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67.帰国報告

1943年12月24日 東京都 陸軍省本庁舎


約1年半振りに庁舎に入ると、多くの部下達から声をかけられたので、自分の執務室に着くまでにえらい時間がかかった。

楓との約束は3時間なので、時間は厳守しなければならない。俺が不在の間は陸軍副大臣が代わりに業務を行っていたので、仕事が溜まっているということもなく、ヨーロッパでの報告書もすべて部下達が作成して定期便で陸軍省に送っているので、俺が防衛省でやらなきゃいけない仕事は部下や先輩方への挨拶回りだけだった。幸いにも楓が一緒にいたおかげで相手が気を使ってくれて長話にはならなかったが、人数が多いので、庁舎を出るときには2時間が経っていた。

俺に与えられた時間はあと1時間しかないので、急いで悠人のところに向かった。皇居に着くと見知った近衛兵が門の警備をしていたので、すぐに執務室に案内してくれた。


「やぁ、誠司、久し振りだね。楓ちゃんも久し振り。今、お茶持ってきてくれるから座ってよ」


楓と2人で応接セットのソファーに座り、悠人が金の菊花紋章が印刷された木箱を持って対面のソファーに座った。


「これ、楓ちゃんからもらったどら焼きだけど食べる?」


「もらおうかな。和菓子は久し振りだしな」


木箱からどら焼きを1つ取って食べてみたが、特別美味しい訳ではなくコンビニ等でも売っているような普通のどら焼きだった。


「皇室献上品の高級などら焼きをなんだからもう少し美味しそうに食べて欲しかったな」


献上した楓が言うのだから高級なのだろうが、俺にはどこが違うのかいまいち分からない。


「あ、そうなの?どの辺が高級なの?」


「北海道の十勝小豆と、小麦も北海道の契約農家から直接仕入れている拘りの小麦なんだよ。あと、箱が高い」


「なるほど、貧乏舌の俺には味の違いは良く分からん。けど、箱が高いのは分かった」


「誠司はカレーにケチャップかけたり、ご飯に砕いたポテチ乗せて食べたり、変なものが好きだもんね」

    

変なものとは心外だ。カレーに途中からケチャップをかけたらハヤシライスみたいな味になって、カレーとハヤシライスが一度に楽しめるお得な食べ方だ。そして、ご飯に砕いたポテチを乗せて食べるのだって、丁度良い塩加減で美味いのだ。そこにマヨネーズをかけるのもポテトサラダ風になって美味い。それにサンドイッチにポテチを挟んで食べる国は結構多い。ご飯にかけるのもそれに近い感覚なのだ。ただ、今はその話をすると長くなるので反論はしないでおこう。


「まぁね。それで、今回のお土産はこれね」


持ってきたアタッシュケースをテーブルに置いて蓋を開けた。


「おぉ!かっこいい!金のルガーでしょ!」


「2つもらったから1つは悠人にあげるよ。もう一つは翔のお土産な」


「2つしかないのに、もらって良いのか?」


「あぁ、俺は普通のルガーも沢山もらったからそっちで大丈夫だ。メインウエポンはショットガンだしな」


「悪いね。それじゃあ遠慮なくいただくよ」


「あ、これもな。ルガー用のガンホルダー。上着の下に隠せるタイプのやつ」


「おお!いいね!すげー嬉しい!!大切にするよ」


「俺これから1週間休暇取ることにしたから、翔にも渡しといてもらってもいいか?」


「もちろん。1年半も楓ちゃんを放ったらかしにしてたんだから、ゆっくりしておいでよ。楓ちゃんも誠司に、1年半分しっかり尽くしてもらいなよ!」


「はい!陛下のお墨付きをもらったから、たっふ甘えてきます!」


そう言いながら楓は俺の腕に抱き着いてきた。


「これ以上お邪魔したら楓ちゃんに恨まれそうだね。休暇が終わって向こうに戻る前にまた寄ってよ。こっちにいる間に翔と3人で1回くらい飲もう」


「ありがとう。休暇から戻ったら連絡するよ」


「悠斗さん、気を使っていただき、ありがとうございました。今度オリジナルブランドのコーヒー豆を作ったから届けますね」


「そうやってまた皇室献上品って言って売るんでしょ?」


「バレちゃいましたね。じゃあ、そういうことなので、よろしくお願いしますね」


悠斗が苦笑いをしながら俺たちを見送ってくれた。楓は使えるものはすべて使うという持論を持っているので、天皇と言えでも使えるだけ使うのだろう。恐ろしい子!


