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第115話 儀式当日 遠くから届く祈り

その日、日本中の花の乙女たちが、空を見上げて息を潜めていた。

日本中の白百合教会を中心に、レイラインの光が淡く脈打っていた。

中東の戦火がもたらした乱れは、まだ収まる気配を見せず、各地で感情の暴走が起き続けていた。

だからこそ、少女たちは自分の胸に宿る小さな花の力を、今日だけは全力で「送る」ことを選んだ。


北海道の小さな町、雪の残る窓辺。

白藤家の遠縁に当たる17歳の少女・雪花は、窓から南の空を見つめながら両手を胸の前に合わせていた。

彼女の胸元で、淡い雪華のような光の粒子がゆっくりと舞い上がる。


「桜良様……紡さん……

どうか、今日の満開で、私たちのレイラインを……強く、優しく繋いでください……」


雪花の祈りは、雪の結晶のような柔らかな光となって、空高く舞い上がっていった。


京都の古い町家。すみれ野家の血を引く16歳の少女・紫音は、庭の小さな祠の前に座り、目を閉じていた。

肩までの明るいすみれ色の髪が、風にそよぐ。


「ゆかり先輩とあかりさんが満開を果たしたように……

桜良様と紡さんも、きっと美しい満開を迎えてくれるよね……

私のすみれの光も、ちゃんと届いてますように……」


彼女の周囲に、淡い紫色の小さな花弁が浮かび上がり、南東に向かって流れ始めた。



九州の海岸沿いの学園。

橘家の18歳の少女・陽葵は、教室の窓から遠くの空を眺めながら、友達と手を繋いでいた。

黄金色の瞳に、強い願いを込めて。


「楓先輩と玲奈先輩が支えてくれたように……

今日、桜良様と紡さんが大守り人への道を歩むなら……

私たちの藤の光も、橘の明るい光も、全部送るよ……

世界が、少しでも優しくなりますように……」


二人の間から、淡い藤色と明るい白い光の粒子が、まるで波のように南へ向かって飛んでいった。


沖縄の離島。鈴蘭家の血筋を持つ15歳の少女・鈴は、珊瑚の砂浜に座り、両手を空に向けていた。

水色の短い髪が海風に揺れる。


「ひより先輩と詩織先輩が交花を深めているように……

桜良様と紡さんも、きっと心を通わせて満開を迎えてくれる……

私の鈴蘭の、静かな光も……どうか届いて……」


鈴の祈りは、青みがかった小さな光の鈴となって、長い距離を越えて白百合教会へと飛んでいった。

日本全国、老若問わず、数えきれない花の乙女たちが、それぞれの場所で祈りを捧げていた。ある者は家族と手を繋ぎ、ある者は一人で部屋の隅で、ある者は学校の屋上で。

誰もが「次期大守り人が誕生するかもしれない」という期待と、「レイラインの乱れを正し、今後の安定を」という願いを胸に、自分の花の力を送り続けていた。


その祈りの光は、空を越え、レイラインを通って一斉に白百合教会へと集まっていた。


教会の内部では、祭壇の前に白百合 桜良と桜庭 紡が静かに立っていた。

桜良は気高い黒髪を腰まで流し、紫銀の瞳に全国から届く光の温かさを感じ取っていた。

紡は小柄な体をまっすぐにし、琥珀色の瞳を優しく細めながら、周囲の祈りの粒子に包まれていた。麗華が厳かに声を上げた。


「今、この瞬間……日本中の花の乙女たちが、あなたたち二人の満開を祈っている。

その想いを受け止め、乱れたレイラインを正し、未来への安定を……

白百合 桜良、桜庭 紡……儀式を、始めなさい」


カンナは新・次期当主として、静かに微笑みながら二人を見つめた。


「全国の光が、あなたたちを後押ししているわ。

恐れずに、互いの花を……深く重ねて」


桜良は紡の手を優しく握り、静かに言った。


「紡……感じる?

遠くから、たくさんの花の想いが……私たちに届いているわ」


紡は桜良の手を両手で包み込み、敬語で、しかし心からの喜びを込めて答えた。


「はい、桜良さん……

とても温かくて……優しい光です。

私たち、みんなの想いと共に……満開を迎えましょう」


二人は祭壇の中央で額をそっと触れ合わせた。その瞬間、全国から集まった無数の光の粒子が、二人の周囲で美しく輝きを増した。

白百合の清らかな光と、桜の柔らかな光が混じり合い、ゆっくりと蔓のように絡み始める。日本中の花の乙女たちの祈りが、二人の花を優しく、力強く後押ししていた。老若問わず、すべての乙女たちの想いが、今日という日に集結していた。満開の瞬間は、もうすぐそこにあった。




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