表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日々の空の切り取り線  作者: 夏の月 すいか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/5

203号室についての話

 私は現在二階建て安アパートの二階におよそ十三年間一人で暮らしています。    

 隣室203号室に住んでいるのは無口な初老の男性で、彼は生活保護で暮らしている、と階下103号室の、やはり初老の男性に聞きました。203号室と103号室の男性はお互いに嫌い合っており、郵便受けに張り紙を貼って言い争っていました。どちらの男も私が入居する前から暮らしている、かなりの古株です。

 103号室の主張では、203号室の男が夜中でもドスンドスン音を立てて嫌がらせをしてくるそうです。

 ちなみに103号室の男はごみ捨て場の番人を気取って、住民の捨てたゴミ袋を漁ってくるので、私はどっちもどっちなのだと思います。

 203号室の男は通路ですれ違うときも無言ですが、感じが悪い訳ではなくただ無口なだけで、すれ違い方からも気遣いが感じられるので103号が言うことが信じられません。しかし張り紙の文言は別人のように荒々しいので、二面性があるのでしょう。

 ただ、このアパートは壁が薄く、隣室や階下のくしゃみや咳の音ですら聞こえてくるのですが、夜中のドスンドスンした音などただの一度も私は聞いたことがありません。もっと言うと、隣人の生活音、物音ですらほとんど聞いたことがありませんでした。逆隣室の若者の歌声やら話し声やらがうるさいのに比べ、大変静かで助かっていたのです。

 203号室の男に対して一つだけ気になるのは、203号室の玄関ドアが夏でも冬でも朝でも夜中でも常に24時間開きっ放しなのです。

 私は203号室の手前の部屋なので、自ら覗きに行かないと部屋の中の状況は判りません。モラルやマナーの観点から、私は一度も覗きませんでした。もし覗いたのが隣人に見つかったらという恐ろしさもあります。

 203号室の男がいつの間にか引っ越しました。特に親しい訳ではないので挨拶はありませんでした。不閉の玄関がいつの間にか閉まっており、郵便受け口は不動産会社のテープが貼られていました。

 男が引っ越した翌々月、203号室に新たな住民が引っ越してきました。

 どんな人が引っ越してきたかは分かりません。まだ一度も会っていませんが、ゴトゴトとした生活音が聞こえてくるようになり、郵便受けのテープも剥がれていました。玄関ドアは閉まっています。

 なのですが、最近は203号室の玄関ドアが開いていることがあります。私が深夜に仕事から帰宅すると、開いているのです。だんだんと頻度が増えてきたのが気がかりです。ドアを開けておかねばならない何かが203号室にはあるのでしょうか。明日の朝も開いているか、仕事に出る際に確認しようと思います。

 

 これを書いていて、今思い出したことがあります。

 閉まらずの203号室の玄関が一度だけ閉まっていたことがありました。

 それはある日の夜11時、私の部屋のインターホンが鳴りました。

 そんな時間に訪れる者の心当たりなどありません。小心者の私は正直、かなりビビりました。そのとき私は玄関を背に座っていました。背中からほんの二メートル先の玄関をノックする音が聞こえます。

 怖さで体が上手く動かないながらも振り返り、モニターを確認すると見知らぬ女性が映っていました。 

 ドアをノックする音が続きますが、私は居留守を使うことにしました。息を殺して女性がいなくなるのを待ちました。モニターに映っていると距離を感じませんが、ノックの音が二メートル先のドアから直接耳に入ってくるので、それがとても生々しく恐ろしく感じました。夜中にドアを隔てて見知らぬ女性がいるという状況がやけに怖いのです。

 ノックとともに女性の声が聞こえ始めました。

 「・・・ください・・・・。・・・・下さい・・・」

 何か言っていますが「ください」しか聞き取れませんでした。

 やがて女性は諦め階段の方に向かい、モニター画面も切れました。少しして、ようやく室内の空気が普段のものに戻りました。

 その翌日から数日間だけ、203号室の玄関ドアが閉まるようになりましたが、そのうちまた開くようになっていました。

 

 女性と玄関ドアには普通に考えて関係があるとは思えませんが、何故かそのときは女性は203号室側から来て、反対側の階段の方に去って行った。203号室から何かが去って行ったと感じたんです。

 後日、友人にこの話をしたときに、「・・・・ください・・・」が「魂くださいだったらホラーだよね」と言ったら、「『ごめんください』じゃね?」と言い返され、なるほどと思ったことをはっきり思い出しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