ちなみに、先ほど楓が腕に抱き着いてきたが、皇居を出るときも、車に乗ってからもずっと離れてくれない。宮城を警備していた近衛師団の隊員も生暖かい目で俺たちを見ていた。

恥ずかしいから公共の場ではあまりベタベタしないで欲しいのだが、さすがに言える雰囲気ではないので、ここは我慢するしかなさそうだ。まぁ、恥ずかしささえ我慢すれば、嫌ではないしな。そう、断じて嫌な訳ではないのだ。


「なぁ、楓?」


「ん?」


「1週間あるし、伊豆でも行く?」


「えっ、行く行く!温泉いいね!うちのグループのホテルなら客室露天風呂付のオーシャンビュースイートが空いてるからそこに行こうよ」


「えっ?ホテルもあるの?」


「うん。半年前に買ってから全館改装して、先月リニューアルオープンしたばっかりだよ。買ってから自分では一回も泊まったことはなかったから、行ってみたかったの!」

    

俺の知らない間にSKグループはとんでもないことになっているようだ。観光事業にまで手を広げていたとは。現在の総資産を聞くのが恐ろしい気がする。


「じゃあ、俺の警護部隊も全員連れて交代で休暇をあげようかな。一回陸軍省に寄っても良い?」


「うん、いいよ。それじゃあ、ホテルに電話したいから、ついでに電話借りても良い?」


「いいよ」


「ねぇ、どうせなら椿と梢も連れて行っても良いかな?もちろん部屋は別だけどね」


「ああ、きっと喜ぶよ。久し振りの休暇だから、みんなで楽しもう!」


俺たちは陸軍省と自宅に寄ってから、約60人の大所帯で伊豆のホテルに向かった。今回は警護任務も兼ねているので陸軍の兵員輸送車を使わせてもらったら、陸軍の演習に向かっている気分になった。

伊豆のホテルに向う車両の中からゆっくりと景色を眺めていると、日本を出発する前には無かった牛丼チェーンが沢山あったので楓に聞いてみた。


「ねぇ、さっきからうちのグループの黄色い看板の牛丼屋の他に、赤い看板の牛丼屋がたくさんあるんだけど、あれ最近できたの?」


「あれは楓達の牛丼チェーンの真似をして展開を始めた、ニューヨークの投資銀行傘下の牛丼チェーンだよ。ニューヨークに支社があった日系や中国系企業の動きを見て、独自に危険を察知してニューヨークが爆撃される前にアメリカから資本を引き揚げてた唯一の投資銀行なんだけど、お金だけ沢山余っるところに、うちのビジネスモデルに目をつけて一気に出店してきたの。今は7対3でうちの店舗の方が多いけど、来年には追いつかれると思うよ」


「儲かってるとこを真似するのは当然のことだから仕方ないけど、アメリカやヨーロッパの金融資本が参入してくると、ますます日本の中小企業が競争で勝つのは難しくなるな」


「うん、ニューヨークやロンドンが世界の金融の中心として機能しなくなったから、実質東京が世界金融の中心だからね。世界中から人もお金もどんどん集まってるよ。だから、製造業の大規模化も急速に進んでて、元の世界にあった財閥系以外の企業はこの世界だと成功できないところも沢山あると思うよ。こういうのをタイムパラドックスって言うのかな」

    

タイムパラドックスか。俺達がこの世界に来たことで、本来の歴史が大幅に改編されているのは、今更な気もするから気にしないようにしているが、俺の両親が産まれなかったら姉も産まれないのか・・・。そう思うと喉の奥が詰まるようなそんな感覚になる。でも、俺の知っている姉は元の世界で生きているのだから、そもそも産まれなかった事にならないのが唯一の救いだ。

