超空間機関は焼失し、通信設備は沈黙している。

救難信号は自動送信されたものの、最寄りの航路まではあまりにも遠い。


「運がよければ百年」


航法士が言った。


「悪ければ、誰も来ない」


議論の末、彼らはコールドスリープを選んだ。

食料を消費しながら寿命を待つより、生存確率は高い。だが、問題が一つあった。

救助隊が来たとして、この広い惑星で彼らを発見できるのか。

船の電力では長期間ビーコンを維持できないだろう。何百年も動く人工設備など、持ち合わせていなかった。


技術主任が言った。


「作ればいい」


「何を?」


「知らせるものを」


彼は生物工学の専門家でもあった。

この星に適応し、長期間存続でき、なおかつ低コストで機能する存在。

自律的に増え、環境変化にも耐え、必要な季節だけ活動する。


地中に長く留まり、無駄な消耗を避ける設計。

決まった気候条件を満たした時のみ現れ、短期間だけ活動する。


そして何より、鳴くこと。


位置座標、地下施設の深度、起動信号―。

それらを一定の周期と音階に変換し、遺伝的に継承させる。


「救助隊は解析できるだろう」


技術主任は言った。


「この音を聞けば、我々の場所がわかるはずだ」

「だが、長い年月で変異したら?」

「少々の誤差は想定済みだ。重要な部分は単純化してある」


試作個体は小さかった。

透明な膜を持つ翼。硬質な外皮。

普段は地下でほとんど動かずエネルギーを蓄え、長い時間を眠るように過ごす。


だが、季節が来れば地上へ現れ、樹木の高所で大音量の信号を送る。


その寿命は短い。


鳴き終え、次世代を残せば役目を終える。


「完璧だ」


誰かが言った。


「千年後でも、きっと待っていてくれる」


そして乗組員たちは地下施設で眠りについた。

救助を信じて。


長い、長い時間を。


 


それから遥かな後の時代。


この星の住民たちは、暑い季節になると現れる奇妙な生き物に悩まされていた。

何年も姿を見せず、ある年に突然、大量発生するものもいる。

木にしがみつき、耳を塞ぎたくなるほどの音を出す。

子どもは抜け殻を集め、学者は生態を研究した。


うるさいが、季節を告げる存在。


誰も気づかなかった。


あの鳴き声が、数百年越しに繰り返される


遭難者たちの救難信号だったことに。

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