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71.客室露天風呂

客室露天風呂は思っていたよりも広くて、大人が4人くらいが足を伸ばしても入れる広さはあった。

湯船に浸かって2~3分で楓がお盆に徳利とお猪口を乗せて運んできてくれた。


「バスタオルを巻いて入るの?」


「うん、だってこれ取ったら、誠司が興奮してゆっくりお酒を楽しめなくなるでしょ?」


なるほど、確かに楓の言うとおりだ。しかし、今の姿でも十分に扇情的だということを楓は自覚していないようだ。楓はゆっくりお風呂に入りたいようなので、今は自制することにしよう。

楓が湯の中に入ってきて、俺の隣に座って酒の乗ったお盆を湯に浮かべた。元の時代のテレビドラマで見て、一度やってみたいと思っていた。


「楓も一緒に飲むの?」


「うん、初めてお酒を飲んでみます!」


「楓はまだ19歳だからダメだよ」


「誠司がいない間に酒とタバコの規制が18歳までに引き下げられたんだよ。聞いてなかったの?」


「うん、こっちのことは全て悠斗と翔たちに任せてたからね」

    

「そっかそっか。ヨーロッパからの移民が多くて、あっちでは規制がないか、あっても16歳とか18歳からお酒飲めるからさ、20歳からの規制を守らない人が多すぎて、翔さんたちが未成年者飲酒禁止法を改正して18歳に引き下げたんだよ」


「そうなんだ。現状と合ってない法律なら変えた方が良いもんね。じゃあ、これからは楓と酒が飲めるということか。なんか嬉しいな」


「誠司のために今日までお酒は飲まなかったんだよ。楓の初めては全部誠司と一緒にしたいなって思ったから」


俺は楓があまりに可愛いので、耐えられずに唇にキスをした。


「突然どうしたの?お酒こぼれちゃうよ」


「楓があんまり可愛いから我慢できなくなった」


「嬉しいけど、そういうのは後でゆっくりしよう?」


「はい。じゃあ、早速酒を注がせてもらうからお猪口を持って」


楓が持ったお猪口に徳利から酒を注ぐと、今度は楓が俺のお猪口に酒を注いでくれた。


「「乾杯」」


二人で一気にお猪口の酒を飲みほした。


「わぁ~。お酒ってこんな味なんだ。なんか喉が熱い」


「初めてのお酒で日本酒はキツイかもね。でも、美味しいよこのお酒。辛口ですっきりしたフルーティーな風味がいいね」


「良かった。誠司の名前のお酒なのに誠司に気に入ってもらえなかったら、どうしようかと思ったよ」


「ありがとう。じゃあ、もう一杯どうぞ」


 最初の一杯目は一気に飲み干した楓だったが、2杯目からは舐めるようにチビチビと飲みはじめた。


「せっかくオーシャンビューなのに夜だと真っ暗で海見えないね」


「見えないね。でも、波の音が聞こえるし、美味しいお酒もあるし、隣には若くて美人な奥さんがいるから俺は最高の気分だよ」


「また長く待たされると若くなくなっちゃうから、次は早く帰ってきて欲しいな」


「ベルヒテスガーデンの状況が落ち着いたら帰れると思うんだけど、これから着手するから正直なところいつになるか分からないんだ・・・」


楓は俯いてしばらく何かを考えてから口を開いた。


「ねぇ、やっぱり次は楓も付いて行っても良い?ドイツと講和して戦争は終わったんでしょ?」


「日本との戦争は終わったけど、ドイツはまだ西側連合国と戦争中だから、まだヨーロッパは危険なんだよ。もし西側連合軍が日本の通達を無視して、ドイツの国境を越えてきたら、今度は西側連合国対欧州王国連合と日中ソ連合の戦争になる。そうなったら、欧州全体が戦禍に飲み込まれ、今よりも危険になると思うんだ。だから、楓は安全な日本で待っていて欲しい」


「もし、そんなことになったら日本だって安全じゃなくなるよ。アメリカが日本に攻撃して来るかもしれないもん。どこにいても危険なら誠司と一緒にいたい!」


「そうだけど、楓は日本での仕事があるだろ?」


「日本での仕事は梢がいるから、ボイスチャットで打合せができれば大丈夫。楓は新しく日本の領土になるベルヒテスガーデンに支社を作って仕事するから。お願い!もう誠司と離れるのは嫌なの!楓を一人にしないで!」


楓はそう叫ぶと俺の首の後ろに手を回して抱き着いてきた。そして、そのまま静かに泣き始めた。不謹慎かもしれないが、風呂の中で楓に抱き着かれて俺も頭がぼーっとしてきてしまった。断れる理性がもう残ってない。


「分かったよ。じゃあ、一緒に来ても良いけど、あっちは危険だから勝手な行動はしないで、ちゃんと俺の言うこと聞いてくれる?」


「うんうん!ちゃんと誠司の言うこと聞きます」


楓は抱き着いたままコクコクと何度も頷いている。結婚したばかりなのに1年半も待たせて、帰って来たと思ったら次いつ帰るか分からないって言われたら、さすがに不安になるよな。確かにドイツは危険だけど、ワルシャワかプラハならもう大丈夫だろう。


「じゃあ、来週にはまた向こうに戻るけど、それまでに準備できる?」


楓が体を離して、俺の目を見ながらヒマワリの様な眩しい笑顔を見せてくれた。今まではやっぱりどこか寂しそうな顔をしていたが、今の笑顔は楓の本当の笑顔な気がする。


「大丈夫!明日から動けば間に合うから、休暇は中止にしても良い?あっ、もちろん誠司は一人で休んでても良いけど、一緒に家には帰ってね!」


「あ~、今警備してくれてる部隊は?明日休暇予定なんだけど」


「ここに残ってもらって楓達だけ先に帰ればいいんじゃない?」


「まぁ、そうか。じゃあ、明日帰りうか」


「やったぁ!ありがとう!明日東京に戻るから、もうお布団いこ?」


「押忍!」


朝目覚めると、隣で一緒に寝てたはずの楓がいなかった。

サイドテーブル上に置いてある時計を見ると、まだ朝の7時を回ったばかりだ。俺は楓を探してリビング移動すると、探すまでもなく、すぐに見つけることができた。こんなに早い時間から楓と梢がリビングルームのテーブルで仕事の打ち合わせをしているようだ。


「誠司、おはよー。ごめんね、梢と打ち合わせがあるから一人で朝ご飯食べてね。朝食は本館でバイキングだよ」


「朝から大変だね。じゃあ、行ってくるよ。頑張ってね」


本館のレストランに行くと、護衛部隊の隊員が朝食を食べていたので、俺も隊員に混じって朝食を食べた。この部隊とはヨーロッパでも常に行動を共にしているから、もう家族みたいなものなので、何の気兼ねもなく隊員が座っているテーブルに座った。

彼らも慣れているので、俺が一緒のテーブルになっても普通に話しかけてくれて、雑談をしながら飯を食べている。

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