うちの両親は共働きで、両親はどちらも遅い時間まで帰って来なかった。

小さい頃はお婆ちゃんが一緒に住んでいて俺達姉弟の面倒を見てくれていたが、俺が小学校3年生で姉が4年生くらいの頃から、お婆ちゃんが癌で入院することになり、平日の夜はいつも姉と二人でご飯を作って食べるようになった。

遠足のお弁当も朝早くに起きて、姉の指示の下二人で作った。だいたい俺がおにぎり担当で、姉が玉子焼き担当、あとは冷凍食品を適当に詰めてただけのお弁当だったけど、自分たちで作ったお弁当は親が作ってくれたものより美味しく感じた。今考えるとなかなか逞しい小学生だった気がする。

俺が中学に入った頃からはあまり2人で遊ぶことはしなくなったが、それまでは毎日学校から帰ってから家でゲームをしたり2人で遊んでいたし、ホラー映画を見て怖くなったときは姉が俺の部屋に来て一緒に寝たりもしていた。

    

 中学になってからはあまり遊ばなくなったとは言っても、仲が悪くなった訳ではなく、お互い部活や学校の友達と遊ぶようになったことで、時間が合わなくなったというだけだ。

夜は一緒にamazonプレミアムの映画を見たり、姉が俺の部屋に来て一緒にゲームをしたり、どちらかと言えば仲の良い姉弟だったのかもしれない。だから、両親に会えなくなることより、家族の中では1番一緒にいる時間が長かった姉に一生会えないのが辛い。今更気が付いたけど、俺は若干シスコンなのかもしれない。


「誠司?聞いてる?」


「あっ、ごめん。東京の様子が1年半で随分変わったから驚いたよ」


ヨーロッパにいる間は何故か日本に戻ったら、元の世界の日本に帰れるんじゃないかという感覚になって、あまり寂しさを感じることはなかった。しかし、東京に帰ってきたら、やはり別の世界に来てしまったのだと実感し、姉のことを思い出して感傷に浸ってしまった。でも、折角一年半振りに日本に帰ってきて楓と一緒にいるのに、暗い顔をして楓を心配させる訳にはいかない。


「元の世界の東京よりもだいぶ国際的な都市になったよね。イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、アメリカ、中国出身が多くて、母国語がバラバラだから、日本語学校が流行ってるんだよ。これは先に始めてた楓達にアドバンテージがあるから、まだまだ一人勝ちできてるよ」


「商売のことは全部楓に任せて良かったよ。ちなみに、今のSKグループって日本全体だと何位くらいなの?」

  

「う~ん、成長率で言えば間違いなく楓達が一番だけど、時価総額で言えばまだまだ財閥系には遠く及ばないって感じだよ。それに、ヨーロッパから日本の財閥よりも大きい資本家がたくさん日本に本拠地を移したから、50位以内にも入ってないと思うよ。でも、あと1年もあれば50位には入れると思う」


「これだけ世界中から大企業が集まってるなかで50位って凄いことだよね。楓達は本当に凄いと思うよ」


「誠司のためだから頑張れるんだよ。だから、もっと褒めてね?」


自覚があるのかどうか分からないけど、腕に抱きついた状態からの上目遣いの楓が可愛すぎる。


「ありがとう、頑張ったね」


俺が自分の照れ隠しのために楓の頭をワシャワシャと撫でると「犬じゃないんだよ~」と言いながらも楓は嬉しそうにしていた。

一年半も帰国できなかったから、楓の気持ちが冷めたんじゃないかと帰る前は心配していたが、杞憂だったようだ。

俺たちがイチャイチャしていると、助手席に座っていた椿が咳払いをした。そして、楓の左側に座っていた梢が「ホテルでやれ」と呟いた。


二人の世界に入ってしまい彼女たちの存在が完全に意識の外にいってしまっていた。楓は「ん~?羨ましいのかな~?」と二人に嫌味を言うくらい気にしていなかったが、俺は少し恥ずかしくなったので、これ以上車の中でイチャつくのは自重することにした。

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