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婚約破棄された悪役令嬢、有能すぎてなぜか王国で一番忙しくなる

作者: ピラビタ

婚約破棄された。


場所は王立学園の舞踏会。

相手は王太子。

原因は平民ヒロインへの真実の愛。


――はいはい、知ってる。


私はカトリーナ・フォン・エルヴァイン。

公爵令嬢で、悪役令嬢。

この世界に転生してから十七年、ようやく来た「例のイベント」だ。


正直、遅い。



 


「カトリーナ。君との婚約は破棄する」


王太子レオンハルトは、申し訳なさそうな顔をしていた。

隣には、少しおどおどしたヒロインのリリィ。


会場はざわつき、

皆が私の反応を待っている。


泣くか。

怒るか。

ヒロインを罵るか。


――どれも、やらない。


「承知しました」


私はそう言って、一礼した。


それだけ。


一瞬、会場の空気が止まった。


「……それだけ?」


レオンハルトが思わず聞き返す。


「他に何か?」


「いや、その……」


私は内心で思った。


(これで国外追放とかなら楽なんだけどな)


 


結果から言うと、追放はなかった。


理由は簡単だ。


私がいなくなると、

王国の実務が回らないから。


……いや、私も意味が分からなかった。


 


数日後、王城。


「君が裏でまとめていた予算案だが」


宰相が言った。


「非常に分かりやすい。

誰が作った?」


「……私です」


「やはりか」


宰相は深く頷いた。


「最近、会議がやけにスムーズだと思っていた」


(え、私、そんなことしてた?)


思い返せば、

王太子の尻拭いで書類整理をしていただけだ。


貴族の無駄遣いを削り、

意味不明な補助金を切り、

横領っぽいのを端にまとめただけ。


(破滅回避のためだったんだけど)


 


その結果。


「カトリーナ嬢、少し手伝ってくれないか」


「……何をです?」


「王国全体の行政改革」


「重くないですか?」


「重い」


私は静かに天井を見上げた。


(婚約破棄された悪役令嬢の進路って、これなの?)


 


一方、王太子はというと。


「最近、誰も助けてくれない……」


会議で完全に詰んでいた。


私は助けない。


もう婚約者じゃないから。


すると周囲の評価が変わった。


「カトリーナ嬢は感情に流されない」

「仕事ができる」

「むしろ殿下より頼れる」


……聞いてない。


 


リリィが、ある日こっそり話しかけてきた。


「ご、ごめんなさい……」


「何がです?」


「私のせいで……」


「違います」


私ははっきり言った。


「あなたは何も悪くない。

ただ、殿下は仕事が苦手なだけです」


「えっ」


「恋愛と統治は別です」


リリィは、ぽかんとしていた。


その後、彼女は王城を去り、

平民として静かに暮らし始めた。


……賢い選択だと思う。


 


数か月後。


私はなぜか、宰相補佐に任命されていた。


肩書きだけは立派だが、

やっていることは相変わらず書類整理だ。


ただし規模が国になっただけ。


「……悪役令嬢って、こんな役でしたっけ」


誰も聞いていないのをいいことに、つぶやく。


 


ある夕方。


仕事帰りに城を出ると、

レオンハルトが一人で立っていた。


「カトリーナ」


「何でしょう」


「……戻る気はないか」


「ありません」


即答した。


「私は今の方が楽しいので」


「君がいないと、国が回らない」


「それは殿下の問題です」


私は少しだけ笑った。


「婚約破棄、感謝しています」


「……え?」


「あれがなければ、

私はずっと尻拭い役でしたから」


 


その後。


私は忙しいが、平和だ。


悪役令嬢でもなく、

王太子の婚約者でもない。


ただの、

仕事ができる元悪役令嬢。


破滅フラグは、

特別なことをしなくても折れるらしい。


距離を置いて、

期待を捨てて、

淡々と生きるだけで。


「……案外、悪くない」


今日も私は、静かにそう思っている。




それからしばらくして、私は自分の立場について改めて考えることになった。


理由は簡単だ。


忙しすぎる。


 


朝は王城で会議。

昼は各地から届く報告書の精査。

夕方は予算調整。

夜は「これ、誰が承認したの?」という書類の山。


「……婚約者時代より明らかに労働時間が増えているのですが」


机に突っ伏しながらつぶやくと、隣で書類を仕分けしていた宰相が顔を上げた。


「気のせいでは?」


「いいえ。確実に増えています」


「では、なぜ辞めないのです?」


私は少し考えた。


「……やる人がいないから、でしょうか」


宰相は一瞬だけ目を細め、何も言わずに書類へ戻った。


(あ、これ肯定だ)


 


私がやっているのは、派手な改革ではない。


誰が見てもおかしい数字を直す

責任の所在をはっきりさせる

仕事を仕事として割り振る


それだけだ。


ただ、それだけで王国は目に見えて回り始めた。


「今まで、何でこれが出来ていなかったんだろう……」


地方貴族からの礼状を読みながら、思わず口に出る。


「“誰かがやるだろう”で放置されていたからでしょう」


答えたのは、いつの間にか部屋に入ってきていた執務次官のリオンだった。


「……足音」


「失礼しました」


彼は悪びれずに言った。


「でも、本当に助かっています。

あなたが来てから、現場が混乱しなくなりました」


「それは、良かったです」


私はそう答えながら、内心少しだけ不思議に思っていた。


(私、悪役令嬢だったはずなんだけどな)


 


ある日、王城の廊下で元王太子――レオンハルトとすれ違った。


彼は以前より、少しやつれている。


「……忙しそうだな」


「それなりに」


「君がいなくなって、分かったことがある」


私は立ち止まった。


「私は、支えられていたんだな」


「そうですね」


即答した。


「主に、書類と現実面で」


「……容赦ないな」


「今さらです」


彼は苦笑したあと、静かに言った。


「それでも、君が幸せそうで良かった」


私は少し考え、答えた。


「幸せというより、納得しています」


期待しない。

無理をしない。

感情で動かない。


それだけで、人生は随分と楽になる。


 


その日の帰り道。


夕焼けを見ながら、私は歩いていた。


気づけば、足は自然と城の外へ向かっている。


「……そろそろ、潮時かもしれませんね」


王国は回り始めた。

私がいなくても、きっと大丈夫だ。


そう思えるようになったのは、悪くない変化だと思う。


 


数日後、私は辞表を出した。


宰相は何も言わず、受け取った。


「次は?」


「まだ決めていません」


「では、決まったら知らせてください」


「なぜ?」


「貴方を放っておくと、また国が忙しくなりそうなので」


……信用なのか、何なのか。


 


今、私は小さな町にいる。


仕事は、ほどほど。

生活は、静か。


隣でリオンが、のんびりと紅茶を淹れている。


「ここ、気に入っていますか?」


「ええ」


私は正直に答えた。


「悪役令嬢をやっていた頃より、ずっと」


彼は少し笑った。


「それなら、良かった」


私は窓の外を見て、静かにつぶやく。


「破滅しなかった人生も、

案外、悪くありませんね」


 


悪役令嬢だった私は、

今日も穏やかに、生きている。


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